シリーズあしたのヒント情報共有と心理的安全性で実現する
“自走できるチーム”とは

  • LinkedIn

目標に向かって自走できるチームをつくるためには何をすればいいのか。
リーダーシップとチームワークを研究テーマに、多くの企業の現場を知る早稲田大学商学部准教授の村瀬俊朗氏に“自走するチーム”を作るためのポイントをうかがった。

“自走するチーム”が求められる時代に

リモートワーク化が急速に進み、チームでも個々に分散して働くことが当たり前となりつつある昨今。リーダーは誰が何をしているのかを正確に把握し、管理することが以前よりも難しくなっている。チームを率いるリーダーの誰もが、メンバーが自立して各々の仕事をこなすフレームワークの必要性を感じていることだろう。

「確かにリモートワークが広まったことで、自走できるチームが注目されていますが、実はその重要性は以前から言われていました。上司が立てた計画を部下が言われた通りに遂行するというトップダウン型のチームは、ずいぶん前から市場の変化のスピードに対応できなくなっています。指示のもと個々が動くのではなく、横のつながりを大事にしてチームで責任を持ち、ゴールを目指すようにならなければ、競争力を持ってやっていくのは難しいでしょう」

と早稲田大学商学部の村瀬俊朗准教授は語る。では実際にどのように運営すれば、自走できるチームが作れるのだろうか?

「まず、大前提として“自走”と“放置”は違います。リーダーが適切に介入し、1+1+1=3ではなくそれ以上に『させるように』、構造的、能動的にチームを運営するという意識を持たないといけません」

耳の痛い言葉だが、チームが自走できるようになるには、見守りと介入の塩梅を都度うまく変えていく。リーダーの面倒見が今まで以上に重要になるのだという。

小さな成功体験を重ね“勝ちパターン”を作る

自走するチーム作りには「成功体験」が大切だと村瀬氏は言う。それは、大きなプロジェクトの成功だけをいうのではない。

小さな目標を設定し、個々ではなくチーム全体で達成する小さな成功体験を積むことで、チームそのものの自信がつく。身近なところにチームとしての目標を設定することもリーダーの重要な役割なのだ。

「その過程で、リーダーが細かくフィードバックを返すことも大切です。走り出した当初は、その方向が正しいのか? このやり方で良いのか? という疑問や不安がメンバーに必ず生まれるので、方向性がズレていたら細かく軌道修正したり、チームとしての勝ちパターンを作り出す。

村瀬 俊朗
写真提供:村瀬俊朗氏

そのためにも、自走するまではリーダーが細かくテコ入れすること。自走を始めたら、逆に介入の度合いを減らすなど、柔軟な対応をすることも求められます」

ただし、そのフィードバックが、細かいルールでの“管理”になってしまうと、メンバーのモチベーションは下がる。「リーダーの仕事は部下の管理ではなく、チームの存在意義や目的意識を作り出して共有することだ」と強調する。

なぜその仕事をし、どこを目指しているのかを明確にし、そこに向かっているのであればルールは問わない。そんな姿勢が自走するチームを引っ張るためには必要なのだ。

リーダーなりの目標を何度も話すこと

鍵となるのは目標の設定だ。だが、経営陣からは広い意味でのゴールは示されても、部署ごとの具体的な目標が示されていないというのが普通だろう。

リーダーは自身が理解できなかったり、意味を見出せないからといって「上が言っているからとにかくやれ」というような伝言ゲームでは、メンバーのモチベーションが上がらないことは明白だ。

「作業としては進むでしょうが、個々の潜在能力を引き出して、よりレベルの高い仕事をするというマネージメントの役割を考えるとマイナスです。たとえ上からの目標とチームのつながりが分かりにくいものであったとしても、リーダーが自分なりに考え、覚悟と自信を持ってメンバーに話す。メンバーは、リーダーの考えが知りたいのです。自身の言葉で示せばメンバーのモチベーションは上がります」

また、メンバー全員で、腑に落ちるまで何度も話し合うことも大切だと続ける。

「メンバーも各々が自分の頭で考え、行動することが求められます。そのうえで自分たちが何に困っていて、何がわからないのかをリーダーから声をかけられるのを待つだけでなく能動的に伝える。声を上げないと誰も気づいてくれません。両方が歩み寄る努力をするなど、リモートではこういった意識づくりが今まで以上に必要なのです」

安心して失敗できる心理的安全性を作る

自走するチームのポイントは二つあるという。一つは「情報の共有」だ。

「目標やゴールの共有はもちろん、誰が何をしているか、 優先順位、個々の働き方や得意・不得意といった情報を共有できていることが、チームとして結果を出すための条件だといえます。リモート環境ではそれが難しくなるので、オープンチャットツールなどを活用してお互いに把握しやすいようにしておくとよいでしょう」

そのうえで二つめに重要なのが「心理的安全性」だ。メンバーが不安を感じずに物が言えることで、「これを言うと怒られたりバカにされたりするかもしれない」と発言を遠慮してしまうような空気は、新たな視点や意見の表出を妨げる。誰もが、プロジェクトに感じている不安や、ヘルプを求めるような声までも、自由に発言できるような雰囲気作りが重要だ。

そのネックとなるのが、すぐ怒ったり不機嫌だったりするリーダーの存在だという。

「人が考えられる量には限りがありますから、100%のうち、もしリーダーの顔色を伺うことに30%使ってしまうと、本来仕事に使うべき量が減ったり、相談や報告が遅れたり、できなかったりする原因にもなります」

いろいろな人が議論したからこそ厚みをもった結果や気づきが得られる。チームで動くことの利点は、多様な視点からの意見を集めることによって個々人では到達できないレベルの成果を得ること。そのためには多様な意見が出ることが重要で、多様性を抑制するような発言は許容しないという姿勢をリーダーが示すことも重要なのだ。

「イノベーティブなチームを作るためにも、安心して失敗できる環境を整えることは重要です。会議で出されたアイデアが失敗を経ないで成功する確率はほぼゼロです。早い段階で小さな失敗を積み重ねましょう。小さな失敗はチームの失敗にはなりません。安心して失敗できる土壌をつくることが、イノベーションを生み出すために最も大切な要素なのです」

リモート下では孤独感が増す。それは、相手を人として知ることができる気軽な雑談が圧倒的に減ってしまうからだ。仕事をする組織ではあるが、仕事だけではなくパーソナルな関係が構築されないと、チームとしての本来の力が出ないのだ。

「その重要性を理解しているリーダーは、あえて定期的に雑談の時間を設け、チーム力を上げています。メンバーの置かれた状況、考え、価値観などを知ることで、お互いをうまく補い、活かし、自走していけるようになるのです。

特にこれまで関係構築の貯金がない新人は声を上げにくい。仕事のつながりだけでは議論もしにくく本音も言えない。あえて雑談の時間を設け、周囲が意識的に声をかけるなどして、新人も含めた自走できるチームを目指してほしいです」

※所属・役職等は取材時のものです。

村瀬 俊朗 村瀬 俊朗
早稲田大学商学部准教授村瀬 俊朗(むらせ としお)

高校卒業後に渡米。セントラルフロリダ大学にて博士号を取得後、ノースウェスタン大学、ジョージア工科大学にて博士研究員を務める。ルーズヴェルト大学にて教鞭をとった後、2017年より現職。リーダーシップとチームワークを専門に、多くの企業とタッグを組み研究を重ねている。

この記事をPDFで読む

  • LinkedIn

株式会社 島津製作所 コミュニケーション誌