島津製作所はクールでなくて良い
創業150周年を迎えた2025年、私が社外取締役を務めていることは大変名誉なことであり、島津製作所のさらなる成長に寄与する気持ちを新たにした。また、創業以来科学技術を追求して多くの画期的製品群を生み出してきた歴史を振り返る機会となった。近年も、強い技術力を活かして、分析機器をはじめとして優れた製品を生み出してきた。このような島津製作所のグローバル企業としての成長は、ライバル企業から警戒され、島津製作所の製品の強み弱みを研究されていることだろう。私は、製薬企業の出身だが、新薬の研究開発段階では特許情報などをもとに競合他社の新薬候補を徹底的に研究して、他社より優れた新薬の開発を目指したものである。従って、島津製作所のライバル企業は、主力事業の分析機器、中でも主力製品である液体クロマトグラフィーやマススペクトルについては、徹底的に島津製作所製品を研究した上で新製品を投入してきているだろう。これはグローバルな競争では当たり前のことであり、この競争を避けるのならブルーオーシャンのニッチな領域を攻めるしかない。一方、新製品の売り上げ寄与率が最近低下しているというデータがあり、心配をしている。それが製品力によるものであればなおさらである。新製品を生み出すための研究開発は泥臭い地道な努力の積み重ねである。島津製作所はクールである必要はないと私は思う。それを150年の歴史が語っているのではないだろうか。
社外取締役 花井 陳雄

刻々変化する情勢に対してより機動的な対応を
2025年3月、島津製作所は創立150周年というひとつの節目を迎えました。改めて創業者島津源蔵翁をはじめ、先人の卓越したフロンティア精神に敬意を表したいと思います。足元の業績は、ここ数年続いてきた成長トレンドにやや陰りが見え始めています。積極的な研究投資、米国の関税政策リスクなどを織り込んでいるとはいえ早急な対策が望まれるところです。
昨年この欄で挙げた2つの課題、すなわちグループガバナンス、新基幹システムの構築に関しては一定の進展が見られたと思います。特にグループガバナンスは4拠点体制が整備され、今後さらなる管理体制の充実が図られるものと期待しています。
2025年度が最終年度となる中期経営計画に関しては、その進捗状況を確認するにつけ、各事業部は掲げられた戦略やそれを実現するための戦術に対して真摯に取り組んでいるものの、それらが事業全体の成長に向けた大きな潮流に結びついているか?やや心許ないところがあります。言い換えれば、一つひとつの戦術は精緻に設定されていますが、それら(個々の木)に囚われるあまり、最終的に目指す姿(森)を見失っていないか危惧されるケースも散見されます。
情勢は刻々と変化しています。合理的に成果を導き出すためには、よく言われる「人、物、金」に加え「時間」も効率的に配分することが必要です。決して総花的な取り組みに陥らず、時にはよりメリハリの利いた資源配分を促すため、機動的に方針を再検討することも必要だと思います。
この執筆も5回目になり、様々な切り口で意見を述べてきました。結びは毎年同じことになりますが、事業遂行上のリスクを適切にモニタリングすると同時に、よりスピーディーで、よりダイナミックな事業展開を後押しできるよう提言していく所存です。
社外取締役 中西 義之

「100年に一度の変革期」を機会に ― 150年の歩みを未来へつなぐ
島津製作所は2025年、創業150周年という大きな節目を迎えました。明治維新後の時代の転換点において、創業者・島津源蔵は家業の仏具屋をたたみ、科学技術への強い関心と探究心をもって新たな事業に挑みました。
現在、島津製作所はリカーリングビジネスの成長を通じて、安定したキャッシュ・フローを確保できる企業へと進化を遂げています。こうした安定性こそが、今後の成長に向けた挑戦を支える土台であり、イノベーションに向けて“計算されたリスク”を取るための力になると考えています。
今、私たちは「100年に一度の変革期」とも言われる時代にいます。この激しい変化の中で、創業期にあったベンチャースピリットを再認識し、一人ひとりが業務や組織のあり方を見直す絶好の機会が訪れています。150周年という節目は、まさにその出発点となるべきです。
中期経営計画2年目となる2024年度は、利益面で厳しい状況に直面し、株価も最高値から大きく下落しています。将来を見据えた施策として、グローバルで統一されたエンゲージメントサーベイの導入や、米国でのR&Dセンター設立などようやく実現できたことは評価に値します。また、急成長するインドビジネスの将来を見据えて、現地での生産体制の確立なども着実に前進しています。
一方で、収益性向上に向けた事業ポートフォリオの見直しや、リカーリングビジネスの拡大には、より戦略的な視点と大胆な組織変革が求められます。京都本社からすべてを管理するのではなく、お客様に一番近いチームがよりリーダーシップを発揮できる体制を取ると島津製作所はもっと強くなれると感じます。
2026年度には新たな中期経営計画が始まります。取締役会は適切なキャピタル・アロケーションを行い、次の100年につながる変革と成長を実現できるよう、期待と責任をもって取り組んでまいります。
社外取締役 濱田 奈巳

ESG戦略の深化とその実行力の強化に向けて
2025年、島津製作所が創業から150周年という大きな節目を迎えた中、社外取締役としてこの場に貢献できることを大変光栄に思います。変化する社会環境の中で、持続的な事業成長と中長期的な企業価値の向上を達成するためには、ESG戦略の深化とその実行力の強化がますます重要であると実感しています。
特に、日本国内のみならず海外での成長を加速するためには、グローバル人財の獲得・育成、リーダーシップへの登用、そしてDE&I (ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の推進が不可欠です。社員一人ひとりが多様性を尊重し、個々の違いや強みを組織の力として最大限に活かすことで、島津製作所の卓越した科学技術をもとに、新たな製品やサービスを生み出し、海外の現地ニーズに的確に応えることが期待されます。
また、取締役会は、多様な視点で積極的に議論し、提案を行える活発でオープンな場として機能しています。さらに、社外取締役への事前説明や工場・事業所見学など、情報提供の充実により透明性が確保され、合理的で公平な意思決定や適正なリスクテーキングを支える体制が整っています。今後、重要なテーマに議論を集中させる体制を一層強化することで、議論の質を向上させ、取締役会における健全なガバナンスの維持と効率化をさらに進めていけると考えています。
私自身、社外取締役として公平な立場からガバナンスの強化に尽力し、持続可能な未来の実現に向けた責任を果たしてまいります。
社外取締役 北野 美英
