シリーズあしたのヒント悪気のない無意識の思い込みが職場環境に及ぼす影響とは
アンコンシャスバイアスとの向き合い方

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昨今、「アンコンシャスバイアス」という言葉を耳にする機会が増えている。だれの内にも大なり小なり存在する無意識の思いこみが、職場のコミュニケーションに大きく影響していることがわかってきた。私たちはアンコンシャスバイアスにどう向き合うべきか。長年この分野に取り組んできたアンコンシャスバイアス研究所の守屋智敬代表理事にうかがった。

無意識の思いこみがダイバーシティを損なう

「彼女は子供がまだ小さいからプロジェクトを任せるのは無理だな」「当社ではこれが普通、違うやり方ではうまくいくはずがない」

そういったことをつい口に出してしまい、周囲から嫌な顔をされたことはないだろうか。

アンコンシャスバイアスとは「無意識の根拠のない思いこみや偏見」と言われ、過去の経験や見聞きしたことから、自分のモノの見方だけで人の能力や仕事のやり方を決めつけてしまうようなことを指す。

一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所の代表理事である守屋智敬氏は、アンコンシャスバイアスという言葉が認知される以前から、社会課題として活動を行ってきたこの分野のエキスパートだ。

近年、職場におけるアンコンシャスバイアスへの取り組みがクローズアップされるようになってきたことについて守屋氏は「企業のダイバーシティが失われることにつながるからです」と説明する。

「悪気のない無意識のことであっても、思いこみや決めつけは、相手を否定することにもつながりかねず、結果、職場の人間関係や企業風土が悪くなったり、一人ひとりがいきいきと働けなくなったり、イノベーションが生まれにくくなる。ハラスメントもアンコンシャスバイアスがかなり影響しています」

つまり、ダイバーシティを確保するには、その根本にあるアンコンシャスバイアスと向き合う必要があるというのだ。

自分の中のバイアスと向き合うためには

守屋 智敬
(写真提供:株式会社モリヤコンサルティング)

リーダーには多様性を持つメンバー一人ひとりが力を発揮できる環境を整えることが求められる。

アンコンシャスバイアスが悪影響を及ぼせば、部下のモチベーションを下げるだけでなく、成長の機会を与えられなかったりするなど、チーム運営の阻害要因となり得る。では、実際の職場では、どのように対処すればいいのだろうか。

「まず、自分の中にあるアンコンシャスバイアスに気づくことが重要です。ただ、無意識というものはやっかいで、気づくこと自体がとても難しいので、まずは気づこうと意識することが第一歩となります」

 フィードバックや指摘をしてもらうことも有効な手段だが、なかなか面と向かって指摘できる人は多くはない。そのため、守屋氏は相手のサインに注目することが大切だと話す。

「アンコンシャスバイアスによる言動が相手の心にネガティブな影響を与えた場合、それが表情や態度に現れます。そのサインを見逃さないようにしましょう。

また、人はついつい自分の経験のなかでさまざまなことを判断してしまうものです。仕事において、『これは、こういうものだ』とか『普通はこうだ』といった決めつけや押しつけをしてしまっていないかを常に意識し、さらにはその先の影響までも想像できるようになることが大切です」

自分のアンコンシャスバイアスと向き合うため、守屋氏が勧めているのがメモを取ること。日常の中でイライラなど感情が揺れ動いたこと、相手の表情や態度など非言語メッセージに気づいたこと、アンコンシャスバイアスかもしれないと思ったことなどを毎日メモして2週間後に振り返ってみるというものだ。

「自分の感情の動きや相手の反応を言語化して振り返ることで、『これって私のアンコンシャスバイアス?』と気づくことが目的です。メモを続けることで、自分の思いこみのクセや傾向がある程度見えてくるでしょう。アンコンシャスバイアスは無意識にあるものなので、払拭することはできませんが、付き合い方を意識することでネガティブな影響を抑えることができます」

ただし、「アンコンシャスバイアスはだれしも持っているものです。否定するのではなく、対処するものだという理解が重要です」と注意を促す。

相手のアンコンシャスバイアスにどう対応するか

こうなると他者のアンコンシャスバイアスへの対処法が気になるところだが、守屋氏は「他者に対して指摘することは避けたほうがいい」と話す。

「『それはあなたのアンコンシャスバイアスだ』と言ってしまうと、それこそ決めつけになり、逆効果になってしまう恐れがあります。伝えるのであれば『そういう言い方をされると私は悲しい』というように“私”の気持ちを伝えるとよいでしょう」

アンコンシャスバイアスは、自分の半径数メートルの範囲で影響を及ぼす。その影響範囲にある職場でさらにチームとして成果を生むためにも、指摘し合うのではなく、先程のメモをもとに各自のアンコンシャスバイアスを自分から開示し合うこと(自己開示)を守屋氏は提唱する。

「“私のアンコンシャスバイアスかもしれないけれど…”とひと言そえて、自己開示をすることは、対話の第一歩となるでしょう。また、相手やまわりにとっては、自己開示されたアンコンシャスバイアスがきっかけとなり、『私にも、似たようなことがあるかもしれない』と気づくことにつながるかもしれません。

『これって私のアンコンシャスバイアス?』を合言葉に、お互いに自己開示し合うことで、きっと、チーム内でのコミュニケーションが変わるでしょう」

影響領域が広いアンコンシャスバイアス

守屋氏がこの活動を強化したきっかけは、「世界対がんデー」での講演依頼だ。

「がんのアンコンシャスバイアスからの解放」と題した講演は、周囲からまるで「死の宣告」を受けたかのように気を使われ、偏見に苦しむ患者や家族の気持ちに寄り添ったものであった。その反響は大きく、自分ごととして強く共感した受講者からの依頼がつながり、医療機関や自治体、教育現場、広告団体、危機管理分野など、さまざまな分野へと広がっていった。

実はモノづくりの現場でも効果を発揮しているという。お客様目線での開発であっても、ついつい「お客様ってこうだよね」と思いこんでしまうことは珍しくない。しかし、その思いこみや決めつけに気づくことができれば、見えていなかった価値が露出し、本当のお客様目線のモノづくりにつながるのだ。

「さまざまな社会課題に関わるなかで一番うれしいのは、受講者から『見える景色が変わった』という感想をいただいたときです。悩み苦しんでいた人が、アンコンシャスバイアスという概念に出会ってものの見方が変わることで、自分が抑え込んでいたものから解放される。今後もこの活動で、1人でもそういう方が増えれば幸いです」

守屋 智敬 守屋 智敬
一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所代表理事
株式会社モリヤコンサルティング 代表取締役
守屋 智敬(もりや ともたか)

1970年、大阪府生まれ。神戸大学大学院修士課程修了後、都市計画事務所に入所。2015年に株式会社モリヤコンサルティングを設立。18年、医療従事者向けに行ったセミナーをきっかけに、一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所を設立、代表理事に就任。著書に『あなたのチームがうまくいかないのは「無意識」の思いこみのせいです』(大和書房)、『一流の仕事の「任せ方」全技術』(明日香出版)、『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント』(かんき出版)がある。
(写真提供:株式会社モリヤコンサルティング)

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