いちばん大事なのは「わかりやすく伝えること」
肺のスペシャリストが語る、診断と治療の今昔

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肺のスペシャリストとして検査と治療の最前線に立ってきた医師、日本赤十字社医療センターの出雲雄大部長
いちばん大事な仕事は「言葉で伝えること」という。
有史以来変わらない感染症との戦いに欠かせないものとは?

人と接する仕事がしたい

「元々、文系に進みたかったんです。人と接するのが好きで、弁護士とか外交官とか、将来はそういう仕事に就くのかなと思っていたんですけどね。でも高校の担任に理系が少ないから入れといわれて」

そう話すのは日本赤十字社医療センター呼吸器内科の出雲雄大部長だ。どんな質問に対しても、人懐っこい笑顔とともにユーモアを交えたわかりやすい言葉が紡ぎ出されてくる。

「医者って、文系的な仕事だと思うんですよ。日々患者さんと接しているなかで、患者さん目線でちゃんと説明できなければ信頼してもらえませんから」

専門は呼吸器疾患全般、特に肺がんの診断と治療、呼吸器内視鏡インターベンション、難治性喘息のケアなど、肺の検査と内科的治療の最前線で多くの人を救ってきた。

肺がんの画像診断では、すりガラス影と呼ばれる影を発見することがカギとなる。一般的なレントゲン撮影(胸部単純X線撮影)では難しく、CTによる画像診断が主流だ。しかし、CTは何枚ものX線撮影を伴うため時間的拘束が長く、毎回検査でCTを使用すると患者の被ばく量も増えてしまう。

そこで出雲部長が注目しているのがX線画像診断装置に付加できるトモシンセシスという機能だ。トモシンセシスなら胸から背中方向へ、1回の撮影で任意の深さの数十枚の連続断層画像によるボリュームデータを得ることができ、頭から足方向への横の断層画像を集積して立体画像を得るCTに比べ、時間も被ばく量も10分の1で済む。

整形外科領域ではすでに広がりをみせており、呼吸器領域でも肺がんのスクリーニングの有用性が報告され、出雲部長も島津製作所の装置を使って実証している。

X線TVシステムSONIALVISION G4 LX edition
出雲部長が肺がんの画像診断のスクリーニングとして期待をよせる、トモシンセシス機能をオプションで搭載可能な最新装置、X線TVシステムSONIALVISION G4 LX edition

「CTを受ける前のスクリーニングとして活用できれば、患者さんの負担を大きく減らすことができるでしょう。メーカーともっと連携し、画像診断事例を増やし、AIでの診断支援もぜひ実現したいですね」

左側が胸部単純X線画像、右側が胸部トモシンセシス画像
左側が胸部単純X線画像、右側が胸部トモシンセシス画像
※右側の画像はSONIALVISION safireシリーズで撮影したものです。

診断のための検査から治療のための検査へ

一方、呼吸器がんの内科的治療も近年大きく進展している。遺伝子とがんの発生、抑制の仕組みが次々と解読され、その遺伝子の働きをコントロールすることでがんを治療する分子標的薬が多数登場しているのだ。

「20年前、私が医師になったころは、残念ながらがんの診療で内科ができることはほとんどありませんでした。薬といっても当時は強い副作用を覚悟しなければならないような抗がん剤がメインでしたから。いまは、『こういう遺伝子変異があればこういう薬』というふうに患者さん一人ひとりに合った効果的な薬をご提供できるようになってきました。診断と治療がリンクしてくるようになったんですね」

その中心に立っていたのは出雲部長の前の職場である国立がん研究センターだ。全国の病院施設に加え製薬会社などをメンバーに加えた産学連携のがんゲノムスクリーニングプロジェクトLC-SCRUM-Japanを立ち上げ、進行がんに対する有効な薬剤の開発を加速させた。プロジェクトに参画した病院、製薬会社の数は世界でも最大規模だ。

「がんの中でも肺がんは発見も難しければ治りも悪く、いまでも年に7万人以上が肺がんで亡くなっています。なかなかこの状況を変えることは難しいだろうと言われていたのですが、プロジェクトを経てこの10年で一気に進歩し、他の分野に先行するようになりました」

治療が変わってきたことで、検査がもつ意味も変わってきたと出雲部長は続ける。

「リキッドバイオプシー(Liquid biopsy)といわれる、血液や尿で遺伝子や代謝物の異常を確認する方法で、がんがあるかどうかだけでなく、こういう薬が効くというところまでわかるようになってきています。検査というと、これまでは診断のためのものでしたが、治療のために行うものになってきたのです。いまは患部を針やメスで採取して顕微鏡で調べる生体検査が必須ですが、今後5年くらいには、そういった侵襲をともなう検査をする必要がなくなるのではないでしょうか」

島津が進める医療現場への分析装置の導入も、まさにこの文脈に沿ったものだ。血液一滴で痛みや体への負担がほとんどなく、がんの診断が可能になる。そんな時代がもう現実になろうとしている。

呼吸器のスペシャリストとして

出雲 雄大

2020年、新型コロナウイルスの蔓延は、医療現場に過酷な闘いを強いた。日本赤十字社医療センターは、流行の第1波とされる2020年2月から感染患者の受け入れと治療を行い、出雲部長は呼吸器内科の長として、診断と治療の最前線に立ってきた。

「人と話すことが仕事」の医師として、不確実な情報が飛び交い、社会不安が増長していくことには深い憂慮を示す。

「私は私なりにいまできること、役に立つことは何なのか、医師だからこそ世の中に伝えられること、いま提言すべきことを、しっかりと伝えています。漠然とした恐怖ではなく、ちゃんと理解し、安心してよいこと、リスクに備えて注意すべきことを誰にでもわかりやすく伝える。それも呼吸器のスペシャリストとしての責任だと考えています」

驚異的なスピードでワクチンが開発され、世間には安堵する声も聞かれ始めた。だが、だからこそやらなければいけないことがあると表情を引き締める。

「本来何年もかかるワクチン開発がこんなにも早く実現したのは、実は世界で過去のSARSやMERSの経験を活かし、次のパンデミックに備えた研究が続けられてきたからです。感染症は、有史以来何度も人類を危機に陥れてきました。

COVID-19との闘いはまだ続いていますが、将来もっと危険な感染症が発生するリスクは常にある。私たちはどうしても忘れてしまう生き物ですから、このパンデミックの記憶を教訓として、全部記録に取って、だれでもアクセスできるようにしておかなくてはいけません。医師である我々はもちろん、企業もメディアも国もそうです。将来の患者さんのために、私もいまできる最善のことを尽くしていきます」

※所属・役職は取材当時のものです。

出雲 雄大 出雲 雄大
日本赤十字社医療センター
呼吸器内科 部長
出雲 雄大(いづも たけひろ)

2000年関西医科大学医学部医学科卒業後、東京女子医科大学呼吸器内科へ入局。09年同大大学院医学研究科博士課程修了。12年国立がん研究センター中央病院へ移り、15年には同病院内視鏡センターの医長を務める。2017年から現職。

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