CSO(Chief Standardization Officer) メッセージ

専務執行役員 標準化戦略(CSO: Chief Standardization Officer)・メディカル規制担当 経営戦略・環境経営(GX)副担当 稲垣 史則

当社グループのビジネスと親和性が高い標準化

島津の主力事業である計測機器事業は、測定ルールが定まらないと計測・分析が進められないため、標準化と親和性が高い分野といえます。既に存在する標準化された分析手法は、いずれかの分析計測メーカーの協力により開発されたものが多いです。私たちが分析手法の開発に協力すれば、当社グループの装置で使いやすい分析手法となりますし、競合に主導権を握られれば、当然ビジネス上厳しい戦いを強いられます。当社グループは過去、標準や規制などのルールは国が作り、企業はそれに従うものという認識がありましたが、ここ数年で大きく変化しています。
2023年4月から新しい中期経営計画が始まりましたが、7つの経営基盤強化の一つに「国際標準化、規制対応力の強化」が掲げられています。当社グループの長い歴史の中で、“標準化”が明確に戦略として盛り込まれたのは初めてです。また、中期経営計画のスタートと同じくして、技術推進部に国際標準化グループを設置し、標準化を推進する体制を整備しました。

中期経営計画の初年度を振り返って

初年度の成果としては、大きく3つあります。一つ目は、当社グループが数年前から主体的に協力してきた標準化活動から、JISやISOの分析手法の規格として成立したものがいくつかでてきたことです。標準化は、単年度でできるものではなく、3~5年はかかります。成功事例によってモチベーションが向上し、さらに様々なことに取り組むという正のスパイラルが生まれますので、今後も成功事例を一つずつ積み上げていきます。
二つ目は、当社グループでのグローバルな標準化推進の枠組みを構築したことです。日本、北米、欧州、東南アジア、中国の5拠点で協議し、毎年テーマを決めて国際標準化を推進していきます。この協議は定期的に開催していますが、参加者は非常に熱量があり、毎回充実した会議となっています。2023年度は、PFASの分析手法に関する標準化の取り組みを始めており、2024年度からはさらに別のテーマでも取り組みを進めています。複数の国際標準化テーマをグローバルで同時に進行させ、一定のタームで持続的に国際標準化を実現させていく仕組みを構築したいと考えています。
加えて、分析計測事業部との標準活用ビジネス推進体制の構築も進めています。2023年4月には9つの重点テーマを選定し、6月からは3か月ごとに事業部長・CSOへ報告する仕組みとし、標準化活動の進捗がより具体的に把握できるようになりました。
三つ目は、標準化戦略の浸透です。中期経営計画で標準化戦略が掲げられたこともあり、社内での重要度が増しており、様々なところで積極的に取り組むようになりました。CSOとして、大きな変化だと感じています。
一方、課題もあります。成果の裏返しかもしれませんが、取り組み事例が増えた結果、リソース不足が顕在化してきました。分析手法の標準化を推進するためには、まず大量の分析データを取得することが必要ですが、そのためのリソースが不足しています。ただし、この課題は社内が標準化に関して、より積極的になっていることの裏返しの面もあるとポジティブに理解しています。リソース不足は頭の痛い問題ですが、今後は各部署連携の一層の強化や外部委託なども活用し、乗り越えていきます。

中期経営計画2年目の施策

繰り返しになりますが、標準化活動は1年や2年でできるものではないため、初年度の成果でお話ししたことを今年度も継続することになります。その中でも、力を入れていきたいのは次の3点です。
一つ目は人財育成です。今後の標準化戦略を担う、中堅・若手社員の育成を進めます。「ISOを取得しましょう」と言われても、取得の方法がわからなければ、何もできません。国際標準化グループが主体となって勉強会を開催し、基礎から外部団体との連携の方法、国際会議への出席の際の作法など様々なノウハウを伝えています。二つ目は、課題として挙げたリソース不足を解決するための大量の分析データを取得できる体制構築です。三つ目は、標準化と知財とのコラボレーションです。まずは、知財戦略と連動した標準化・規制のデータベース作りを進めています。既に、データベースの基盤はできつつあり、国際的にそれぞれの分野でどのような標準があって、当社グループではどのような対応ができているのかがわかる仕組みにします。
また、標準化はいわゆるオープン・クローズ戦略と密接に関わっています。もちろん、標準化はオープン戦略になるのですが、単純にオープンにしたらいいというものではなく、守るべきところは知財等できちんと守り、開放するところを戦略的に決定してオープンにすることが求められます。知財部は、製品の初期の企画・設計段階から、事業部の開発現場にヒアリングを行っており、どの技術をいつ、どのように特許出願するのか、技術者と相談をしながら知財戦略を進めています。そこに標準化戦略を加えていきます。まずは、年間1、2件だと思いますが、開発初期段階から知財戦略と標準化戦略をコラボレーションする取り組みを進めていきます。

国際標準化戦略の4ステップ

今回、当社グループとしての国際標準化戦略、規制対応の進め方の4ステップをまとめました。レベルは0から3までに分かれていて、現段階での当社グループの位置は1と2の間だと思っています。レベル0の既存の規格・規制への対応は、“計る”を生業にしている企業にとっては当たり前にやっていることです。当社グループは、最近は、主体的に規格策定へ取り組むようになりましたが、目指す姿のレベル3までは、もうしばらく時間がかかりそうです。先ほどお話しした施策を着実に実行していくことで、まずは、標準化戦略が当たり前にビジネス戦略を構成する一要素となっているレベル2を目指します。

総合的なビジネス戦略へ

これからは、いかに標準化に参画できるかが、大きな差別化戦略になります。例えば、日・米・欧・中各国政府はGXに何十兆円という額を投資しており、国際標準化を目指す戦略をとっています。もちろん、当社グループも、官公庁、大学、民間企業と共同で技術の社会実装と標準化戦略を進めていますが、競合も同様の施策を推進しています。ただ、あまり心配はしていません。当社グループには優れた人財が豊富にいますし、仕組みも整いつつあります。
今後、国際標準化戦略・規制対応を、グローバルに知財・マーケット戦略と合わせた総合的なビジネス戦略に高めていきます。これからの島津に是非ご期待ください。

専務執行役員
標準化戦略(CSO: Chief Standardization Officer)・メディカル規制担当
経営戦略・環境経営(GX)副担当 稲垣 史則

略歴

1982年 4月   通商産業省入省
2006年11月   経済産業省 通商政策局通商政策課長
2010年 7月   経済産業省 大臣官房政策評価審議官
2011年 4月   独立行政法人 日本貿易保険 理事
2015年 6月   当社入社 常務執行役員 経営戦略・営業副担当
2017年 6月   常務執行役員 地球環境管理担当 経営戦略・営業副担当
2021年 4月   常務執行役員 標準化戦略(CSO: Chief Standardization Officer)
環境経営・メディカル規制担当 経営戦略副担当
2023年 4月   専務執行役員 標準化戦略(CSO: Chief Standardization Officer)
メディカル規制担当 経営戦略・環境経営(GX)副担当(現在に至る)
常務執行役員 標準化戦略(CSO: Chief Standardization Officer)・環境経営・メディカル規制担当 経営戦略副担当 稲垣 史則