Cover Stories

Vol.31

「女の子と仲良くなりたい時に、ライバルがバラの花を10本贈ったなら、君は15本贈るかい？そう思った時点で君の負けだ」。アップル創業者スティーブ・ジョブズはこう続ける。「ライバルが何をしようと重要じゃない。彼女が何を望んでいるのかを、見極めることなんだ」。―レモン市場という言葉をご存知だろうか。理論経済学者ジョージ・アカロフが解析した市場メカニズムだ。『米語でレモンには事故車・欠陥車という意味がある。同一モデルの優良車と事故車や欠陥車が玉石混淆となった中古車市場で、正しい知識と情報を持った売り手はレモンか否かを判断できるのに対し、情報も乏しくその判断をつけられないロシアンルーレットのような状況下にある買い手は、自ずとリスクの高い高価格の車両を敬遠し安い車ばかり買うようになる。売買が成立する相場は下落し、仕入れが高い優良車は取引が成立しなくなり市場から姿を消し、レモンばかりが市場にあふれる逆淘汰が発生する』というものだ。―誰もが安い車を求めるが実はそこにニーズは無い。買い手は優良車両の高価格を問題視してはおらず、ただ「信頼」を望んでいる。解決にはリスクを補うための「何か」が必要だった。『欠陥車にはできない一定期間の無料修理保証』という今までに無かったサービスの提供。レモンでは無いというシグナルを買い手に与えることで「情報の非対称性」は補完され、健全さを取り戻した市場は買い手、売り手双方の利益となる。… ジョブズは言う。「顧客に、今何が欲しいかを訊いて作り上げたとしても、顧客の望むものは提供できない。なぜなら、完成する頃には別の“something new”を欲しががっているものだから」。