みんなのため、そして地域のため
先端技術で目指す病院の姿

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住人の高齢化と国際化が進む町で、医療はどうあるべきなのか。
その問いに向き合い、一つの答えを出した病院には、発想力と実行力に秀でた企画部長がいた。

健康のまち一丁目1番地

濃尾平野の北東端。木曽川をさかのぼり、飛騨の山懐に包まれる美濃加茂市の市街地の高台に「中部国際医療センター」はある。ひときわ目を引く近代的な建物。所在地は「健康のまち一丁目1番地」だ。

「ここは地元の名産品・蜂屋柿に名を遺す“蜂屋”という町名でしたが、市自体が健康都市として未来に続く健康なまちづくりを目指し、新しい町名が敷かれました。なかでも地域の方の健康を一番に守っていくという使命感を表現し、覚えやすくわかりやすいということから、病院の住所に“一丁目1番地”が与えられました。ちなみに“2番地”には市の保健センターが設置されています」

そう語るのは榎本真治氏。 新病院の体制強化に 伴い、2022年4月に、それまでの医事部長から総合企画部長に就任した。

同院は1913(大正2)年に開設された診療所、回生院に端を発し、1991年以降は木沢記念病院として地域医療に貢献してきた。2017年に美濃加茂市が打ち出した「メディカルシティ構想」に共鳴した同院は、脳疾患に起因する障害からのリハビリを受け持つ部門を『中部脳リハビリテーション病院』として独立させ、それ以外の診療科を今回の高台の新病院として移転。2022年1月から「中部国際医療センター」として、世界に通用するハイレベルな医療を提供する新たな歴史を刻み始めた。

社会医療法人厚生会 中部国際医療センター
社会医療法人厚生会 中部国際医療センター
2022年1月に「木沢記念病院」から名称変更と新築移転し、病床数502床に拡張。病院名には「世界に通用するハイレベルな医療を提供する」という意味を込めて、新しい医療機器や質の高いスタッフ、設備を有する医療体制を整えている。

榎本氏が率いる総合企画部は、経営方針策定の根拠となるデータをそろえ、中長期的な病院の未来図を描く部署。現在は医療ツーリズムやSDGs、脱炭素への取り組みなど、地域と一体となって進めていく課題に向き合う毎日だ。

「医療ツーリズムを筆頭とする国際化は、当初から念頭に置いていましたが、元々在留外国人の方が多い地域ということもあって、早くから多言語に対応できるよう医療通訳を7名置いて対策を講じてきていたという強みがあります。一方で、乳房専用PET装置Elmammoや320列CTを世界で初めて導入したり、次世代シークエンサーを導入し、民間病院としては数少ないがんゲノム医療連携病院にも名を連ねるなど、医療の高機能化に力を入れてきました。2023年には 陽子線がん治療センターも稼働する予定で、高度医療の集積地として、広く世界を視野に入れた医療展開ができる体制が整いつつあります。“高度な地域医療”と“医療ツーリズム”を本格的に実践に移すとき―という判断のタイミングが、病院移転と重なったのです」

こだわった患者の利便性と業務の省力化

最新の医療提供を目指してきたなか、新病院設立にともない特にこだわったのが、患者にとっての導線の明確化、待ち時間の有効活用、そして支払いの簡略化とミスの根絶だ。患者のなかには高齢者や外国籍の方など、病院のシステムに不慣れな人も少なくない。そうした方でもスムーズに受け付けができ、待ち時間も有意義に過ごせて、支払いも気持ちよくできるように、患者の利便性を体現したいと考えたのだ。

そこで導入したのが、島津製作所の再来受付システムMERSYS-IV、診察・会計案内表示システムMERSYSid、そして診療費支払機MERSYS-AR700だ。

「導入にあたって最もこだわったのが“多言語対応”です。受診者の7%を外国籍の方が占めるという地域特性と、今後のインバウンド需要に応じていくうえで、これらのシステムが多言語に対応していることの重要性は極めて高い。英語、韓国語、中国語だけでなく、タガログ語やポルトガル語などを含む7か国語に対応できたことは大きな魅力でした」

