「ミドリムシで世界を救う」
ユーグレナ・出雲社長が歩んだ10年の道のり

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「ミドリムシで世界を救う」と心に決めて起業した若者がいた。10年前、信じる者のほとんどなかったその言葉は、いま、社会の希望になろうとしている。
それを成し遂げたものは、いったい何だったのか。株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 出雲 充氏が、これまでの歩みを振り返る。

夢の微生物

ミドリムシは全長0.05ミリメートルほどの藻の一種。川や池に生息し、光合成によって植物が作るのと同じ養分を作り出している。鞭毛があって動くことができて、動物と植物の中間に属する種とされている。栄養成分も植物と動物の両方を持っている。食物繊維によく似た働きをもつパラミロンに加え、魚類に多く含まれるDHAやEPAも含む。

そのバランスの良い栄養価は古くから注目されており、クロレラのように大量培養できれば優秀な食料資源になりうるとして幾度となく研究がされてきた。だが栄養価が高いだけに、捕食者にとって格好のご馳走となり、ほんの少しでもバクテリアやプランクトンが混じってしまえば、ミドリムシは食べ尽くされてしまう。他の生物が入らないクリーンルームでの培養など、さまざまな方法が試されてきたが、その度に純粋培養への挑戦は断念されてきた歴史をもつ。

株式会社ユーグレナは、そのミドリムシの大量培養に世界で初めて、しかも屋外での培養に成功した会社だ。現在、石垣島にある培養プールで年間最大160トンが生産され、健康補助食品として市場に流通している。また、バイオ燃料の原料としても期待されており、全日空やいすゞ自動車などとの共同研究で、2020年までに国産バイオジェット燃料による商業フライト、およびバイオディーゼル燃料による公道走行の実現をめざしている。

ミドリムシの大量培養の様子

バングラデシュの現実

2005年に創業し、2014年には東証一部上場を果たすなど快進撃を続ける同社だが、ここまでの道のりはまさに壮絶だった。

「ミドリムシの可能性に気づいて以来、僕は『ミドリムシは世界を変えることができるんです』『ミドリムシで事業を起こしたいんです』『名前を知ってもらうために上場させたいんです』といろいろな方に相談してきました。ところが会う人会う人『難しいよ、ミドリムシは。やめておいたほうがいい』『ミドリムシで上場した会社なんてないでしょ、無理無理』と諭される。悪ければ『それってイモムシとどう違うの』と揶揄され、聞く耳すらもってもらえず、心が折れそうになったことは一度や二度ではありませんでした」と振り返るのは、同社代表取締役社長の出雲充氏だ。

将来は国連で国際貢献の仕事に就きたいと考えていた大学1年生のとき、学外活動で訪れたバングラデシュで、栄養問題を目の当たりにした。米や小麦は豊富にあり、飢餓状態なわけではない。だが、野菜や肉類が圧倒的に不足しており、子供たちは病気がちで体調不良が続いている。

食卓の栄養バランスを整えるためには、どうすればよいか。サークルの後輩で現ユーグレナ社取締役研究開発担当の鈴木健吾氏とともにたどりついたのがミドリムシだった。ミドリムシを量産できれば、バングラデシュの栄養問題が解決するだけでなく、バイオ燃料化までできれば、資源問題も解決できる。まさに夢の素材だ。

出雲氏はミドリムシをテーマにベンチャーで起業することを決めた。

株式会社ユーグレナ

挑戦と失敗

しかし、現実は甘くなく、量産への道のりは険しかった。来る日も来る日もフラスコと分析装置に向き合い、量産に向くミドリムシ種探しと理想的な培養条件を探る毎日。研究室で産出できたのはひと月で耳かき1杯が関の山で、ビジネス化など夢のまた夢。

鈴木氏は「ミドリムシが培養できたら、もう他に培養できないものはない」とまで語っていたという。

それでも出雲氏の信念は揺らぐことはなかった。大学卒業後も、ミドリムシの培養実験の経験を持つ研究者のもとを巡り歩いて教えを請い、協力企業や出資してくれる投資家探しに奔走した。会う人間のほとんどから「無理」の二文字を投げかけられる中、熱意に打たれた協力者が一人、また一人と現れ、なんとか細い糸をたぐり寄せた。

天敵が生存できずミドリムシだけが生存できる培養環境というこれまでにはない発想で研究し、2005年、食用屋外大量培養に成功。健康補助食品に加工して発売し、地道な営業を続けて一歩一歩足場を固めてきた。そして上場に成功。いまやミドリムシは「市民権」を得たといってもいいだろう。

株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 出雲 充

前例はいらない

世界でだれもなし得なかったイノベーション。それを成功に導いたのは出雲氏をはじめとするユーグレナ社のメンバーの情熱があったからに他ならない。加えてもう一つ理由を挙げるなら、出雲氏の留学体験が影響している。

出雲氏は19歳のとき、起業家を多く輩出するスタンフォード大学に2カ月間留学した。そこで西海岸の自由で活気あふれる雰囲気に触れ、起業することを意識した。

「もっとも印象的だったのは『こういうことをやってみたい』と話す人間がいると、前例がなくても『おもしろそうだね。やってみなよ』と応援してくれること。もちろん、たいていは失敗に終わるのですが、『いい経験をしたね。次また別のことをやってみれば』と言ってくれる。つまり、成功を評価するのではなく、チャレンジしたことを評価してくれるのです。今にして思えば、アメリカの強さの源泉はここにあると断言できます」

翻って日本はどうか。挑戦する前から前例のないチャレンジを無理だと決めつけるところがないだろうかと出雲氏は危惧する。

出雲氏とユーグレナ社は、挑戦の前から幾度となく「前例がない」「無理だ」という言葉にさらされてきた。出雲氏にそれを跳ね返す程の情熱がなければ、このようなイノベーションはまたしても日本から生まれなかったかもしれない。

バイオテクノロジーで、昨日の不可能を今日可能にする

「2045年には、人工知能が人間の知能を超えるとされています。その先どんなことが待っているか、だれも予想できませんし、その時代を生きる若い人たちが、自ら生きる道を見つけていかなければならないのです。ですから若い人は挑戦する心を決して忘れないでほしい。そして先輩たちには、新しいことをしようとして失敗した若者を、ぜひとも励ましてあげてほしいのです」

「この国には世界に冠たる技術があります。資金力もある。あとは、チャレンジを讃えるマインドさえ持てれば、世界を席巻することができるはずです」

失敗を厭わない文化を持つ組織は強い。ユーグレナ社の躍進がそれを証明している。

出雲 充 出雲 充
株式会社ユーグレナ 代表取締役社長出雲 充(いずも みつる)

1980年生まれ。1998年に東京大学に入学。学外活動の一環でバングラデシュを訪れ、貧困の実態を目にし衝撃を受ける。帰国後、ミドリムシの可能性に魅せられ、事業化を志す。2005年、志を共にする3人で株式会社ユーグレナを設立。東大発のバイオベンチャーとして注目を集める。2011年、AERA「日本を立て直す100人」に選出。安藤百福賞「発明発見奨励賞」、第15回企業家賞ベンチャー賞、Stanford Univ. JAPAN-US InnovationAWARDS Emerging Leader、第1回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」など賞歴多数。著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』(小学館新書)がある。

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