標準化は重要な差別化戦略
標準化とは、ISO(国際標準化機構)のような組織や規制当局に新たな分析手法などを提案し、標準的なルールとしての採用を目指す施策であり、競合となる欧米メーカーはルール作りに積極的に参画しています。法律や規制において特定企業の製品の使用を義務付けたり、推奨したりすることはありませんが、関連書類の備考欄に標準となった手法の開発企業名が入ることはあります。そのため、ルール作りに参画した企業の製品や手法は、自然と使用しやすいものとなります。また、規制にはその遵守のための分析方法などの標準手法が引用されることが多く、標準に準拠していることは、ユーザーへの訴求ポイントになります。だからこそ欧米メーカーは差別化戦略の一環として注力してきたわけです。
当社は前中期経営計画から標準化戦略に力を入れており、新中期経営計画でもその取り組みを加速させていきます。
標準化の具体的な取り組み
標準化は各分野で進めていますが、一つの規格を制定するには3年から5年はかかります。前中計から取り組んでいる活動も、早ければ今年から来年に実を結ぶことになります。
詳細なことは申し上げられませんが、例えば、環境分野ではマイクロプラスチックの前処理手法の統一・標準化を進めています。マイクロプラスチックは、前処理が違うと、分析したデータが全く違ったものになってしまいます。従って、分析の前処理方法が異なる汚染状況について国際的に比較可能なデータは取れません。よって、前処理方法を含めた分析手法の国際統一化を行い、さらにはマイクロプラスチックの実態解明に役立つ製品や応用技術開発を進めていきます。その他にも、PFAS※による水質汚染の分析条件の標準化を行ったり、材料分野におけるマテリアルインフォマティクス、食品分野における機能性成分分析の規制制定に関する様々な協力を行ったりしています。
また、最初からグローバルでISOを狙うものもありますが、ISOとして認められるには、世界各国・地域に認めてもらう必要があり、相当な苦労が伴います。そのため、まずはJISやJASで実績を作り、その後ISO化を図るパターンもあり、様々な手法で標準化を推進しています。
水素ガスやアンモニアガスの不純物分析で
使われるガスクロマトグラフ
Nexis GC-2030
新中計では、GX(グリーントランスフォーメーション)を推進します。GX分野では、都市ガスのカーボンニュートラル化を目指すメタネーションという技術があります。メタネーションは、言ってみればメタンガスをCO2と水素から生成する技術で、世界中のガス会社が取り組んでいます。従来メタンガスはLNGから生成していましたが、LNGから生成するとCO2が排出されます。そのため、日本では2050年以降、LNGから作ったメタンガスの販売が禁止されます。ガス分析は従来ガスクロマトグラフ(GC)を使うのですが、既存の装置では分析が困難です。そうすると、製品からアプリケーション、成分分析の手法まで、いち早く開発した企業が非常に有利になります。当社のGCのシェアは世界で2位ですが、いち早く開発できれば、ゲームチェンジャーになると期待しています。
しかしながら、各国・地域で何兆円、何十兆円と予算をつけてGXを推進している中においては、1社で100%に近いシェアを獲得できるわけではありません。よく誤解されるのですが、ISOで定められる規格は一つではありません。科学的に正しく、同等の技術があれば、複数の規格が認められます。GXに関しても、例えるなら、日本方式・欧州方式・米国方式となる可能性もあると思います。ただ、日本が国際規格策定に参画していかないと、日本方式だけが国際規格に入っていないということが起きてしまいます。
当社にとって標準化が難しい分野は、競合にとっても難しいはずです。マーケットがあり、伸びていくのであればできるだけ早く標準化を推進していきたいと考えています。
人財育成
これまで、当社では標準化はタスクフォースのような形で進めてきました。2023年4月に技術推進部の中に国際標準化グループを新たに発足したことで、より戦略的、組織的に標準化を推進していきます。
グローバル展開については、まずは北米から進めます。実際、北米の子会社には米国の省庁勤務経験者がいることから、まずはその分野で標準化を進め、実際ASTM(American Society for Testing and Materials<米国材料・試験協会>)化されたものがあります。また、ASTM化には、日本からもアプリケーションの開発などをサポートしています。今後はこの動きを欧州やアジア地域に展開していきたいと考えています。
これからの島津にご期待ください
私は30数年間、経済産業省で規制や規格を作る立場にいました。規制や規格を作る側では、信頼できるパートナー、プロフェッショナルと一緒に作っています。ルールはただ守るのでははく、作る側になった方が、理想とするルールができますし、ビジネスとしても有利になります。多くの日本人は、「世の中の標準や規制、ルールは国が作り、黙って従うもの」としか捉えていません。当社も昔はそうでした。ですので、最初は、本当に当社で標準化を進めることができるのか半信半疑でした。協力してもその規制や規格が成立するかどうかはわかりませんし、作るには3年から5年の年月がかかり、その間の利益はでません。当初、事業部に「標準化することで、来期の利益にどう貢献するのですか」と言われたものです。それが、小さな成功体験の積み重ねにより、「標準化は事業戦略」とまで、社内でも言われるまでになりました。
今後も、標準化人財を育て、開発の初期から標準化を見据えた取り組みを加速させていきます。これからの島津に是非ご期待ください。
専務執行役員
標準化戦略(CSO: Chief Standardization Officer)・メディカル規制担当
経営戦略・環境経営(GX)副担当 稲垣 史則
略歴
1982年 4月 | 通商産業省入省 | |
2006年11月 | 経済産業省 通商政策局通商政策課長 | |
2010年 7月 | 経済産業省 大臣官房政策評価審議官 | |
2011年 4月 | 独立行政法人 日本貿易保険 理事 | |
2015年 6月 | 当社入社 常務執行役員 経営戦略・営業副担当 | |
2017年 6月 | 常務執行役員 地球環境管理担当 経営戦略・営業副担当 | |
2021年 4月 | 常務執行役員 標準化戦略(CSO: Chief Standardization Officer) 環境経営・メディカル規制担当 経営戦略副担当 |
|
2023年 4月 | 専務執行役員 標準化戦略(CSO: Chief Standardization Officer) メディカル規制担当 経営戦略・環境経営(GX)副担当(現在に至る) |