シリーズあしたのヒント平等ではなく公正に
“フェア”マネジメントがチームを変える

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フェアであること。それは、いざというときチームに結束力を生み、大きな力を生み出す。
欧米では1980年代から「組織公正性」の研究が盛んに行われ、それを促進するためのフェアマネジメントの重要性が示されている。
フェアマネジメントとはなにか、どのようにすればよいのか。職場のメンタルヘルスにも詳しい専門家・北里大学大学院の田中克俊教授に聞いた。

リーダーがフェアかどうかが逆境を乗り越える力に

部下やチームのメンバーに、できるだけ親身に接するように心がけていても、仕事である以上、ときには厳しい言葉をかけたり、ハードな要求をしなければならない場面もある。

ネガティブな内容であっても、それを伝えることで結果的に部下の成長や前向きな行動につながるようにするにはどう言えばいいか、言葉選びに悩んだり、ときには言えないままでいるマネージャーも少なくないだろう。

「大切なのは、普段から部下に『この上司はフェアな人だ』と認知されているかどうかです。かける言葉を選ぶのも大事ですが、常日頃からフェアな態度や行動を心がけることが、部下との信頼関係を築くうえで重要です」
と語るのは、北里大学大学院の田中克俊教授。日本産業精神保健学会の常任理事ほか、睡眠に関する研究についても著名で、産業医として多くの企業でメンタルヘルス対策にかかわってきた。

フェア(=公正、心理学的には正義と同義)であることと、皆を平等に扱うこととは違う。平等とは、どんな状況の人にも同じ扱いをすることだが、公正とは、偏りなく正義感を持ってふさわしい対応をすることを意味する。自分も含めたメンバー全員が公正に扱われているという信頼や安心感は、働きやすい職場をつくるためのポイントだという。

「欧米では組織公正性についての研究が盛んに行われており、『わたしの上司はフェアだ』と答える人が多い職場ほど、ワークエンゲイジメントが高く、ストレスレベルや離職率が有意に低いことがわかっています。たとえ厳しい評価や指導だったとしても、その決定が公正になされたものだと認知されていれば、部下は一次的にネガティブな気持ちになったとしても、納得して受け入れることができるのです」

公正であることがチームの士気を高める

では、どのような行動を心がければ、チームのメンバーに“フェアな上司”と認識してもらうことができるのか。田中教授は、組織公正性の構成要因は、①分配の公正、②手続きの公正、③情報の公正、④対人関係の公正の4つだという。

分配とは、文字通りリーダーや組織から部下に与えられる役割や評価・給与などの分配のことだが、心理的には分配そのものよりも、その分配が決定された手続きやその説明がより重要になるという。

「リーダーの判断や評価の手続きが公正に行われ、そのプロセスについて十分な説明が行われると、人は“理不尽だ”と感じる可能性が少なくなります。単なるネガティブな感情は、時間とともに薄れていきますが、出来事に際して理不尽だという思いが伴ってしまうと、それは容易に怒りにつながり、『仕方ない』とも思えないままネガティブな感情が長く残ってしまいます。

たとえば、評価面談などで部下に低い評価を伝える際には、そっと済ませたいところですが、そういうときほど、その評価プロセスについて時間をかけて説明することが必要です。確かにそのときは余計に波が立つことになるかもしれません。ですが十分な説明なしにネガティブな結果を押し付けられる方が、潜在的な不信感やネガティブな感情が強化されることにつながってしまいます」

同様に、情報の公正さも重要だ。

「情報の偏りは、職場の凝集性を阻害してしまいます。以前は上司だけが情報を持っていることで上司の優位性を保つことができたかもしれませんが、いまはそういうわけにもいきません。開示できる情報はすべて皆に知らせようとする上司の姿勢は、部下に安心感を与えます。普段から『自分だけが知らないことがあるかもしれない』と感じている部下は、ちょっとしたことで不安を感じやすくなり、リーダーや周囲への不信につながる傾向があります」

田中 克俊

一人の大人として接することが対人関係の基本となる

4つ目の対人関係の公正については、「どんな人も一人の大人として接することが基本」だという。

職場での職位やパフォーマンスがどうであれ、その人自身の価値は、職場のみで決定されるわけではない。家に帰ればかけがえのない大切な存在であったり、地域やほかのグループにおいては、欠かせないリーダーだったりする。人は皆、職場だけで規定されない多様なプライドを持って生きているのであり、すべての人間関係において、相手のプライドを傷つけることは絶対避けなければならない。田中教授は、労災の審査にも関わっている立場からこうも話す。

「最近の労災申請理由の7~8割は、上司からパワハラを受けたという訴えですが、審査をしていると、その本質はプライドを傷つけられたことによる怒りであることがよくわかります。どんな大人しい性格の人でも、プライドを傷つけられると、自動的に強い怒りの感情がわきますし、それ自体を忘れることはありません」

また、対人関係の公正さは、特に女性のワークエンゲイジメントにも関係し、それが与える影響は、組織公正性を構成する4要因のなかで最も大きいことが示されているという。

田中 克俊

リーダーにとって、パワーハラスメントと感じさせるような行動や態度を避けるのは当然だが、対人関係の公正さを向上させる対策はないのだろうか。その最も簡単で確実な対策として、田中教授は「挨拶」を挙げる。

朝、職場に入る際に「おはようございます」と挨拶したとき、メンバー全員が振り返って、顔を見ながら笑顔で挨拶を返してくれたらどうだろう。仕事ができるできないに関係なく、それはすべての人にとって、とても気持ちがよいことであり、職場に受け入れられているという実感が得られるはずだ。

逆に、朝の挨拶さえもない職場や、挨拶してもほとんど返事もしないような職場だとどうだろうか。田中教授によると、メンタルヘルス不調になって休業する人の多くの訴えは、「職場での孤立感」と有意に関係しているという。

「挨拶は、心を開いて相手に近づくというメッセージであり、皆で気持ちよく挨拶しあうことは、職場における大きな心理的報酬となります。職場ではよいことも悪いこともありますが、『挨拶は皆で気持ちよく!』というのを、職場の約束としてぜひ守ってもらいたいものです。挨拶がない職場ではチームワークなど育ちませんし、リーダーは挨拶運動の推進役でなければなりません」

欧米でフェアマネジメントの研究が進んだのは、異なる宗教や文化的バックグラウンドを持つ人が集まる職場で、唯一の拠り所にできるものがフェアネスだったからという側面がある。

日本企業では、これまで終身雇用や年功序列という平等主義のおかげで、激しい職場内葛藤が生じることは少なく、部下のマネジメントには特別なスキルや工夫は必要なかった。しかしそうした時代が過ぎたいま、フェアであることはリーダーとしての責務であり義務なのだ。

※所属・役職等は取材時のものです。

田中 克俊 田中 克俊
北里大学大学院 医療系研究科産業精神保健学 教授田中 克俊(たなか かつとし)

1990年産業医科大学医学部卒業。株式会社東芝本社産業医、昭和大学精神神経学教室講師、北里大学大学院医療系研究科産業精神保健学准教授を経て現職。日本産業精神保健学会常任理事、日本産業保健法学会常任理事、日本ストレス学会理事、日本産業ストレス学会理事、日本うつ病学会理事。著書に『保健、医療、福祉、教育にいかす簡易型認知行動療法実践マニュアル』大野 裕・田中 克俊(きずな出版)東京 2017など。

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