雑穀を通じて守る日本の食卓の心

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家族で囲む日本の食卓。
その原風景にある愛情と思いやりの心は、時代が流れても風化させたくない。
はくばくの掲げる「主食改革」は、雑穀を通じて日本の食を取り戻そうとしている。

大麦にこだわって

健康ブームの高まりとともに、大麦や雑穀の人気が続いている。スーパーに行くと米や豆類と並んで雑穀の棚が設けられ、ときには数段にもおよんでいることもある。2021年に雑誌『オレンジページ』が行なった調査では、玄米・雑穀米を購入している人が43.9%と半数近くに達し、2004年の調査から1.5倍近くも増えている。外食店でも白米のかわりに雑穀ご飯を選べる店が増えてきた。

「麦や雑穀は現代人に不足しがちな食物繊維やビタミン、ミネラルを豊富に含んでいます。白米に混ぜて炊くことで、血糖値の乱高下も抑えられる。雑穀が普通に食卓に並ぶようになれば、生活習慣病の予防にもつながるのです」

と話すのは大麦・雑穀市場でトップシェアを誇る株式会社はくばくの長澤重俊社長。ベストセラー商品「おいしさ味わう十六穀ごはん」を世に送り出すなど、雑穀市場を大きく拡大させたブームの仕掛け人の一人だ。

はくばくの前身となる峡南精米株式会社の創業は1941年。精米店としてスタートしたが、太平洋戦争の開戦とともに米は統制物資となり、すぐさま事業転換を強いられた。当時、米の代わりに主食の座を占めていたのは大麦。はくばくは精麦店として模様替えし食卓を支えてきた。戦後も米の統制は続き、1946年本格的に精麦業の企業として看板も掛け替えた。

長澤 重俊

「その当時、大麦の生産量は現在のおよそ100倍だったそうです。でも、やっぱり日本人は白米の甘い香りが好きなようで、米の生産が増えてくると、『大麦独特の匂いが気になる』と、急速に大麦の需要が減っていったんです」

同業他社が次々と店をたたむなか、「なぜか大麦にこだわった」(長澤社長)同社は、精麦業を継続。麦の粒の真ん中を走る黒い筋のところで半分に切って、筋を目立たなくする商品、現社名の由来である「白麦米(はくばくまい)」を開発するなどして、孤軍奮闘を続けてきた。

健康ブームを追い風にヒットを続出

長澤社長が商社からはくばくに転職したのは1992年。この頃から潮目が変わり始めた。90年代、厚生省(現厚生労働省)が従来の「成人病」を「生活習慣病」と改称し、食生活や運動などの生活習慣を見直すことで病気を予防しようと提言。健康が日常の話題として上るようになると、「体によい」とされるさまざまな食品がメディアに取り上げられてブームを起こしていった。

1999年にはあるスーパーの要望を受けて、5種類の雑穀を混ぜた「穀物専科」を発売。続けて、健康によいだけでなく、おいしく味わえる主食「おいしさ味わう十六穀ごはん」を2006年に世に送り出した。二つの製品は、いまも雑穀商品の代名詞として消費者の心をつかんでいる。

2010年代に入ると、本丸の麦でもトピックがあった。麦は健康効果はあるがパサパサしているという難点があったが、「プチプチ」「もちもち」した食感の「もち麦ごはん」が常識を変えて大ヒット。白米の約7倍もの食物繊維を含みながら、麦特有の匂いは目立たず、食感も楽しいもち麦は、まさに同社の商品開発の集大成と言っていいだろう。さらに、生活習慣病予防に適した食品であるもち麦が腸内環境や認知症予防にもたらす効果については、島津製作所とも共同で研究を行っている。

主食のあり方を変える

健康ブームに乗ることで市場を大きく拡大した大麦・雑穀事業だが、世の流れに身を任せているだけでは安定感を欠く。よりたくさんの人に雑穀を手に取ってもらうためには、自分たちでも何か仕掛けていかなくてはならない。マーケティングのなかで、同社がたどりついた答えが、消費者の心に訴えかけることだった。

長澤 重俊

「大切な人には、健康でいてほしい、元気でいてほしいと願う。とくに受験生を持つ親や、スポーツに打ち込む子どもを持つ親は、ひと手間増やしてでも、体によいものを食べてもらおうと思うでしょう。その思いやりこそ、私たちが次に応えるべきものだと考えています」

自分一人で食べる食事なら簡単なもので十分だと思っていても、家族や大切な人のためなら面倒でも何か体によいものをと考える人は少なくないだろう。根底にあるのは相手への愛情だ。だが、共働き世帯が増え、ライフスタイルも多様化した今日、調理に注げる時間は、かつてほど長くはない。大麦や雑穀を白米に混ぜて炊くのはひと手間増えるかもしれないが、おかずを数品増やすほどの手間ではない。この手軽さは、これまで「主食はエネルギー、他の必須栄養はおかずで摂る」という世の価値観を「雑穀を混ぜて主食で栄養を摂る」に変えつつある。

2023年、同社は「主食改革」を宣言した。日本人の主食離れが進むなか、本来の主食のあり方を大麦・雑穀の力で変えるという意気込みの表れだ。
そうでなくても、近頃は主食に対する風当たりが強くなっている。肥満防止や生活習慣病予防にと糖質制限が推奨され、ご飯を食べない、小麦は摂らないといった健康法がもてはやされる。だが、はくばくはここにも異を唱える。

「日本人の食卓は、これまでもずっと主食ありきでした。ご飯にするかパンにするかをまず考え、そしてそれに合うおかずを食べる人のことを考えて決めていく。その食文化を大切にしたいんです。大麦・雑穀を取り入れることで、その豊かで温かい食卓の風景を次の世代へもつないでいけたらと願っています」

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※所属・役職は取材当時のものです。

長澤 重俊 長澤 重俊
株式会社はくばく
代表取締役社長
長澤 重俊(ながさわ しげとし)

1966年、山梨県生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友商事勤務を経て1992年に株式会社はくばく入社。2003年から3代目代表取締役社長に就任。2023年1月より掲げる「主食改革」では、雑穀を当たり前に食べる文化を作り、雑穀を通じて日本の温かい食を守ることを目指している。

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