シリーズ挑戦の系譜理想の装置を目指し、進化し続ける開発者たち
日本初の計測用X線CTシステム開発の裏側

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島津がこれまで手掛けたことのなかった三次元計測が可能な計測用X線CTシステム。
顧客の求めに応え、X線CTチームが未知の領域へと踏み出した。

計測はできないの?

非破壊検査装置は、文字どおり「もの」を壊すことなく検査する装置。ものを透視できるX線を使うことで、画像化された内部の状況を解析・検査することができる。

製品の開発や品質管理の現場では、なくてはならない重要な役割を持つ装置だ。島津製作所は日本で初めての医療用X線装置を出したことから、それを応用したこの装置も長く手掛けており、高い画質や信頼性で評価を得ている。

2008年頃、非破壊検査装置の一つで立体画像が得られるX線CTシステムに、大きな革新が訪れた。GPUによる高速演算処理技術(GPGPU)が登場したのだ。GPUは画像処理を専門とする演算装置だが、GPGPUを用いることで画像処理以外の演算も担当することができる。GPGPUを中心とした処理システムを構築することによって、スキャニングから画像を表示するまでの時間が驚異的に短縮された。

「僕が入社した頃、三次元データを作るのに、1時間も2時間もかかっていました。それからほんの3年で、10~20秒でできるようになった。まさに収集と同時にデータができあがる感じです」

とプロジェクトリーダーの欅は振り返る。

分析計測事業部のメンバー

この技術革新は、もちろん顧客から喜ばれ、非常に評価された。さらに、新しい声が開発陣に届いた。

「これって、寸法計測はできないの?」

顧客が言う寸法計測とは、三次元測定という技術だった。代表的なのはプローブという高精度な球で対象物となる試料の表面をなぞるように動かし、無数の点のデータを集めて三次元で座標情報を構成する手法だ。ミクロン単位で精密に寸法がとれるため、開発の現場で試作品が元の設計どおりにできているかを確認したり、得られた座標情報を設計に用いるCADソフトにフィードバックしたりするなど、これもまた開発の現場で欠かせない検査装置だ。

島津が得意とするX線CTも、立体画像を得るために三次元の座標情報を得ている点は同じだ。しかも見えない内部の寸法までX線透視でわかるのであれば、用途は大きく広がる。さらにこれまでの三次元測定機は、試料全体をなぞり終えるのに、小さなコップほどの対象物でも数時間を要することも珍しくなかったが、時間が革新的に短縮されたX線CTなら1時間程度で完了する。顧客から期待されるのも当然だった。

Xdimensus 300を囲む開発メンバー。
Xdimensus 300を囲む開発メンバー。写真左から、分析計測事業部NDIビジネスユニット 主任 原田大輔、基盤技術研究所AIソリューションユニット 副主任 佐藤真、分析計測事業部NDIビジネスユニット 主任 欅泰行、同副主任 新坂拓真、分析計測事業部品質保証部 主任 大西修平。様々なバックグラウンドを持つ個性的なチームがユーザーの理想を具現化した。

ゼロからのスタート

もっとも、島津の開発チームにとって、三次元測定は未知の領域。

そこで普段から三次元測定機を使っている社内のものづくりセンターにヒアリングに出向くなど、急速に知識や技術を吸収していった。そこで、わかったのは、三次元測定機に求められる厳格なまでの精密さだった。

測定で正確な数値を得るためには、装置自体にも正確さが求められる。試料を測るために置く台とX線源、X線を受け取る検出器の位置関係や角度は、いつ何度測っても同じでなければならない。避けられない据え付け誤差を後に正確に補正するため厳密な校正(キャリブレーション)が求められ、そのための専用治具も必要だった。

「X線CTでも、画像をきちんと出すためには各部の精度が求められ、それに応えています。でも今回求められる精度は、これまでより一桁も二桁も高い。校正の手順、手法をすべて一から考え直し、ハードウエアも頑丈さが求められました」

分析計測事業部品質保証部 主任 大西修平

と、開発スタート時にリーダーを務めていた大西は振り返る。

原田は、精密機器部品取扱店の担当者との会話が今も忘れられないという。

分析計測事業部NDIビジネスユニット 主任 原田大輔

「『南アフリカ産がいいんだよ』とか『やっぱりインディアンロックだな』とか。石の話なんですが、最初は何を話しているかわかりませんでした」

X線発生装置、X線検出器、ステージなど、CT撮影に関する主要コンポーネントのベースとなる石定盤という部材がある。温度が上がって膨張すると、たちまち測定機の求める精度が得られなくなる。そのため、石の選定は慎重に行う必要があった。

誤差との戦い

新坂は学生時代、CADモデルやモデリングの研究で島津のX線CTも使っていた。

分析計測事業部NDIビジネスユニット 同副主任 新坂拓真

「入社時にCTの開発部門に配属と聞いて張り切っていたのですが、石が大事なんだと聞いてちょっと戸惑いました。メカはまったく専門外でしたし、熱膨張とはなんぞやとか、そこから勉強でした」

新坂の真骨頂は、X線発生源の補正技術の開発で発揮された。

「X線を出し続けていると、X線発生装置が熱を持ってしまい、発生ポイントがずれていくんです。そうすると拡大倍率もずれて、寸法もおかしくなってしまう。発生ポイントを安定させるために、X線の焦点の位置をリアルタイムに検出して、データを再構成する際に移動分を加味するプログラムを組み上げました」

学生時代、数学を専攻していた佐藤は「誤差の体系」を作り上げた。

分析計測事業部のメンバー

「ここは動きそうだな、ここは動く、ここも動くと、誤差が起こりそうなところをリストアップしていきました。叩いても叩いても出てくる感じで何十箇所あったかも覚えていません。その誤差をなくす方法を一つひとつ考えるんです。石はもっとしっかりしたものにするとか、温度変化を抑えるとか」

そこからはじき出した温度変化の許容範囲は、20度±0.5度。それに従って他部門とも連携し、装置の中に送り込む空調の風の向きや風量をシミュレーションし、装置内の温度を均一に保てるポジションを決めた。

他にも課題は多かった。特に校正用治具は、製品化するにあたりプロトタイプでは見えていなかった問題が次々とわかり、設計してはテストを繰り返す毎日であった。だが、チーム全員が自分の役割を自覚し、着々と問題点を解消。幾多の難題を乗り越え、2017年12月、国内では初となる計測用X線CTシステム「XDimensus 300」が発表された。

計測用X線CTシステム「XDimensus 300」
世界トップレベルの計測精度と観察能力を実現した計測用X線CTシステム「XDimensus 300」

「先行品に比べて、かなりサイズを小さく仕上げることができました。また、通常は部屋そのものを常に一定の温度に保たないといけませんが、その手間も不要です。設置する部屋を選ばないのは大きなメリットで、引き合いも増えています」(大西)

顧客の声にもっと応える理想の装置を目指すにはまだ課題も残る。だが、克服へ向けた開発は着々と進んでいる。装置と開発者の進化はまだまだ止まらない。

※所属・役職は取材当時のものです

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