CTOメッセージ

常務執行役員 CTO 糸井弘人

前中期経営計画の成果、課題

前中期経営計画期間中に数多くの研究開発を推進しました。その中でも、大きな成果を出したものが、神戸大学と共同研究を進めているAutonomous Labです。このプロトタイプを見た企業からぜひ欲しいとの要望があり、特注で納入し、顧客の意見を取り入れながらアプリケーション開発や改良を進めています。これこそが私たちが進めようとしているアジャイル型開発の適用拡大です。新しい製品を開発するプロセスでは、顧客が使用してフィードバックをもらいブラッシュアップする必要がありますが、製品仕様を固めてからではどうしても動きが遅くなります。アジャイル型開発を推進する中で、一つの成果が出たと感じています。
研究開発の基盤作りに関しては、“Shimadzuみらい共創ラボ”“ Shimadzu Tokyo Innovation Plaza” “KYOLABS”の開設が完了し、オープンイノベーションを推進する拠点が整いました。今後は、これらを活用していかに成果を創出するかが私の使命です。また、社外と多くの包括連携協定を結ぶことができました。例えば、京都大学、長崎大学、大阪大学といった学術機関とは、技術面だけでなく人財育成も含めた観点で連携を進めていく基盤を整えることができました。
一方、課題は開発の遅延です。コロナ禍ということもありましたが、製品の上市時期の遅延がたびたび起きてしまいました。また、研究開発のテーマがヘルスケア領域に偏っており、新中計のヘルスケア以外の領域、グリーン、マテリアル、インダストリーについても開発を強化する必要を感じています。更に、海外との連携ももう少し進展させたかったという思いがあります。

新中期経営計画で目指す姿

一言で表現すれば「技術・研究開発の新しいプラットフォームを作る」ということです。まずは、課題でもあった開発遅延に対してアジャイル型開発のプラットフォームを構築します。新中計では、デジタルツイン、メタバースといったDXを研究開発に展開し、合理化、技術継承、データ蓄積を行う基盤作りをしたいと考えています。試作品の設計検証は手作業が多いため、自動化を進めて無駄をなくしていきます。
また、グローバルでの開発体制の構築を行います。日本から出向いて海外市場のニーズを調査し、日本で開発を進めるのではなく、現地に開発拠点を設置して現地のニーズを迅速に製品化していきます。地域として先ずは北米にR&Dセンターを設置します。また、インドでは特に製薬に関するニーズを探索し、それに合った製品やソフト・アプリケーションなどを開発する拠点を強化します。

スタートアップと連携し、新事業を創出

前中計では、2020年10月にスタートアップインキュベーションセンターを開設しました。3つの製品を上市しましたが、うち2つが医療機器規制の絡む製品であったため、アジャイル型開発が適用できず、苦労したのも事実です。基礎開発はアジャイル、その後はウォーターフォールと切り分けて開発するなど、前中計で課題であった開発遅延に対応していきます。
コーポレートベンチャーキャピタルでは、独立系ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレイン株式会社と共同で、スタートアップを支援し、当社製品・サービスの成長や新規事業の創出につながる戦略リターンを獲得します。また、事業だけでなくイノベーションをリードできる人財、将来の経営人財を育成することも狙っています。スタートアップへの投資は成功が難しいと言われていますが、ポートフォリオを組んだ投資により、トータルでプラスになればと考えています。

長期的に目指す姿

長期的には、LC、MS、UV、GCといったようにサンプルを分析機器ごとに解析するのではなく、いろいろなモダリティを融合してAIで統合解析するようなものを作っていきたいと考えています。これが実現できれば、究極のトータルソリューションになります。時間はかかりますが、実現するために様々な取り組みを行っていきます。まずは、Autonomous LabのようなAI・ロボティクスを導入して効率よくかつ再現性が高いラボを実現し、それを提供することから始めます。
もちろん、注力している5分野(先端分析、AI、革新製造、革新バイオ、脳五感)の研究も続け、社会課題を解決できる製品・サービスを提供していきます。

イノベーション文化を醸成する

CTOとして感じているのは、島津の変化です。新事業創出やアジャイル型開発もある程度はできてきてはいるのですが、まだそれが当たり前の状況には至っていません。イノベーション文化の醸成、イノベーションを起こすためにリスクに挑戦することが当然になるようにしていきたいです。
既存事業の製品開発は、商品企画から開発・製造・販売・サービスまで確かな計画を立てて進める必要がありますが、新事業はそれから切り離して、思い切り冒険し、失敗覚悟で数多くの挑戦ができるように変えていきたいです。そのため、イノベーション文化の醸成の基盤となる、イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を導入します。これはスタートアップでは当たり前にやっていることを、大企業でもできるように規格化したものですが、このようなプラットフォームを活用して、新事業・新技術開発を活発に進められる基盤を構築したいと考えています。
また、人財育成に関しても、変えていきたいです。例えば、上司から業務指示されたテーマだけでなく、自らテーマを提案したり、志のある人が集まって意見を出し合える環境をつくりたい。軋轢はいろいろあると思いますが、やりたいことを抑えるのではなく、将来につながる仕事を思いっきりやってもらうようにしたいです。
CTOになって他社のCTOと会話する機会が増えました。どの企業も、「どうしたらイノベーションを推進できるか、人材育成、若手のモチベーションアップ、技術継承をどうするか」など、悩んでいることはみな同じです。ただ、課題のいくつかは先進企業で既に解決されています。そのため「解決策は外に探しに行くように」と言っています。閉じこもるのではなく、積極的に外部との接点を多く持つことで、イノベーション文化の醸成の第一歩を踏み出すことにつながると考えています。

今、島津は確実に変わってきています。その変化を定着させるのが新中計であり、私の仕事です。科学技術やイノベーションで社会に貢献する島津に、今後もご期待ください。

常務執行役員
CTO 糸井弘人

略歴

1984年 4月   当社入社
1996年 6月   分析機器事業部 技術部
2001年 4月   分析機器事業部 MS/GCビジネスユニット マネージャー
2011年 6月   分析計測事業部 ライフサイエンス事業統括部 MSビジネスユニット ビジネスユニット長
2017年 6月   分析計測事業部 副事業部長 兼 ライフサイエンス事業統括部 統括部長
2018年 4月   執行役員 分析計測事業部 副事業部長 兼 ライフサイエンス事業統括部 統括部長
2020年 4月   執行役員 基盤技術研究所 所長
2022年 4月   常務執行役員 CTO(現在に至る)
常務執行役員 CTO 糸井弘人

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