事例4

プラグイン開発によるGas phase fractionation LC-MSデータ解析

2014-3-25  Research group of Functional Genomics and Proteomics, KU Leuven(ベルギー)
研究員 早川英介(2014年4月より九州大学 先端融合医療レドックスナビ研究拠点)

 我々の研究グループ(Metabolomics team, Research group of Functional Genomics and Proteomics, KU Leuven)ではLC-MSによるuntargeted metabolome解析を行っています。特に培養組織から放出される微量の代謝物群の解析を重点的に行っていますが、分析サンプル中に多数の高濃度の物質と微量代謝物が混在しそれらが共溶出するために、ダイナミックレンジの低下により微量代謝物の測定が難しいという問題がありました。そこでGas-phase fractionation (GPF)を用い、LC-MS解析中に連続的に複数のmass rangeのフラクションに分けて測定を行うことで広いダイナミックレンジ・高感度での微量物質測定を行いました。しかし、GPFにより得られるLC-MSデータはスキャン毎に異なるmass rangeが記録されることになり(例 scan1 : 100-200 m/z, scan2: 200-300 m/z, scan3: 300-500 m/z 等)、通常のソフトウェアでは解析が困難になります。特に(2D) peak detection・mass feature detection・quantification等のデータ処理 をGPFのLC-MSデータに対して行うのは困難でした。

 そこでMass++の特徴であるプラグイン開発環境を利用してGPFデータ解析用プラグインを開発することで、Mass++上でのGPFデータ解析を可能にしました。このプラグインはmzML形式のGPFによるLC-MSデータを読み込み、GPFの設定・条件(各フラクションのmass range, mass rangeのオーバーラップ等)を判別し、連続したスキャンに記録されたフラクションのスペクトルを連結して一つのスペクトルに変換します。変換されたLC-MSデータに対してはMass++上でスペクトル閲覧、(2D) peak detection等の処理を通常通り行うことが出来、これにより一般的な解析ソフトウェアでは困難であったGPFによるLC-MSデータの解析が容易になりました。さらに、変換されたLC-MSデータはmzML形式で出力され、他のLC-MS解析ソフトウェアで読み込むことも可能です。

 Mass++はユーザーが自由にプラグイン開発を行い、独自のデータ解析ワークフローをソフトウェア上で実現できる非常にユニークな解析環境です。分かりやすいプラグイン作成環境 のチュートリアルが提供されており、プラグイン開発は非常に容易に行うことが出来ました。これまで質量分析のデータ解析はほとんどの場合既存のソフトウェアパッケージに依存するか、もしくは高度なプログラミング技術が必要でしたが、今後Mass++のプラグイン開発環境により研究者が独自のデータ解析手法を開発することが容易になることを期待しています。