各種番号表示システムは、受診までの患者の行動制限を大きく緩和した。

再来受付システム
再来受付システム「MERSYS-IV」

「従来は診察室の前で名前を呼ばれるのを待つというスタイル。言い換えれば、呼ばれるまで診察室の前から動けない状況でした。MERSYSidでは名前ではなく数字で表示されるのですが、その表示モニターを院内各所に設置することができたので、敷地内の書店やカフェなどにいても、そこにあるモニターで確認すれば、自分の順番がわかるようになりました。診察室前の密集を避ける上でも非常に役立っています」

支払い機MERSYS-AR700の導入は、医事部出身の榎本氏にとって特に期待は大きかった。

「どんなに熟練したスタッフでも、人間がやる以上ミスは起きます。病院における会計上のミスを無くすことは、医事部門にとって永遠の課題でしたが、その解消に役立っています。また、MERSYS-AR700には一時保管機能があり、患者さまが挿入したと思ったお札と実際のお札が違った場合などの確認にも役立ちます。貨幣の識別機能も銀行と同等レベルという信頼性の高さが導入の決め手となりました。自動精算機と自動釣銭機を導入したことで、“お金合わせ”にかかる部分の省力化が実現し、その分を他のサービス向上に振り分けることができました」

診療費支払機 MERSYS-AR700
島津製作所の診療費支払機MERSYS-AR700。多言語対応に加え、人的ミスを防ぐことができるなど機能が多く、患者の利便性とスタッフの業務の省力化に貢献している。

ほかにも、放射線科の検査受付でも受付システムMERSYS-IV(ラジエーションパッケージ)とモニターを導入。放射線科の窓口が不在でも受け付けができるため、スタッフを常時配置する必要がなくなった。また、従来別々であった初診と紹介患者の受付場所と対応部署を一本化。効率化されたことで、ここでも患者の導線がスムーズになった。

受付機 MERSYS-IV
放射線科用の受付機MERSYS-IV(ラジエーションパッケージ)とモニター

システム導入を決めた2年前から、病院スタッフによる入念なリハーサルを繰り返したこともあり、導入から数か月を経ても大きなトラブルは起きていない。そこに榎本氏の豊かな想像力が活かされたことは確かだ。

医療と地域に革新を

MERSYSは医事課のシステムで、受け付けから受診、会計へというワークフローで役に立つが、榎本氏の頭には、さらに新たなシステムやロボットの導入による病院全体の技術革新も描かれている。

「今後、医療従事者の人手不足がさらに深刻になるうえに、2024年に医師の働き方の法律が変わります。そのため、技術で人の負担を減らし、患者さまに寄り添うことに時間をかけられるようにすることが重要です。病院は地域のインフラであり、守っていく必要がある場所です。医療従事者の確保と育成ができれば、地域に還元できる。また、将来的にロボット化などを見据えたとき、その技術開発の実証の場として当院を利用してもらうといったことがあってもいいかもしれないですね」

長く医事部門で“内側”を見続けてきたが、今は美濃加茂市を盛り上げようという役を担う一人。目を“外側”に向けたことで見えてきた景色があり、それらは新鮮に映るという。

「まだ勉強しなければならないことばかりですが、地域課題に取り組んでいることに夢があります。その夢と情熱を胸に私も進化していきたいですね」

※所属・役職は取材時のものです。

榎本 真治 榎本 真治
社会医療法人厚生会 中部国際医療センター
総合企画部部長
榎本 真治(えのもと しんじ)

1975年岐阜県可児市生まれ。1998年三重大学を卒業し、富田浜病院(四日市市)に入職、医事課に配属。2009年木沢記念病院(現・中部国際医療センター)に移り医事部部長等を歴任。2022年から現職。

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