島津製作所は明治8(1875)年に創業しました。今からちょうど150年前のことです。
その頃の我が国は、新しい国のかたちをめざす大きな転機の真っ只中。島津創業の地である京都の木屋町二条周辺には、科学や産業を奨励する施設が次々と開設され、先端科学の集積地の様相を見せていました。
創業者の島津源蔵はその息吹を感じ取り、理化学器械の製造を生業に定め、科学教育の黎明に力を注ぎました。以来、私たちは科学技術の進展と歩調を合わせて成長し、社是として掲げる「科学技術で社会に貢献する」の言葉通り、科学技術で今日の社会の礎を支えてきました。
時代の変化とともに、次々と新しい産業が生まれました。新しい産業には新しい技術が求められます。どれ一つをとっても、決して簡単なものではなかったでしょう。
それに対しても島津は挑戦を重ねてきました。私たちの力を必要とされる方がおられたからです。
お客様のもとを訪ねる。すると、目を輝かせて夢を、未来を語る人がいらっしゃる。これを見ることができれば、長年の謎に近づくことができる。こんなものをつくることができれば、科学の進歩に貢献できる。一緒にやってほしいとお客様が情熱を語られる。その情熱に突き動かされて、私たちは頭と手を動かしてきました。
もちろん、初めて見聞きするものもありましたし、挫折しそうになった研究も少なくありません。しかし、あきらめることなく、アイデアを図面にソフトウェアコードに落とすということを続けてきました。
なぜ、挑戦を続けることができたのでしょう。それは、私たちの力を必要として、声をかけてくださった方が、つねにいらしてくださったからです。我々を励まし、一緒に汗を流してくださる多くの方々から、たくさんのエネルギーを頂いたからこそ、私たちはよりよいものをつくることに集中することができたのです。
そして、その積み重ねこそが今日の島津製作所グループの姿だということに、疑う余地はありません。島津には、創業以来お客様とともに培った150年もの技術が蓄積されています。効率化が求められる時代、全ての技術を保持し続けるのは無駄が多いのではないかと言われることもあります。しかし、技術というものは一度捨ててしまえば簡単には取り戻せません。もう一度手に入れるには、その技術を開発したときと同じくらいの時間と努力が必要です。

技術を蓄積し続けてきたからこそ、お客様から、島津ならなんとかしてくれると期待をかけていただき、持っていた技術をフルに活用して答えに近づくことができた。そして、その答えが、また新しい“図面”につながる。技術を持ち続けることは、科学技術で社会に貢献するための覚悟ともいえるでしょう。
150年という長い年月、社会に貢献し続けてこられたことは素晴らしいことです。多くの先輩方が挑戦を続けてこられたのと同じように、私たちもまた次の150年に向けて新たな一歩を踏み出していくのだと思うと、身の引き締まる思いがします。
150年後の世界がどのようになっているのか想像もつきませんが、これまでの時代をはるかに超えるスピードで変化していくことは間違いありません。
人は地球の外でも暮らすようになっているでしょうし、エネルギー問題をはじめ、現在の社会が抱える課題の多くは、新しい技術によって解決されているでしょう。
今日、人の健康維持は大きな課題の一つです。多くの先進国で人の寿命は延びていますが、健康な状態と命の長さとの間には10年以上の開きがあります。誰もが健康な状態で最期を迎えられる社会を実現する。これは社会全体の持続可能性に関わる大きな課題だと思っています。
地球もまた“健康不安”を抱えています。人は生活する上で膨大なエネルギーを必要とし、食事だけでも1日2000キロカロリーものエネルギーが必要です。世界人口は増え続けており、100億人を超える時代も、遠からずやってくるでしょう。単純に計算しても、必要なエネルギー量が50億人の時代から比べて倍に膨れ上がり、さらに快適さを求めれば、計り知れないエネルギー消費を伴います。世界における石油や石炭などの一次エネルギーの消費量は、1965年以降の約60年で約4倍にもなっています。地球の大きさは変わらないまま、私たちは限られた空間で膨大なエネルギーを消費し続けています。だからこそ、温暖化や気候変動、食料問題など、さまざまな課題が引き起こされているのでしょう。
いまの私たちに何ができるのか、というのは難しい問いですが、最終的には全ての物質やエネルギーを循環させることが不可欠ではないかと思っています。人間社会だけでなく、ほかの生き物、微生物まで含めたエネルギー循環の研究と技術を開発する。ここにも私たちにできることはたくさんあります。
いまはまだ「夢」かもしれません。しかし、これまでも私たちは、夢を思い描き、図面に落とすことで、一つずつ未来をつくってきました。たとえ150年先を見通すことはできなくても、そこへ続く道を一歩ずつ歩んでいこうと、私たちは声をかけ合っています。
島津は、決して歩みを止めません。
※所属・役職等は取材時のものです。
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