CFOメッセージ

渡邊 明

中計初年度を振り返って

中計初年度の業績は、海外事業の伸長(海外比率57.9%)による為替の追い風を享受し、4期連続で売上高、営業利益共に過去最高を更新しました。これは、ヘルスケア領域とグリーン領域において、液体クロマトグラフ、質量分析システム、ガスクロマトグラフ、試験機の重点機種が伸長し過去最高売上高を更新したことに加え、受注残の売上転化、価格改定などの付加価値訴求の確実な実施などによるものです。一方、為替効果を除くと、中国の市況悪化、国内医用関連設備投資や半導体設備投資の停滞などにより、期初に想定した成長が実現できなかったということも事実です。
成長投資は、人的投資、研究開発投資を積極的に推進し、ほぼ想定通りの進捗となりました。M&Aに関しては、フランスの臨床向けソフトウエア会社のBiomaneo社、北米のGCマイクロリアクター事業など、規模としては小さいですが、今後当社グループが海外で成長するための土台の構築に資する会社を傘下に収めることができました。

ROIC経営を推進します

2024年度も、社会価値創生領域での成長投資および人財・開発・製造・DX関連の基盤強化に重点的に投資します。特に、研究開発に関しては280億円、売上高比率は5.3%になる予定で、目標としていた5%を中計2年目で達成することを目指します。
また、ROIC経営も推進します。2024年度から事業部・ビジネスユニット別のROICを経営指標として導入し、予実管理を開始します。各事業・ビジネスユニットの投下資本の算定方法については、引き続き適正化が必要ですが、成果を測定するKPIの設定を進めています。KPIは、営業利益率や投下資本回転率などの財務指標を主とした“財務KPI”と、引き合い数や生産リードタイムなど現場の活動指標である、“現場KPI”を組み合わせて、ROICを頂点に各KPIをツリー状に整理し、経営層から現場まで全社目標に沿った全体最適行動に結び付くようにしたいと考えています。KPIを浸透させるには時間がかかると思いますが、システムによる係数の自動化を行い、全社を挙げて、効率的な経営を目指します。

資本コストを意識した経営

当社グループの資本コストは7-8%と認識しています。実質無借金のため、株主資本コストがそのまま資本コストとなりますので、株主資本コストを上回るROE、ROICを達成することが重要です。現状ROEは12.5%、ROICは11%と、資本コストを上回って推移していますが、今後も、資本コストの引き下げと資本効率(ROIC、ROE)の向上を図り、中長期的な企業価値向上と持続的な成長を実現します。
また、資本効率を向上する上で、事業ポートフォリオの見直しも避けて通れない課題です。中計で再編事業と位置付けている航空事業は、自社努力に加え事業環境が好転したことで、2023年度の業績は大きく改善しています。他方、ビジネスモデル自体が変わったわけではないため、再編事業としての位置付けは、現在も変わっていません。営業利益率が低い医用と油圧機器事業については、前者はイメージングトランスフォーメーションやリカーリングの推進、後者は静粛性の高いギヤポンプなどの付加価値の高い製品を拡大することで、業績の改善を目指します。
さらに、株主・投資家とのエンゲージメントも強化します。対話を通じて、株式市場の声を聴くとともに、フェアディスクロージャーを継続することで情報の非対称性を減少させます。昨年、CFOに就任して初となる海外IRを実施し、英国の投資家16社と面談しました。投資家の中計に関する反応は、総じてポジティブでしたが、中には厳しいご意見も頂戴しました。島津の企業価値向上に資すると判断した意見は、役員会などで報告・共有し、経営の改善に努めています。

株主還元

当社グループとしては、利益を積極的に成長投資に使い、業績を伸ばしていくとともに、株価を上昇させることで、株主・投資家の皆様に報いたいと考えています。
株主還元に関しては、中計初年度の2023年度から「収益やキャッシュ・フローの状況を総合的に勘案しつつ、配当性向30%以上の維持と継続的な株主還元の実施」に変更し、10期連続の増配、2024年度も11期連続の増配を行う予定です。
また、2024年度は自社株買いを250億円する予定です。これは、株主還元の充実、資本効率の向上を目指したもので、自社株買いは初めてとなります。ただ、誤解してほしくないのは、自社株買いをした額だけ成長投資を減らすというわけではありません。成長投資は、中計策定時と変わらない金額を行う予定です。

内部統制、ガバナンスの強化

当社グループは、「コンプライアンスはすべてに優先する」を徹底しており、財務の面でも、会計コンプライアンスの基盤となる、経理関係の規定や会計処理ルールを事業環境の変化や内部統制の観点で見直しています。加えて、経理業務のシェアードサービス化を進め、業務プロセスの標準化と業務のデジタル化・自動化を推進することで、業務効率化とガバナンス強化を図っています。国内グループ子会社は約70%の経理業務をシェアードサービスに集約しており、2024年度は80%、中計最終年度には100%を目指しています。それにより効率化を図り、経理業務の15%を削減する予定です。
また、グループ全体の会計リテラシーを向上させるため、会計の知識を体系的に習得した人財を持続的に育成し、経理・財務面から専門性が発揮できる人財を事業部門や主要グループ会社に配置することも始めています。

株主・投資家の皆様へ

当社グループは、製品軸から顧客軸へと大きく変革しようとしています。例えば、営業は、今まで事業部直下だったものから、事業部の枠を超え本部制に移行し、製品・ソリューションを一元化してお客様に提供できる体制が始まりました。今後も、顧客軸でトータルソリューションを提供することにより、持続的な成長を実現していきます。また、事業だけなく、健康経営・環境経営などのESG経営をグループ全体で推進していきます。
当社グループは、どちらかといえば、財務は将来のリスクに備えた「守り」に重きを置いていました。今中計からは、さらなる成長を目指すため、「攻め」の財務に大きく舵を切り、思い切った投資を行います。
これらの取り組みを通じ、次年度のメッセージでは、より一飛躍した当社グループの姿を皆様にお見せできると確信しています。どうぞご期待ください。

取締役
専務執行役員
CFO、経営戦略・コーポレート・コミュニケーション担当 渡邊 明

略歴

1985年 4月   当社入社
2009年 4月   半導体機器事業部 TMPビジネスユニット長
兼 営業部 副部長
2011年 4月   半導体機器事業部 営業部長
兼 TMPビジネスユニット長
2013年 6月   半導体機器事業部 副事業部長
兼 営業部長 兼 TMPビジネスユニット長
2016年 6月   執行役員 産業機械事業部 事業部長
2019年 4月   常務執行役員 産業機械事業部 事業部長
2020年 4月   常務執行役員 産業機械事業部 事業部長
兼 フルイディクス事業部 事業部長
2022年 4月   専務執行役員
CFO、経営戦略・コーポレート・コミュニケーション担当
(現在に至る)
2022年 6月   取締役 (現在に至る)
渡邊 明