シリーズあしたのヒントLGBTQフレンドリーな組織づくりで、誰もが働きやすいチームに

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日本企業でもダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進が注目されるようになって久しい。近年はLGBTQへの理解も求められるようになっているが、少数派への配慮と思われがちな対応が、じつはチームビルディングにも活きてくるという。組織のLGBTQ理解・活躍支援に力を入れる堀川歩さんに話を伺った。

企業はLGBTQに対応する必要があるのか?

LGBTQという言葉の認知は広がっているが、実際に求められる配慮や具体的な対応について理解している人はまだ少ない。ただ、2020年施行のパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)で、性的指向や性自認(SOGI)に関する項目が設けられ、侮辱する言動や、本人の意思に反して暴露するアウティングはパワハラとして規定されたことから、企業の適切な対応が必要不可欠となっている。

※ LGBTQとは、Lesbian(レズビアン:女性同性愛者)、Gay(ゲイ:男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル:両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー:心の性と体の性が異なる人)、QueerやQuestioning(クイアやクエスチョニング:自らの性について、特定の枠に属さない人、わからない人など)の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティ(性的少数者)を表す総称の一つとしても使われることがあり、多様な性(セクシュアリティ)を表現した言葉。近年は性的指向や性自認を表すSOGI(Sexual Orientation and Gender Identity)という言葉も用いられる。

一方、いまだに「なぜ会社として取り組まなければならないのかと感じている社員や経営層も少なくない」と堀川さんは話す。

「D&Iのなかでも女性活躍や障がいのある方々への取り組みはまだしも、LGBTQにも対応する必要があるのかという疑問を持つ人もいるようです。ただ、性自認や性的指向は誰しもが持っているもの。その違いを認め合うことはD&Iの第一歩となり、自分らしく活躍できる職場、さらには企業価値の向上へつながるのです」

堀川 歩

性的指向や性自認は、その人のアイデンティティと深く結びついているもの。誰しも自分を否定されたり、隠さなければならない環境では、本来のパフォーマンスを発揮することは難しい。それはLGBTQに限った話ではないが、少数派であるLGBTQはアイデンティティを押し隠したり、否定されかねない環境で働いていることも少なくない。

誰もが力を発揮できる組織づくりには、心理的安全性が担保された状態で、抑圧されることがない環境を整えることが大切だ。

少数派が働きやすい職場は、多数派にとっても働きやすい場となる。多様性を備えた会社が社会的に評価され、企業価値が高まるのは、そうした企業が高い競争力を備えていると判断されるためだ。

最初から満点を目指さなくてもいい

そうはいっても性的指向や性自認について、教育も研修も受けてこなかった世代には、すぐに正しい対応をするのは難しいかもしれない。堀川さんも「いきなり100点を目指さなくてもよいのです」と強調する。

「まずはきちんと向き合う姿勢を示すことが大切で、普段の会話での言葉の使い方や、やってはいけないことを知っておくことです」

「ホモ」「レズ」「あっち系」などは、昔は使われていたかもしれないが、いまの時代使わない方がいい言葉だ。また、性的指向は嗜好や性癖とは異なり、性自認が体の性と合わないことも決して“異常”なことではない。正しい知識を身に付けることが、多様性を認め合う職場づくりの第一歩となる。

その上で、不安に思う人が多いであろうカミングアウトや相談を受けた際の対応についても聞いた。

「まず、話に耳を傾けること。そして『話してくれてありがとう』と伝えてください。自身の性自認や性的指向について話すのは勇気がいることですから」

堀川 歩

否定や無関心はもちろん、過剰に反応することや、明らかに距離を取るなどいままでと極端に対応を変えるのもやってはいけないことだという。

また、普段の会話の中で性に関する冗談や差別的発言が多ければ、当然ながら「上司に話したら差別的な反応をされたり、キャリアに何か起こるかもしれない」という不安につながる。職場の心理的安全性を確保するにはマイナスな行動といえるだろう。

「カミングアウトすることだけが善ではありませんが、話したい人が話せる、カミングアウトしなくても自分らしくありのままを表現できる心理的安全性の高い組織は、誰にとっても働きやすい組織になります」

リーダーの積極的な自己開示がコミュニケーションを引き出す

一口にLGBTQといっても個々で困っていることは異なり、特に制度や設備などのハード面では求められる対応が違う。

「トランスジェンダーだとトイレや服装などが多く、同性愛やバイセクシュアルの方は、結婚や育児、介護など異性愛・異性婚を前提とした家族に関わる支援制度で困ることが多い。会社はまず、何が困難の要因となるかを知ることが大切です」

パートナーがいても単身扱いで転勤を命じられるケースや、家族がいる際に受けられる支援制度が利用できないこともある。最悪の場合、やむを得ず退職を選んでしまうことにもつながるという。

「同性パートナーシップ制度もありますが、より包括的なファミリーシップ制度を導入する企業もあります。大切なのは一緒に変えていこうという姿勢です。いま社内で当事者の有無がわからなくても、整備したり選択肢をつくることが、結果としてすべての社員にとっての働きやすさ、仕事の続けやすさにつながります」

堀川 歩

企業風土やコミュニケーションなど、ソフト面のアップデートも大きな課題だ。“結婚して家庭を持って一人前”というステレオタイプや、コミュニケーションの一つとして異性の話をするといった古い価値観による無自覚な言葉が人を傷つけてしまうことも少なくない。

「『まだ結婚しないの?』というような言葉はもちろんですが、たとえば『週末何してたの?』という何気ない問いかけについても、私自身“同性パートナーと過ごしていたと思われないように”とウソをついていたことがありました。周囲の反応を気にして、ウソをつき続けるのが自分を偽っているようで、とても辛かった記憶があります」

近年は、性的な話題によるコミュニケーションを好まない人が増え、また、「家族」のあり方も多様化している。そんななか、どのようなコミュニケーションを心掛ければいいのだろうか。

「最近はプライベートなどを聞いてはいけないと思われがちですが、しっかりと信頼関係を築き、お互いを尊重したコミュニケーションをとることの方が大事です。それぞれ多様なバックグラウンドを持っていることを知り、自分の思想や価値観を押し付けないよう意識する。自分が知らないことを認識し、学ぶ姿勢も大切です。個人的な経験では、カミングアウトで自分を知ってもらってからの方が、人から相談されたり、深い話をしてもらえる機会が増えました。自己開示がコミュニケーションを引き出したのだと実感しています」

堀川氏は会社の代表となってからも、苦手なことなどを積極的に開示しているという。それによって周囲が助けてくれたり、相手も安心して自己開示してくれるなど、お互いの関係性だけでなく組織運営の面でも変化があったという。

お互いを知り、認め合い、一人で悩む人をなくしていくことが、D&Iの追い求めるものといえる。

※所属・役職等は取材時のものです。

堀川 歩 堀川 歩
株式会社アカルク代表取締役社長堀川 歩(ほりかわ あゆむ)

1990年生まれ。大阪府出身。心の性は男性、身体的な性は女性として生まれる。高校卒業後に陸上自衛隊に入隊し、任期満了後は自分の目で世界の現状を確かめるために世界一周の旅に出る。帰国後は、LGBTQの方の総合サポート事業を個人で立ち上げる。その後、ユニバーサルデザインのコンサルティング会社の人事部長を経て株式会社アカルクを設立。大和ハウス工業株式会社のLGBT活躍推進アドバイザーや関西学院大学非常勤講師も務める。

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