表紙ストーリー表紙に込められた物語をご紹介します。Cover Stories

Vol.38

Vol.38表紙

0.1ミリにも満たないコピー用紙を半分に折る。それをさらに半分に折りたたむ。この作業を42回繰り返すとその厚さは、38万キロの彼方に浮かぶ月までの距離を超えるものとなります。もちろん実際には不可能な計算上でのお話 です。マイクロチップの処理能力は18ヶ月毎に2倍の進歩を続け、2045年にはAI(人工知能)が全人類を総動員した知性をも凌ぐと予想されています。これは現実世界での出来事です。Artificial Intelligenceという言葉が誕生したのは1956年。それから半世紀を経てAI は、人の脳の神経細胞(ニューロン)のつながりを模したニューラルネットワークを持つに至りました。もう「リンゴとミカンは『色』で区別せよ」と着目点を教える必要はありません。まず、玉石混交の膨大なデータを重要度に応じて、信頼性や関連性の高い情報は「重い」、低い情報には「軽い」と分類します。多階層のフィルタにより不要と判断した情報は突き返されます。この仕組みを使いAI は自ら手がかりを探し特徴を見出します。こうしてAI は抽象的な概念や、複雑な現実世界の理解を深めているのです。-AIの波は伝統的な将棋界にも押し寄せました。予期せぬ新手の出現のみならず、戦法のトレンドそのものを変える事態も起こりました。時好の戦法をよそにAI が選んだのは「古い戦法」でした。これを潮目に、過去の物とされていた「古い戦法」は、プロ棋士にも再評価を受け、見事に復権をとげたのです。過去の技術の再評価といえば、いわゆる「枯れた技術」が安定性や効率、思いもよらぬ視点から見直されることがあります。しかし、誰かが指摘するまで気付かないのが盲点です。私たちが倉庫の奥に捨て置いた技術に、ある日AI が予想だにしない角度からスポットライトを当てることでしょう。奇想天外なAIとうまく付き合うコツは、プロ棋士のような柔軟な頭脳なのかもしれません。