寝たきりリスクを減らしたい
「ストップ・アット・ワン」を合言葉に骨粗鬆症を予防する

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いつまでも元気に体を動かし、いきいきと暮らしたい。
誰もが抱くささやかな望みを叶えるために、骨粗鬆症の指標となる骨密度測定法の確立に力を注いできた医師がいる。
川崎医科大学附属病院放射線核医学の曽根照喜教授が、リスク評価と治療の現場を解説する。

予防すれば骨折は防げる

骨粗鬆症は、骨の量が減って骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気だ。骨がもろくなることで、つまずいて肘をついたり、くしゃみをしただけでも骨折につながってしまうことがある。

一説によると、日本国内で1000万人以上が骨粗鬆症になっているとされる。特に女性はホルモンバランスの影響で50歳を超えると指数関数的に患者数が増えていき、三人に一人は一生のうち一回は背骨の圧迫骨折を起こすと言われる。まさに国民病である。

「高齢者が二人いれば、そのうち一人は骨粗鬆症といってもいい。長く元気でからだを動かし、いきいきとした生活を送るためには、早くから自分の骨の状態を調べて、必要な対策をとることが重要です」

と話すのは、川崎医科大学の曽根照喜放射線核医学教授。同大学は、骨粗鬆症の診断や骨折予防のための治療を行う専門外来を設け、多くの患者さんの診断と治療を行ってきた。1980年代に日本で初めて骨密度測定装置の開発を手がけたのも同大学である。また、曽根教授は放射線科医として骨密度測定法の精度向上や新手法の開発を主導してきた。

川崎医科大学附属病院
川崎医科大学附属病院
昭和48年12月開設。1,182床の地域基幹病院として、岡山県地域医療の中心的な役割を果たしている。高度救命救急センターを併設し、ドクターヘリ事業を行っている。

骨密度は、正確に言うと骨を構成するカルシウムやミネラル成分などの骨塩の詰まり具合のこと。骨の単位面積あたりの骨塩量で算出される。骨密度を測る有効な方法がなかった時代は、実際に骨折した際の治療で骨粗鬆症と診断されていたが、1980年代の後半に、骨塩量をかなり正確に測れる技術が登場。骨粗鬆症の診断と治療は、大きく変わった。

「将来、骨折を起こすかどうかのリスクが判定できるようになり、現在では骨密度が低く、骨折のリスクが高い人を骨粗鬆症とするようになりました。そこから投薬治療を始めれば進行を食い止めることができ、寝たきりで辛い思いをする方を減らせるようになります」

合言葉は「ストップ・アット・ワン」

意外に聞こえるかもしれないが、骨も新陳代謝を繰り返している。もっとも、皮膚のように下から新しいものが現れて、古いものが剥がれ落ちていくというものではない。破骨細胞という骨の破壊と吸収を行う細胞が、古くなった骨を溶かし、骨芽細胞が形成した新たな骨の成分が、溶けたところを埋めていくという複雑なシステムが働いていて、およそ10年で全身の骨が入れ替わっている。

しかし、ホルモンバランスなどの影響で、この破骨細胞と骨芽細胞の活動のバランスが崩れ、溶かす量に対し埋める量が追いつかない状態が続くと、骨量が低下して骨粗鬆症となる。治療は、破骨細胞の働きを抑える薬の服用が一般的で、一定の効果もある。

だが、「やっかいなのは、早期に投薬治療すれば骨がもろくなるのをかなり食い止められるのに、自覚症状がないために重症化するまで来院されない患者さんが多い」ことと曽根教授は眉をひそめる。

曽根 照喜

骨がもろくなってもそれを自覚することはできない。もろなくなった背骨が体の重みでつぶれてしまう圧迫骨折を起こしても、一つくらいでは、「いつもの腰痛だろう」と見過ごしてしまうことが多いという。実際、潜在的な骨粗鬆症患者も含めると、治療を受けているのは患者の20%程度にすぎないとも言われている。

だが、そのたった一つの骨折で症状は急激に重篤化していく。背骨を一つ骨折すると、その上下にある骨に強い負荷がかかる。そのため、新しく骨折する危険性は5倍になり、複数の骨折があると危険性は12倍になるという。

「我々医師の間では『ストップ・アット・ワン』というのが合言葉になっています。一箇所目の骨折は許しても、二箇所目は許さないということ。いわば骨粗鬆症の二次予防ができれば、患者さんのQOLが大きくは損なわれることはないのです」

より信頼できる評価のために

より信頼できる評価のために

そのためにも正確なリスク評価は欠かせない。骨密度の測定は通常DXA法(Dual-energy X-ray absorptiometry)という手法で行われる。2種類のエネルギーの違うX線を照射して、放射線が体を通過する際、どれくらい吸収されて減っているかを計測することで、骨の量を求めることができる。

だが、一人ひとり体格が違うように、骨密度も人によって状態はまちまちだ。また、脊椎を測ろうとすると、肋骨が邪魔で正確に測れないといったことも多く、当初はどこを測定するか、測定するときの体位はどうするのが適切かといった試行錯誤を繰り返したという。

「もともとDXAはアメリカで開発された装置だったので、アメリカ人の患者さんを撮影するのに最適化されていました。 そのため、体格の異なる日本人を測定するためには、多くの工夫が必要でした」 と黎明期の苦労を振り返る。

いまやDXAは、かなり完成された計測技術となり広く普及した。ただ、より放射線被ばくを抑えたり、撮影の手間を軽減するといった工夫は続けられている。島津製作所もDXA装置の開発は続けており、曽根教授と共同で信頼性向上のための取り組みも行っている。

X線テレビシステムSONIALVISION G4
骨密度測定アプリケーションSmartBMDオプションを搭載可能なX線テレビシステムSONIALVISION G4

今後は、骨の量だけでなく質についても評価できるようにしたいと曽根教授は語る。「質とは、網の目のようになっている骨の構造です。骨密度がそれほどなくても、構造がしっかりしていれば、骨折しにくい場合がありますし、逆に投薬治療を行って骨量が増えたにもかかわらず、それが構造的にあまり強度に関係ないところだと、もろいままです。何らかの3次元のデータを抽出して、うまく評価に反映できる指標がつくれないか研究を続けています」

検査技術も治療法も、この数十年で格段に進歩したが、それでも一度減った骨量を再び増やすのは難しいという。

「まずは予防することです。1か月寝たきりになると骨密度は10~20%も減少します。適度な運動を続けて常に骨に刺激を与えること。カルシウムやビタミンDをたくさん摂ることが大切です」

将来のリスクに備えて、骨の貯蓄もしっかり管理しておきたいものだ。

曽根 照喜 曽根 照喜
川崎医科大学放射線核医学 教授曽根 照喜(そね てるき)

1958年、香川県出身。83年京都大学医学部卒業、86年に同大学院に入学し、米ベイラー医科大学留学を挟み、93年3月修了。京都市立病院勤務の後、1994年から川崎医科大学に勤務。2009年から現職。日本核医学会専門医、日本医学放射線学会専門医、日本骨粗鬆症学会理事、日本骨形態計測学会理事長。

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