
CFOとして財務面から経営の質を高める
当社は創業以来、科学技術を通じて社会に新たな価値を届けることを使命として歩んできました。時代が移り、社会からの要請や社会課題が変化しても、その本質に向き合い、技術で解決に挑む姿勢は変わりません。こうした理念と強みを次世代へつなぐために、財務の側面から持続的な価値創造を支えることが、CFOである私の責務であると考えています。
当社グループを取り巻く経営環境は、地政学リスクの高まりや為替・金利の変動、技術革新の加速などにより、不確実性が一層高まっています。その一方で、ライフサイエンス、環境・安全といった社会課題の深刻化を背景に、当社グループの技術とソリューションが真価を発揮できる成長機会は着実に拡大しています。こうした環境下の財務戦略においては、成長投資を支えつつ、資本効率と財務規律を両立させることが一層求められています。
CFOとして、キャッシュ創出力の最大化、ROICを基軸とした事業ポートフォリオ管理、戦略に裏打ちされたキャピタル・アロケーション、そして利益成長と連動した株主還元を通じ、財務面から経営の質を高め、ステークホルダーの皆様の期待に応える持続的な企業価値の向上に貢献していきます。
前中期経営計画の振り返り
前中期経営計画では、「世界のパートナーと共に社会課題を解決するイノベーティブカンパニーへ ~技術開発力と社会実装力の両輪強化による持続的成長~」を基本方針に掲げ、成長性と収益性の両立を目指してきました。業績面では、2025年度の連結売上高は5,607億円と、海外需要の取り込みに加え、主力事業における製品競争力の強化やリカーリング事業の拡大を背景に計画水準を確保し、6期連続で過去最高を更新しました。
一方、営業利益は737億円、営業利益率は13.1%にとどまり、計画として掲げた水準には届かない結果となりました。また、ROEは11.4%、ROICは9.6%となり、資本コスト(6-7%)は上回っているものの、売上成長を資本効率や利益成長に十分につなげきれなかった点を、大きな課題として受け止めています。その背景には、研究開発・人的資本投資を中心とした将来に向けた成長投資の増加に加え、中国市場の低迷、関税やインフレの影響によるコスト上昇などがあり、外部環境の変化に対する収益構造の耐性強化が求められる結果となりました。
前中期経営計画期間中は、ROICを基軸とした経営管理への転換を進めてきました。事業別に投下資本と収益性の関係を可視化し、単年度の損益管理に止まらず、中長期的な資本効率の観点から事業を評価する枠組みを整備しました。投資案件や事業ポートフォリオに関する議論においても、ROICを共通言語として用いることで、事業の収益性や投資効率を踏まえた意思決定を促す取り組みを進めてきました。依然として改善の余地はありますが、ROIC経営に向けた基盤は着実に整いつつあると認識しています。
また、当社グループの分析計測事業における提供価値を拡張する戦略的な取り組みとしてTESCAN社の買収を計画しました。電子顕微鏡という高成長分野への参入にあたり、当社グループの既存事業との補完性、将来の成長性・収益性、資本効率への影響を総合的に検討した上で意思決定を行いました。CFOとしては、買収価格の妥当性や投資回収の確度に加え、買収後のPMIを通じたシナジー創出と中長期的な企業価値向上を重視し、財務規律を確保しながら経営判断に関与してきました。
前中期経営計画で得られた成果と課題を踏まえ、新中期経営計画では、成長の量的拡大に加えて質の向上を重視し、収益性と資本効率を両立させた持続的な成長の実現を目指します。
新中期経営計画における財務戦略
当社グループは、技術に立脚したお客様中心志向のトータルソリューションパートナーとして、プラネタリーヘルスを追求し続け、2035年のありたい姿「Shimadzu 2035」において売上高1兆円を目指しています。この実現に向けて、新中期経営計画では、収益力の持続的拡大と資本効率の向上を両立させることで、企業価値の最大化を図ることを財務戦略の基本方針としています。
収益性の面では、コア事業を中心とした高付加価値領域への集中投資、製品ミックスの改善、プライシングの適正化、AI活用やDXによる生産性向上を通じて、2028年度に売上高6,800億円、営業利益1,000億円、営業利益率15%の達成を目指します。あわせて、EBITDA1,350億円、EBITDAマージン20%を目標に掲げ、キャッシュ創出力の強化を図ります。
資本効率の観点では、在庫や売上債権をはじめとする運転資本管理を徹底し、投下資本の回転率向上に取り組みます。これにより、2028年度にROE11.5%以上、ROIC10%以上を安定的に確保することを目標としています。投資案件については、戦略的意義に加え、投資回収の確度や時間軸を明確にした上で意思決定を行い、資本コストを意識した成果検証を継続することで、資本効率の改善につなげていきます。さらに、キャッシュ・マネジメント・システム(CMS)の活用をグローバルに拡大し、日本、米国、欧州、アジア、中国を含め、グループ全体資金の約8割をCMSで管理する体制を構築しました。今後は、本社への資金集約をさらに進めることで、資金の可視化と機動的な配分を可能とし、成長投資やM&Aへの迅速な対応力を高め、資本効率のさらなる向上を目指します。
