リスク担当役員メッセージ

丸山 秀三

島津メディカルシステムズの不正への対応

当社グループは、2022年に子会社の島津メディカルシステムズが不祥事を起こし、ステークホルダーの皆様に多大なるご迷惑をおかけしました。不正の原因となった課題を解決するため、再発防止策を着実に実行しています。また、再発防止策に加え、組織風土の改革、働きがいを高め不正の動機をなくす取り組み、現場で何が起きているかをモニタリングができるシステムへの投資を行っています。今後このようなことを二度と起こさないよう努めてまいります。

現場での経験を活かしたリスクマネジメント

私は1982年に当社に入社し、液体クロマトグラフの開発を経て、分析計測機器事業部長、海外販社社長などの経験を積みました。特に印象深い経験の一つは、事業部長時代、新型コロナウイルス感染症拡大の際に活躍した試薬とPCRの検査装置の開発です。開発部隊からは、開発中にパンデミックが終わってしまうため、開発リスクが高いという声が上がったのですが、トップダウンで通常2-3年かかるものを、7カ月間で開発しました。社員も短期間で開発できたことに自信を持てましたし、会社としても社会に貢献することができました。もう一つ印象に残っていることは、中国駐在時のコロナ禍のロックダウンです。2ヵ月間マンションに閉じ込められる経験をし、国によってリスク管理の方法が大きく違うのだなと思ったものですが、その時は、まさかその後自分がリスク担当の役員になるとは知る由もありませんでした。
中国から帰国し、2023年4月より、リスク担当役員に就任しました。就任当初は初めてのことも多く戸惑うこともありました。ただ、事業部長の時にも、何か問題が起こったら、すべてが終わってしまうと危機感を持って事業運営をしていましたので、リスクマネジメントの重要性は認識していました。これからも、現場での経験を活かし、リスクマネジメントを推進していきます。

中期経営計画初年度の総括と今後の展望

当社グループは、リスクマネジメント(事業に関わるリスク対策)と、コンプライアンス・内部統制(職務執行上のリスク対応)を有機的・一体的に機能させ、推進しています。リスクマネジメントは、グローバル共通で顕在化しているリスクを、リスクの高い順に取り組み、グループ全体のハイリスクを削減します。加えて、地域別、個社別のリスクを選定し、優先度をつけて、さらに時間を区切って計画を立ててマネジメントしています。
グローバル共通で重視しているリスクは、経済安全保障(サプライチェーン)、労働安全、サイバーセキュリティです。この3点に関しては、1年をかけリスク低減策の策定、準備を進めてきました。特にサイバーセキュリティに関しては、すぐそこまで迫っている危機と捉えており、DX・IT戦略統括部と連携し、対策を強化しています。また、サイバー攻撃の被害を受けた後、いかに早く復旧できるかという点もまとめています。地域別、個社別のリスクに関しては、リスク評価に基づいて重点取り組みリスクを設定し、対応策を策定しました。その後、内部監査室が約半数の海外子会社へ監査のために訪問し、私も海外現地に赴きリスク対応策を確認するなど、グローバルでリスクマネジメントを強化しています。
このように、中計初年度のリスク低減活動は、ほぼ当初計画通りに行うことができました。2年目である2024年度からは、グループ全体でリスク管理をより進化させるとともに、サステナビリティの強化を図ります。そのため、リスクマネジメント、内部統制、コンプライアンスを一つの部署にまとめ、統合リスク管理として推進し、潜在的なリスクの洗い出しとその防止策の策定・実行を進めます。また、リスク対応策の実施状況の適宜モニタリング、リスク対応の活動サイクル可視化などを推進し、必要な支援を行っていきます。

見えてきた課題と解決策

一方見えてきた課題もあります。一つ目は再発防止策の水平展開です。ここ数年発生した案件は、過去、他部署で発生した案件と類似しているものが大半です。リスク案件が発生した部門は、真摯に反省し再発防止策を講じるのですが、他部門は自分事になっておらず、残念ながら、再発防止策がきちんと機能していない面もあります。そこで、E-learningの実施やグループ内の議論を通じて、様々なリスク案件の情報共有を行い、リスク対応策に活用してもらうことにしました。
私は、リスクマネジメントにおいて特に重要なのは、組織内のコミュニケーションだと考えています。昨今、職場における心理的安全性がパフォーマンスに与える影響について重要視されていますが、まさにその通りです。自由・活発に議論ができる環境があって初めて、事業も回りますし、リスクも低減されます。各職場で必要な知識を学び実務に活かす「チーム学習」を実施し、議論を重ねたことにより、コンプライアンスに関する意識は高まっていると感じています。
課題の二つ目は、海外子会社には、リスクマネジメントを推進する人財が少ないということです。また、日本にある本社でグローバル全体を管理するのも難しい。そのため、2024年度から新設した各地域コーポレート本部が地域内のグループ会社のリスクマネジメント指導、内部監査などを行っていきます。既に地域コーポレート本部ではリスクマネジメント推進人財の強化を進めるなど、グループ会社のリスクマネジメント支援を行う体制の構築を始めています。

攻めのリスクマネジメントへ

コンプライアンスの遵守に関しては、倫理観を大切にする風土の醸成や各職場の風通しを良くして、心理的安全性を高めることが重要だと考えています。リスクマネジメント、コンプライアンス遵守は、守りの側面で捉えがちですが、心理的安全性を高めることにより、リスクを下げると同時に社員のエンゲージメントが向上するというプラス面もあります。当社グループは、守りだけでなく、プラスの一面を持った「攻めのリスクマネジメント」を推進していきます。

サステナビリティ経営の推進

現在、サステナビリティ経営が強く求められるようになりましたが、社是「科学技術で社会に貢献する」、経営理念「『人と地球の健康』への願いを実現する」は、まさにサステナビリティ経営そのものです。世界情勢は目まぐるしく変化を続けていますが、それらの変化を機敏にとらえ、先手を打って対策を講じるとともに、ガバナンスが利いた倫理性の高い企業風土の醸成と人財を培うことが私の役割です。サステナビリティ経営にゴールはありませんが、着実に当社グループをより良い会社に変革していきます。

取締役・上席専務執行役員
リスクマネジメント・環境経営(GX)担当
丸山 秀三

略歴

1982年 4月   当社入社
2004年10月   当社分析計測事業部 LCビジネスユニット統括マネージャー
2009年 4月   当社分析計測事業部 ライフサイエンス事業統括部
LCビジネスユニット長
2011年12月   Shimadzu Scientific Instruments, Inc(. アメリカ) 社長
2013年 6月   当社執行役員
2015年 6月   当社分析計測事業部長
当社常務執行役員
2019年 4月   当社専務執行役員
2021年 4月   島津(香港)有限公司 社長
2023年 4月   当社上席専務執行役員(現在に至る)
当社リスクマネジメント担当、環境経営(GX)担当(現在に至る)
2023年 6月   当社取締役(現在に至る)