2014.11.11 「アルツハイマー病早期検出用血液バイオマーカー発見」論文が発刊されました

 日本学士院が発刊する総合科学英文学術誌”Proceedings of the Japan Academy, Series B”にて、「質量分析システムを用い アルツハイマー病変の超早期発見に結びつくバイオマーカー候補を 血液の中から発見した」事を紹介する論文が発刊されました。

 アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβ(Amyloid-β:Aβ)タンパク質は、認知障害発症よりも10年以上も前から脳内に蓄積し始めている事が 既に報告*1されています(ただし、アミロイドが蓄積した方の全てがアルツハイマー病を発症するわけではありません)。
 アルツハイマー病進行の指標としては、これまで 脳脊髄液中のAβ[1-40],[1-42]量の増減 等が用いられてきましたが、腰椎穿刺法を用いた採取はエキスパートに頼る必要があり 特に高齢者では採取が困難な場合もあります。
 また、脳内アミロイドに親和性の高いポジトロン放出化合物(例:PiB(Pittsburgh Compound B))が開発された事により、PET-CTイメージングによる判定も試みられていますが、大規模な設備と多額の費用がかかります。
 一方、血液中に微量しか存在しないAβ量の測定も試みられていますが、その量は脳脊髄液中と比較すると1/50程度、逆に含まれているタンパク質全体の総量は約100倍もあり、単純計算では脳脊髄液よりも計測が5,000倍困難な状況です。しかもAβ[1-40],[1-42]量は、血液中では病気の進行との相関関係が認められていません*2

 本論文では、FIRSTプログラムで開発した1万倍高性能の質量分析システムを用い、今年3月に既報告の論文*3で述べている「新規発見8種類を含む血液中のAβ関連ペプチド同時検出22種類」の中で、今回 2種類の比率(割り算の値)が 脳内アミロイド蓄積の進行と比例関係が見られ、結果として「アルツハイマー病変の発症前検出に有用と考えられる血液バイオマーカーを 質量分析システムを用いて発見」した事 を説明しています。

 この研究の今後の進展により、健康長寿社会への貢献が期待されます。

 

  • *1 ICAD 2010, “CRITERIA FOR PRECLINICAL ALZHEIMER’S DISEASE”
    <http://www.helmedica.gr/items-6-5-en.htm> (Figure 3 参照)
  • *2 Alan Rembach, et.al., “Changes in plasma amyloid beta in a longitudinal study of aging and Alzheimer’s disease”, Alzheimer’s & Dementia, Vol. 10, 2014, pp53-61
    <http://dx.doi.org/10.1016/j.jalz.2012.12.006> (Figure 1 A,B,C 参照)
  • *3 Naoki Kaneko, Rie Yamamoto, Taka-Aki Sato, Koichi Tanaka
    “Identification and quantification of amyloid beta-related peptides in human plasma using matrix-assisted laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrometry”, Proceedings of the Japan Academy, Series B, 2014, Vol. 90, pp104-117
    <http://dx.doi.org/10.2183/pjab.90.104>

 

Naoki Kaneko1, Akinori Nakamura2, Yukihiko Washimi3, Takashi Kato2,3, Takashi Sakurai3, Yutaka Arahata3, Masahiko Bundo3, Akinori Takeda3, Shumpei Niida4, Kengo Ito2,3, Kenji Toba3, Koichi Tanaka1, Katsuhiko Yanagisawa2
“Novel plasma biomarker surrogating cerebral amyloid deposition”,
日本語訳例「脳内アミロイド蓄積をサロゲートする 新規血漿バイオマーカー」
Proceedings of the Japan Academy, Series B, 2014, Vol. 90, pp353-364
1 Koichi Tanaka Laboratory of Advanced Science and Technology, Shimadzu Corporation
2 Center for Development of Advanced Medicine for Dementia,
 National Center for Geriatrics and Gerontology
3 Hospital, National Center for Geriatrics and Gerontology
4 BioBank, National Center for Geriatrics and Gerontology

 

本論文は、J-STAGEからフリーでダウンロードが可能です。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjab/90/9/90_PJA9009B-04/_pdf
日本学士院 “Proceedings of the Japan Academy, Ser. B” ホームページ
http://www.japan-acad.go.jp/japanese/publishing/pja_b.html

 

本論文の分かり易い解説:
JASIS先端診断イノベーションゾーン FIRST-ms3d PJ まとめ 展示ポスター
pdf 3/3 応用編 「アルツハイマー病診断への貢献」部分参照

 

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