イノベーションを生み出す多様性のある組織づくりに向けて
当社は、社是である「科学技術で社会に貢献する」のもと、創業以来社会課題の解決に貢献してきました。中期経営計画でも、“世界のパートナーと共に社会課題を解決するイノベーティブカンパニー”として、持続的な成長を目指し、様々なことに取り組んでいます。その中でもダイバーシティ経営は当社の重要テーマです。当社のダイバーシティの取り組みは古く、1948年の産前・産後休暇、育児時間、生理休暇導入に遡ります。それ以降も様々な制度の導入や働き方改革を進め、2015 年には 「WiSH プロジェクト」を発足、女性活躍を軸に本格的なダイバーシティ推進が始まりました。 2022 年度よりD&I 推進組織を設置し、現在はエクイティ(E)を加えDE&Iとして取り組みを推進しています。
昨今、多くの企業が企業戦略としてダイバーシティに取り組んでいます。不確実性の高い環境下での企業の成長においては、日本企業に多い同質性の高い組織から多様性のある組織に変わることが不可欠です。当社においても科学技術や事業環境は目を見張るスピードで進化しており、更なる多様性のある組織づくりは急務です。同質性の高い組織に存在する認知バイアスに気付き、多様な視点や考えにより意思決定の質を向上させることが必要です。DE&I推進により属性の多様性のみならず、認知的多様性を高め,イノベーションの創出,社員のエンゲージメント向上,さらには当社の持続的成長と価値向上を目指します。
D・E・Iからみた現状と課題
ダイバーシティ(D)については、女性活躍に加え、定年延長や海外子会社との人材交流など多様な人財の活躍とともに社員の専門性の獲得やスキル向上など属性によらない知と経験の多様性に向けた活動を強化しています。女性管理職比率の向上は課題であり、採用強化や若手の育成など目標達成に向けて取り組んでいます。またエクイティ(E)の面では、一人ひとりの状況に応じた働き方を支援する制度を日々充実させている一方で、現場レベルでのマイノリティへの理解や支援という点ではまだ十分とは言えず、エクイティの理解浸透は課題です。特に一人ひとりがスキルや強みを活かし貢献実感をもつインクルージョン(I)の観点では、最近の調査において「ありのままの自分でいられる(自分らしさ)」や「誰もが潜在能力を最大限発揮できる(機会の公平性)」について課題があることが明らかになりました。
エクイティ(E)やインクルージョン(I)の実現に向け、社員一人ひとりのDE&Iの自分事化を促進し、“違いを理解し活かす“マネジメントの実践、さらに一人ひとりがスキルや強みを活かすためのキャリアオーナーシップの醸成への取り組みを強化していきます。
DE&Iの自分事化+対話を通じ『個』の力を組織の力へ
DE&I推進には社員の正しい理解と自分事として向き合うことが重要であると考えています。社員への理解浸透にあたっては、現中期経営計画の人財戦略において、当社が求める人財を島津人と定義し、多様性をその要件の一つとして、従来の管理職や新人向け研修にもDE&Iプログラムを導入しました。また自分たちの立ち位置を認識するため、2024年度より各部署のダイバーシティに関するデータを公開していきます。例えば、男性育休比率など、自部門の立ち位置を知ることで、あるべき姿を考えるきっかけになると考えています。
また社員が前向きに取り組むためには、会社からの強いメッセージも重要です。2023年度は全役員から社員へ向けてDE&Iのメッセージを発信しました。発信にあたり役員向けにDE&I調査も実施し、調査を通してあらためてDE&Iについて考える機会を設けました。今後もこうした情報発信を継続的に実施したいと考えています。
こうした取り組みとともに、今後強化したいこととして『対話』があります。一人ひとりが対話力を磨き、対話を通じてハイコンテクストな文化を打破し、異なる経験や価値観、考えをお互いに理解しあうことで、共感を生み、『個』の力を『組織』の力に変えていく、そうした機会を増やしていきます。
一人ひとりのキャリアオーナーシップ醸成に向けて
女性活躍においてはキャリアオーナーシップも課題です。女性からは「自信がない」「リーダーには向いていない」「キャリアが描けない」といった声を聞きます。しかし、これは男女問わずの課題でもあり、過去の調査では、当社社員において「キャリア展望が低い」という課題が見えてきました。この点においては、キャリアパスの見える化と実践の場として社内公募や新たな人事制度を導入しています。こうした制度がスキル・知識の習得やキャリア教育など育成の仕組みと連動することで、DE&Iの要であるキャリアーオーナシップを醸成し、社員一人ひとりが、『個』の力を“高める・活かす”の好循環につなげたいと考えています。
