Special edition“KPI”

プロセスにこだわるゴルフ職人
西郷真央さんインタビュー

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目覚ましい活躍を続ける女子プロゴルファー西郷真央。
快進撃を支えているのは、自分自身とゴルフに丁寧に向き合う真摯な姿勢にあった。
インタビューは得意ではないと言いながらも、自分の言葉で話したいと語ってくれた。

ゴルフ人生に影響を与えた一打

2022年はキャリア史上、最も充実したシーズンとなりました。開幕戦、ダイキンオーキッドレディスでの念願のJLPGAツアー初優勝を皮切りに、計5回優勝。また、かねて挑戦したいと思っていた全米女子プロなど海外のメジャーツアーに参戦できたことも、今後につながる大きな経験となりました。

じつは、国内女子賞金ランキングでは、ルーキーシーズンだった2020-21年度(コロナ禍で統合)の方が一つ上。ですが、2位が7回と、どうしても勝ち切れない試合が続き、悔しい思いをしていました

初優勝した試合でも、最終日は、トップと5打差の8位でスタートするなど、もう一息という展開が続いていました。なかなかスコアを伸ばせずにいたのですが、このときは不思議と焦りはなく、自分のやるべきことに集中できたおかげで、終盤でバーディーパットが決まるようになっていました。日々の練習の成果が現れ、どうしたらいいか、具体的なイメージが頭に浮かんだことで、すぐに決断できたのです。

いま思えば、ミスを引きずらず、割り切って気持ちを切り替えられたことが、重要なターニングポイントとなりました。落ち着きが生まれ、目の前の一打に向けて集中力を高めることができましたから。

私のプレーの特徴はショットの精度です。一方で、グリーンまわりのアプローチやパターの精度には課題を感じていて、オフに練習を重ねていたのですが、その成果がここで出せたのだと思います。おかげで、優勝がかかっているとわかっていても緊張することなく、アプローチをどう打つかということだけに意識を向けることができ、初優勝へとつながりました。

このときのアプローチショットは、我ながら高い集中力で臨めたと思います。結果が出たことで、今後につながる自信の一打になりました。

そんな私が思うゴルフのいちばんの醍醐味は、自分で考え、試合を組み立てていくところにあります。特徴が異なる14本のクラブを使い分けながら、状況が刻々と変化するコースをいかに攻略するか。正解は一つではありませんから、考えることが好きな私には、たまらなく魅力的なスポーツです。難しいけれど本当におもしろいんです。

西郷真央

苦しかったアマチュア時代

いまでこそ「試合が好き」と胸を張って言えますが、アマチュア時代は、どちらかというと練習の方が好きでした。というのも、試合でなかなか結果を出せなかったからです。当時は、結果が出ない試合より、あれこれ工夫しながら練習する方が楽しいと感じていた自分がいました。これがいまの練習の量につながり、ファンの皆さんから「ゴルフ職人」と言っていただける理由なのかもしれませんね。

私がゴルフを始めたのは5歳の頃です。もともとゴルフ好きの父の影響で、子ども用のゴルフセットで一緒に遊ぶようになりました。わけもわからないままに、クラブを振るとボールに当たる。当たると飛ぶ、ということがすごく面白くて。飛ぶ方向はばらばらでしたが、とにかくひたすら打ち続けていました。

そんな私を見て父は、将来はプロゴルファーに、と思ったようです。小学生になると、父に言われるままジュニアの大会に出始め、小学4年生からはミズノゴルフアカデミーに入会し、プロの指導を受けるようになりました。その頃の私は、まだプロになるというイメージはぜんぜん持っていなかったのですが、変わらずゴルフの面白さは感じていました。

ミズノゴルフアカデミーでは、年上の方やプロを目指す方と一緒にコースを回る機会も多かったのですが、そのなかで勝ちたいというよりは、間近ですばらしいプレーを見られることがひたすら楽しく、すごいなあと感心するばかり。その姿を見て勉強していました。それがいま、貴重な経験として積み上がっていると実感しています。

また、私が小学校高学年のときには宮里藍さんが活躍されていて、テレビ観戦をしながら、あんなふうになれたらという憧れもありました。

6年生のとき、ジュニアの大会で初優勝。中学もゴルフ強豪校へ進学し、個人や団体で優勝を何度か経験しました。といっても順風満帆だったわけではありません。特にジャンボ尾崎さんが設立された『ジャンボ尾崎ゴルフアカデミー』の1期生として入門した高校時代は、苦しいことの方が多かったです。ジュニアの大会は、プロほど試合数が多くないため、限られた試合数のなかで確実に結果を残さなければなりません。しかし、予選落ちするなど思うような結果が出せず、焦りばかりが募っていたのです。

その反動のように練習に打ち込み、試合より練習の方が楽しいなんて思っていたわけですが、やがて変わるきっかけが訪れました。高校3年生の6月に出場した、日本女子アマチュアゴルフ選手権での優勝です。

