表紙ストーリー表紙に込められた物語をご紹介します。Cover Stories

Vol.32

Vol.32表紙

人々は太古の昔から過酷な災厄をもたらす大自然へ畏敬の念をこめ、天に祈りを捧げ、天より与えられた運命にひたすら服従し争う術を持たなかった。それを一変させたのが科学だった。19世紀中頃ドイツ、アメリカを中心に起こった第二次産業革命は、以降わずか百数十年の間に住環境を大きく変え、安定した食糧の供給、多くの病の克服という福音をもたらした。時を同じくして工業化の波は日本にも押し寄せる。1877年、島津源蔵が飛揚させた日本初の有人水素気球はわずか地上36メートルに過ぎなかったが、日本中に大きなインパクトを与え科学時代の到来を告げるものであった。得体の知れない存在への畏怖は、未知への挑戦へと変わり、大地から天を仰いでいた私たちは、いつしか天から大地を見渡すまでとなった。 ー「神はサイコロを振らない」。これは量子力学において素粒子の気ままな振る舞いを確率論によって帰結しようとする潮流に対し、ランダムな動きを促す我々の知らない何らかの因子(隠れた変数)があるはずだというアインシュタインの反論であり、科学者自身が限界の線を引いてはならないという信念の言葉だ。科学の推進力であるイマジネーションを決して放棄してはならないという断固たる叫びが、島津源蔵の想いと奇しくも重なる。