グループ全体でDE&Iを企業文化に
現在DE&I活動のグループ展開も進めています。DE&Iにおいて推進すべき課題は国や地域によりさまざまです。まずは島津グループのDE&Iの考え方や目指す姿を共有し、各社におけるDE&Iの施策・KPI策定を支援し、ともに推進していく取り組みを開始しました。グループでの取り組みにあたり、スローガン“Embrace Differences , Include One and All”を定め、当社のDE&Iを定義しました。今後グループ全体でと取り組みの状況を共有することで、DE&Iの取り組みをより活発にしていきたいと考えています。特に国内グループ会社においては女性管理職や男性育休などの課題があります。2023年度は初めて国内グループ会社の女性管理職向け研修を実施しました。グループ全体でDE&Iが根付いた企業文化を構築していきます。
一歩先を行く健康経営へ
経営理念「『人と地球の健康』への願いを実現する」のもと、当社社員においても「健康」は重要テーマです。持続的な成長には社員の健康が欠かせません。また、身体の健康とともに昨今メンタル疾患は増加傾向にあり、心身ともに健康な状態を継続することがアブセンティーズムのみならずプレゼンティーズムにおいても課題です。例えば、毎年行っているストレスチェックでは、ストレス度が高い数値の部署に対し、臨床心理士や保健師が職場改善プログラムや出前授業などを活用し直接支援を実施しています。こうした状況に応じた施策を行う事で、数値が改善してきています。
また、当社のヘルスケア関連の技術・製品・サービスを社員とその家族に還元しています。例えば、乳がんや軽度認知障害の検査に関して、自社製品での検査に補助を行っています。加えて、2023年には、健康経営の実践に取り組む企業・団体が参画する“健康経営アライアンス”を設立し、当社の製品を他社の健康増進に役立てる一方、他社の製品・サービスを当社グループの社員の健康維持増進にも活用していきます。
今後社員のさらなる健康維持増進に向けて社外との連携、健康データの分析・活用や効果検証を実施し、医学的根拠に基づいた施策を展開していきます。これらの取り組みを通して、当社独自の一歩先を行く健康経営を展開し、ウェルビーイングを実現していきます。
DE&I推進を通して一人ひとりが社会や会社へ貢献
社員一人ひとりが力を発揮するために挑戦が不可欠です。しかし、現場では新たな挑戦に「自信がない」といった声も聞きます。私自身も女性初の海外赴任や子会社の社長、役員就任など経験してきましたが、いずれも最初は「自信がない」からスタートしています。「とりあえず挑戦してみよう」と一歩踏み出すことで様々な新しい経験ができました。そこで多くの失敗から学び、小さくても成功体験を重ねることで新たなキャリアに自信はなくても進む勇気を得たように思います。社員の皆さんも100点は取れなくていいので、まずは一歩踏み出し、「何をすべきか」「自分にできることは何か」をしっかりと考えて 失敗を恐れず挑戦してほしいと思います。その実現に向けて公平な機会を提供し、誰もが自由に考えを発言し、対話を通じて認めあう心理的安全性のあるオープンな企業文化をつくりあげることが、私の役割です。
DE&I推進を通して一人ひとりが社会や会社への貢献を感じ、島津グループの一員として誇りを持ち、“共感あふれる社会”の実現に向け、ONE-SHIMADZUで取り組んでいきます。
常務執行役員
法務・ダイバーシティ経営・健康経営担当 梶谷 良野
略歴
1984年4月 | 当社入社 | |
2007年10月 | (株)島津インターナショナル 国際業務部 部長 | |
2013年10月 | (株)島津インターナショナル 国際業務部 部長 兼 業務システム統括部 業務プロセス革新室 担当部長 | |
2014年1月 | (株)島津インターナショナル 代表取締役社長 | |
2017年6月 | 執行役員 広報室長 | |
2019年4月 | 執行役員 コーポレート・コミュニケーション部 部長 | |
2021年4月 |
常務執行役員 人事・ダイバーシティ経営・健康経営担当 |
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2024年4月 | 常務執行役員 法務・ダイバーシティ経営・健康経営担当(現在に至る) |