表紙ストーリー表紙に込められた物語をご紹介します。Cover Stories

Vol.40

Vol.40表紙

「地球の子午線全周長の4千万分のをメートルと定める」。1791年フランス国民会議は、地球の精確な大きさを求める「子午線測量ミッション」を発令しました。メートル法の誕生です。 重要視されたのは正確さの追求でした。計測のために世界最高水準の測角器が開発され、チームには当時最も優れた測地能力を持った2人の天文学者が選ばれました。 ダンケルクからパリ、そしてバルセロナへと国土を縦断する道程。フランス革命の嵐の中で得た、7年にわたる精緻な測定データと当時の知見から地球の子午線の長さが算出されました。 メートル法はその後SI(国際単位系)に引き継がれメートル、キログラムに加え、秒、アンペア、ケルビン、モル、カンデラの7つの基本単位を定めています。その中でキログラムだけが唯一130年もの間『国際キログラム原器』とよばれる分銅による定義がされたままになっていました。厳重に保管・管理され、不偏とされた『原器』ですが1992年に行われた定期校正(同時に作られた同質量の複製と比べる)に際して50マイクログラムの差異(減少)が見られたのです。 変動幅は1億分の5というわずかなものでしたが、現代の計測技術やハイテク分野では決して無視できない変動です。より不偏的な新しい定義が強く望まれていました。国際度量衡委員会は以前より検討されていた案の中から、プランク定数を用いた物理定義への移行を決定しました。プランク定数の特定には、物理学の関係式で互いに導き出すことができるアボガドロ定数の測定という手段が選ばれました。問題はやはり測定の精度。『国際キログラム原器』を上回るためにはあと一桁の精度が必要でした。こうして2004年『アボガドロ国際プロジェクト』が動き出したのです。プロジェクトは半導体にも使用される単結晶シリコンでできた1キログラムの真球を作り、その中に規則正しく並んだ原子の数をかぞえるというもの。ある科学誌はプロジェクトを、物理学で最も困難な取り組みベスト5にあげたほどです。 最初の課題は純度でした。原料となるSi(ケイ素)は同位体すらもほぼ排除した純度99.994%の28Si単結晶です。これはロシアの濃縮技術によって2年がかりで実現しました。精製された原料はドイツの国立研究機関に送られ6度の失敗の後、結晶化を実現しました。5キログラムの2つの塊は、オーストラリア精密光学研究所に届けられました。すでに引退していた光学技師「原子の感覚」を持つと称されたアヒム・ライストナー氏に託され「国際キログラム原器(オーストラリアにある複製)」と同じ質量1 キログラムの、限りなく完全に近い球体に磨き上げられました。直径93.75ミリメートル、粗さはわずか0.3ナノメートル、曲率は60から70ナノメートル。本人の弁によれば「地球の大きさに膨らませても12~15ミリメートルほどの滑らかなさざ波。真円に対して3~5メートルの変動を見ることになる」出来栄えでした。準備は整いました。イタリア・ベルギー・アメリカ・日本の研究チームがそれぞれ最高の測定技術を開発し、精緻な測定作業を繰り返しました。各国から提出された測定値は完璧ともいえるグルーピングを示し、誰もが納得できるものとなりました。見事『国際キログラム原器』を上回る精度「1億分の2.4」を達成したのです。新たな定義は以下の通り定められました。『キログラムはプランク定数hを正確に6.62607015×10-34ジュール・秒(Js)と定めることによって設定される』。「メートル」の語源“metron”は、ギリシャ語で「測ること」を意味しています。