また、新中期経営計画最終年度からIFRSを導入します。事業の実態や資本効率をより的確に把握し、経営管理に活かすことを目的としており、単なる会計基準の変更に止めることなく、経営管理そのものを進化させる契機と位置づけています。EBITDAやROICを基軸とした管理指標を用いることで、投資と成果の関係を可視化し、経営の透明性と意思決定の質を高めていきます。
当社グループは、強固な財務基盤と高いキャッシュ創出力を背景に、外部環境の変化に耐えうる財務レジリエンスを確保しながら、持続的な成長投資を実行し、中長期的な企業価値の向上を図ります。
キャピタル・アロケーション
新中期経営計画において、当社グループは安定的なキャッシュ創出力と健全な財務基盤を前提に、成長投資を最優先としつつ、株主還元と財務健全性を両立させるキャピタル・アロケーションを実行していきます。前中期経営計画では売上成長を実現する一方、投下資本に対するリターンの改善が十分ではありませんでした。新中期経営計画では資本効率をより強く意識した資源配分を行います。
成長投資については、コア事業の拡大、北米・インドを中心とした事業基盤の強化ならびに半導体・分子診断といった成長分野への取り組みを中心に、3年間で約2,200億円規模の研究開発投資・設備投資・戦略投資を計画しています。
これに加え、M&Aを重要な成長手段と位置づけ、成長分野や事業ポートフォリオの高度化を目的としたM&Aに対して、約2,000億円規模の資金配分を想定しています。オーガニック成長とインオーガニック成長を組み合わせることで、持続的な成長と事業構造の進化を図っていきます。
投資判断にあたっては、戦略的意義に加え、中長期的に資本コスト(WACC)を上回るリターンが見込めることを基本的な投資基準とし、投資実行後もROICを軸に成果を検証することで、規律ある資本配分を徹底します。
M&Aを含む成長投資の実行にあたっての資金調達については、現在の自己資本比率70%超という強固な財務基盤を前提に、有利子負債の活用も含めた最適な資本構成を検討します。自己資本に過度に依存するのではなく、投資対象事業のキャッシュ創出力や投資回収の見通し、財務レバレッジが資本効率および財務レジリエンスに与える影響を総合的に勘案した上で、財務レバレッジを適切に活用し、企業価値の最大化を目指します。
創出されるキャッシュの配分は、まず成長投資へと優先的に充当し、その上で株主還元に振り向けることを基本方針としています。株主還元に関しては、2023年度より「収益やキャッシュ・フローの状況を総合的に勘案しつつ、配当性向30%以上の維持と継続的な株主還元」を掲げており、新中期経営計画においても継続します。3年間で累計610億円以上の株主還元を計画しており、累進配当を軸とした安定的な還元を行っていきます。
また、資本効率や市場環境、株価水準等を踏まえ、自己株式取得についても機動的に実施する考えです。ただし、自己株式取得は、成長投資との優先順位を踏まえつつ、財務余力の有効活用や資本効率の向上に資する場合に検討するものと位置づけています。
当社グループは、成長投資、財務健全性、株主還元の最適なバランスを追求し、配当による安定的な利益還元と株価上昇を通じた株主総利回り(TSR)の向上を重要な経営課題として位置づけています。

株主・投資家の皆様へ
インフレの常態化や為替変動の拡大、テクノロジーの進化、地政学リスクの長期化など、事業環境の不確実性は一段と高まっています。このような環境下において、企業には短期的な変動への対応力に加え、中長期的な成長を見据えた戦略的な意思決定が求められています。
CFOとしての役割は、将来の複数のシナリオを見据えながら、事業活動の成果を最大化するために、規律ある資本配分と実効性の高いリスクマネジメントを両立させていくことにあると考えています。
当社グループはこれまで、強固な財務基盤の構築を通じて、安定性と規律を重視した財務運営を行ってきました。新中期経営計画ではその基盤を活かし、成長分野への戦略投資や事業基盤の強化に積極的に取り組んでいきます。これらの取り組みを通じ、より飛躍した当社グループの姿を皆様にお見せできると確信しています。どうぞご期待ください。
常務執行役員
CFO 荒金 功明
略歴
| 1998年 4月 | 当社入社 | |
| 2002年 4月 | 分析計測事業部 事業管理部 | |
| 2005年10月 | Kratos Group PLC(イギリス)へ出向 | |
| 2013年10月 | 経理部担当課長 | |
| 2018年 4月 | 理財部 企画G課長 | |
| 2021年 4月 | 理財副部長 | |
| 2021年10月 | 理財部長 | |
| 2023年 4月 | 執行役員 理財部長 | |
| 2025年 4月 | 常務執行役員 CFO(現在に至る) |