がんばっていれば、いつか必ず結果が出るんだ。そう実感できたことがうれしかったですし、これ以降、試合って楽しいと思えるようになったことも大きかったと思います。

結果が欲しいからこそ結果を意識しない

試合に出るからには優勝したい。プロですから、何勝したかが問われるのも当然だと思います。とはいえ、結果に意識が行き過ぎるのは、私は違うと考えています。特に順位やランキングは、自分だけではどうしようもない部分がありますし。

だからこそ、自分に矢印を向け、自分だけで完結できる目標を立てることを大切にしています。そのすべての根幹は、楽しいという気持ちです。一生懸命ゴルフをすることは、とても楽しいことなんです。そして、私はなぜゴルフをしているのか、プロとしてどうしたいのかと自分に問いかけ、目標を見据えるのです。ここさえしっかりしていれば、たとえ思うような結果が出なくても、ぶれることはありません。

ですので、じつは賞金女王は目標として考えていないんです。どちらかというと、一試合一試合、自分が納得できるかを大事に、シーズン前に立てた目標をクリアしたい。人に影響されない、自分で完結できる目標を立てています。大きな結果ではなく、小さな結果を目指して積み重ねているのです。

西郷真央

たとえば、パッティングの練習に重点を置いた週の試合では、パッティングがしっかりできたかどうか。パッティングの調子が上がらないと、球を入れたいという意識が強くなり過ぎて、しっかりラインを読んで打つ、という基本的なことがおろそかになってしまいます。すると結局、パットは入りません。だからこそ、試合中に意識するべきことは何なのか、そこにちゃんと集中して、最後までやり切る。そうした小さなプロセスの積み重ねが結果につながっていると思うのです

また、自分のプレーに集中するためには、道具も大切です。プロ選手のなかには、クラブ選びをメーカーの担当者にお任せしているという方もいらっしゃるのですが、私は自分ですべて把握し、納得のいくものだけを使いたいと思っています。

そう考えるのは、やはり父の影響が大きいかもしれません。父はこだわり派で、あれこれクラブを取り揃えて、いろいろ試してみることが好きでした。その様子をそばで見ることで、ほんの1、2グラムの差が結構な違いとなって球に影響を及ぼすということを学びました。それを知っていることがプラスになる。だからこそ、私も自分が使う道具にはこだわっています。

プレーの引き出しを増やしたい

西郷真央

今シーズンも国内のメジャー大会で優勝を狙っていきます。同時に、海外のメジャー大会にも挑戦し、優勝争いに絡んでいきたいです。

海外挑戦への思いが強くなったのは、2022年です。アメリカでメジャー大会に参加したときに、アメリカと日本でまったく違う芝にかなり驚きました。芝の質の違いは、プレーにダイレクトに影響します。得意としているショットでもやりにくさを感じたのですが、もっとも難しかったのは、グリーンまわりです。国内の芝と同じ感覚でアプローチしても、球が転がらなかったり、思うように打てなかったりして、簡単にボギーになってしまったことも一度や二度ではありません。

その後、国内で開催されたTOTOジャパンクラシックで、海外のトップ選手と回る機会があり、改めてそのプレーをじっくり見てみたのですが、海外のトップ選手は、クラブ選びも含めてあの手この手を繰り出しているのですね。その引き出しの多さには驚かされましたし、私ももっと引き出しを増やしてどんな環境にも対応できるようになりたいと強く思いました。そのためには、いま以上に練習に励むのはもちろんのこと、海外の試合に出場し、トップレベルのプレーをこの目で見て吸収することも不可欠です。今季、海外大会への参加資格は、引き続き保持しているので、自分自身のさらなる成長のためにも、積極的にチャレンジしていきます。

小さい頃からゴルフ漬けの毎日ですが、それくらい大好きなゴルフを続けられることに感謝しています。ファンの皆さまに、そんな私を通してゴルフの楽しさをお伝えできるよう、さらにこだわって練習を積んでいきたいと思っていますので、応援していただけると幸いです。

※所属・役職は取材当時のものです。

西郷 真央 西郷 真央
JLPGAプロゴルファー西郷 真央(さいごう まお)

2001年10月8日生まれ。千葉県出身。麗澤高等学校3年時の2019年に日本女子アマチュア選手権で優勝。19年プロテストに合格し20-21シーズンより国内ツアーに参戦、トップ10入りを21度記録。島津製作所所属となった22年シーズン開幕戦の第35回ダイキンオーキッドレディスゴルフトーナメントにてツアー初優勝、同年年間5勝を飾り、JLPGAアワード栄誉賞受賞。年間出場10試合目で5勝は、ツアー史上最速記録。また同年より海外メジャーにも参戦しアムンディ・エビアン選手権において3位タイ入賞。23年シーズンはさらなる飛躍を目指す。

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