目指す姿「プラネタリーヘルスの追求」に向けたCSOの役割
当社グループは、中期経営計画において「プラネタリーヘルス(人と地球の健康)の追求」を目指して、「世界のパートナーと共に社会課題を解決するイノベーティブカンパニーへ」というスローガンを掲げています。その中で先端的分析計測手法の国際標準化を一つのテーマとして取り組みを進めています。標準化は、モノやサービスの互換性・品質・性能・安全性の確保、利便性を向上させるものです。標準化においては、分析方法や評価方法の統一が重要であり、標準化された分析方法によって、例えば環境汚染の監視・評価・改善に取り組むことができ、私たちの安心・安全な生活が確保されるのです。多くの場合、標準化には分析計測機器が活用されます。計測機器を主力事業とする私たちにとって、標準化はまさに使命であり、プラネタリーヘルスの追求につながる取り組みです。一方、通常の標準化プロセスには3~5年はかかるため、目覚ましい技術革新による新たなモノやサービスに対して、スピード感を持って対応できるプロセスが必要となります。従って、近い将来に世の中で必要とされる標準化を先読みしながら進めていくことが重要であり、私は、これらを実現する枠組みをグループ全体で作ることで、プラネタリーヘルスの追求に向けて標準化戦略を推進していきます。
中期経営計画における一里塚としての目標
2023年4月から新しい中期経営計画が始まりましたが、7つの経営基盤強化の一つに「国際標準化・規制対応力の強化」を掲げています。当社グループの長い歴史の中で“標準化”が明確に戦略として盛り込まれたのは初めてです。また、中期経営計画のスタートと同じくして、技術推進部に国際標準化グループを設置し、標準化を推進する体制を整備しました。現在は国際標準化グループが事業部横断的に標準化プロジェクトを支援し、海外拠点との連携も取りつつ、一元的に可視化しながら標準化を進めています。
中期経営計画2年目の成果と課題
これまでの2年間を振り返り、実現したことは大きく3つあります。一つ目は、当社グループが数年前から主体的に参画してきた標準化プロジェクトから、ISOやASTM Internationalといった国際標準規格が発行されたことです。これにより、材料分析や水質分析に貢献しています。そのほかにも、マイクロプラスチックやPFAS(発がん性など健康への影響が懸念される有機フッ素化合物)といった社会課題の解決に資する標準化プロジェクトも開始しています。二つ目は、当社グループでのグローバルな標準化推進体制を構築したことです。日本、北米、欧州、東南アジア、中国の5拠点から構成され、毎年テーマを決めて国際標準化を推進しています。三つ目は、標準化戦略の浸透です。中期経営計画で標準化戦略が掲げられたこともあり、グループ内で標準化への意識の高まりと重要度が増しており、様々なところで積極的な取り組みが生まれるようになりました。
一方で、課題もあります。成果の裏返しかもしれませんが、取り組み事例が増えた結果、リソース不足が顕在化してきました。分析手法の標準化を推進するためには、まず大量の分析データを取得することが必要ですが、そのためのリソースが不足しています。ただし、この課題は社内が標準化に関して、より積極的になっていることの裏返しの面もあるとポジティブに理解しています。今後は、各部署連携の一層の強化や外部連携も増やし乗り越えていきます。例として、北米ではお客様でもある大手受託分析会社や政府機関と協業し、データ取得による新たな分析手法の開発に取り組み始めています。社外連携および標準化を軸としたビジネス拡大戦略のモデルケースとなるよう進めていきます。
今後の取り組み
繰り返しになりますが、標準化活動は1年や2年でできるものではないため、これまでの2年間の取り組みをベースに今年度も継続することになります。その中でも、力を入れていきたいのは次の3点です。
一つ目は人財育成です。今後の標準化戦略を担う、中堅・若手社員の育成を進めます。「ISOを取得しましょう」と言われても、取得の方法が分からなければ、何もできません。国際標準化グループが主体となって勉強会を開催し、基礎から外部団体との連携の方法、国際会議への出席の際の作法など様々なノウハウを伝えています。二つ目は、課題として挙げたリソース不足を解決するための大量の分析データを取得できる体制構築です。これはグループ内での強化だけでなく、標準化する分析手法のユーザーとなるお客様と、標準化を検討する段階から連携することで、より現実に即した標準化を進めるとともに、得られた知見からソフトウェアを含めた機器開発と連動させて、より使いやすいシステムを提供できるようにします。三つ目は、標準化と知財とのコラボレーションです、まずは知財戦略と連動した標準化・規制のデータベース作りを進めています。既に、データベースの基盤はできつつあり、国際的にそれぞれの分野でどのような標準があって、当社グループではどのような対応ができているのか分かる仕組みにします。
また、標準化はいわゆるオープン・クローズ戦略と密接に関わっています。もちろん、標準化はオープン戦略になるのですが、単純にオープンにしたらいいというものではなく、守るべきところは知財等できちんと守り、開放するところを戦略的に決定してオープンにすることが求められます。知財部は、製品の初期の規格・設計段階から事業部の開発現場にヒアリングを行っており、どの技術をいつ、どのように特許出願するのか、技術者と相談をしながら知財戦略を進めています。まずは、年間1、2件だと思いますが、開発初期段階から知財戦略と標準化戦略をコラボレーションする取り組みを進めていきます。
これらにより将来の姿として、標準化された分析手法に必要な分析試料の前処理システムや試薬などを含めて、標準化された分析手法を、より利便性良く、幅広いお客様に安心してご活用していただけるようになることを目指します。これらトータルソリューションの実現により、標準化および分析計測機器提供だけではなく、価値体験や感動をお客様へ提供できる企業となることを目指します。今後も標準化を通じて「科学技術で社会に貢献する」という当社グループの社是を体現し、プラネタリーヘルスを追求していく島津に是非ご期待ください。
仕事を進める上で大切にしているもの
私自身は分析計測機器開発のハードウェアエンジニアを原点に当社での社歴を積み上げてきたこともあり、新製品開発を進めていく上で、お客様に価値を感じてもらい、長く使っていただける製品、技術でなければ意義はないと考えています。その実現に向けてお客様の課題やご要望における背景や理由についても理解するとともに、新しい製品や技術をお客様に提供する上で、どのような新しい価値体験や感動をお客様へ与えられることができるか、常に意識しながら仕事を進めていくことを心がけています。
常務執行役員
経営戦略・コーポレート・コミュニケーション担当 標準化戦略(CSO)担当
前田 愛明
略歴
1997年 4月 | 当社入社 | |
2011年 4月 | 分析計測事業部LCビジネスユニット 課長 | |
2017年 4月 | 島津企業管理(中国)有限公司中国開発センター 部長 | |
2019年 4月 | 分析計測事業部 技術部 部長 | |
2020年 4月 | 執行役員 Shimadzu Scientific Instruments, Inc.社長 | |
2025年 4月 | 常務執行役員 経営戦略・コーポレートコミュニケーション担当、 標準化戦略(CSO)担当(現在に至る) |