センシング技術で世界の橋や道路の安全に貢献するポーランド企業

センシング技術で世界の橋や道路の安全に貢献するポーランド企業

橋や道路は国の動脈である。すなわち、橋や鉄道、および道路はいずれも国中に物資を行き渡らせるための重要インフラなのである。これらのインフラが機能しなくなったとき、都市はほぼ確実に機能を喪失する。2011年、歴史的な東日本大震災による津波が東北沿岸部を襲ったとき、政府が最初に決定した復興の優先事項は輸送の確保であり、津波の被害を受けた後1週間足らずのうちに新聞各紙は復旧された道路の姿を報じた。

国の動脈が何十年にもわたって機能するよう設計されているのと同様に、その構造物も、長く機能するものでなくてはならない。しかし、構造物は建設完了の瞬間から通行車両や、気候変動による極端な温度変化に曝され、亀裂や欠陥につながる影響を受け始める。そのため、さまざまな都市が民間のエンジニアリング会社に委託し、修理が必要な異常をいち早く検出するためのセンサーを配置している。この分野で驚異的なイノベーションを実現した企業の1つがポーランドのSHMシステム社だ。30名程のスタッフを持つ同社がこれまでにない解像度と寿命を持つ分散型光ファイバーセンシング(DFOS)技術の開発に成功したのである。その品質はワークフローに組み込まれた島津製作所の機器により検証され、実証されている。

都市部の土木工学構造物のモニタリングにはこれまでスポットセンサーが用いられてきた。スポットセンサーは構造物に沿って多くの場所に設置されるが、センサーとセンサーの間はデータが収集されないため実質的な盲点が存在する。他方、DFOSは、上市されている製品のなかでは最も連続的なセンサーシステムに近く、SHMシステム社が米国、日本および多くの欧州諸国など世界中に販売している。

構造物の安全性を確保する新技術

SHMシステム社は2012年に設立され、一貫して土木工学構造物の安全性をモニタリングするための技術開発を目指してきた。ただし、当初の計画にDFOSは含まれていなかった。
SHMシステム社のエンジニアであるTomasz Howiacki博士は「DFOSを紹介されたのは約8年前です。市場には大きな可能性があり、現状のニーズに対応できていないことが分かりました。そこで、この分野における新たなソリューション開発のため研究開発部門を設立しました」と述べた。

DFOSが初めて開発されたのは1960年代で、宇宙探査機のモニタリングにDFOSを採用して、この技術をひずみおよび温度の測定に応用できる可能性を確固たるものにしたのはNASAであった。しかし、DFOSを都市部の土木工学構造物に適用することは容易ではなかったため、信頼性の高いDFOSセンサーが市場に現れることはほとんどなかった。

そこでSHMシステム社はより大きなリスクを負うにもかかわらず事業の方針転換を図り、開発から3年後に最初のDFOS製品を完成させた。なかでも最も目覚ましい成果がモノリシックセンサー(一体型のセンサー)であった。このデバイスは複合モノリシックコア部にDFOSファイバーが埋め込まれているものである。この設計は、外部圧力からファイバーを保護すると同時に、可能な限り高い精度を保証するうえでも最適なものである。

モノリシックセンサーの利点は、新しく作る構造物の内部に組み込むことができ、センサーを検出器として使用するだけでなく、新たな機能を持たせることができることである。既存の構造物の場合はセンサーを外部に接続することもできる。いずれの場合もセンサーは微細な欠陥を検出しながらも、構造的な損傷を引き起こすかもしれない重大事象にも持ちこたえることができ、モニタリング対象の構造物よりも長持ちする。

しかし、この製品が市場にでるまでには、いくつかの試験が必要である。

「試験はセンサーだけでなくその材料に対しても実施する必要があります。エポキシ樹脂の品質、その伸び率、そしてヤング率です。このセンサーの構築のため、材料の開発および試験から最終製品の品質確認に至るまでのプロセス全体に、島津の装置が使用されています」と、SHM社の材料専門技術者・Kamil Badura氏は述べている。

One partner, one lab

これらの試験は自社内に使用できる機器がない場合はたいへん煩わしいものである。

「私たちは、使用スケジュールをそれぞれに抱えているいくつかの大学に依頼して、機器を使わせてもらっていました。そしてサンプルとデバイスを持ち込みましたが、極めて特異なものであるため大学の機器を用いてキャリブレーションする必要がありました」とTomasz Howiacki博士は述べている。

大学と一連の議論を行った結果、2020年、SHMシステム社は初めて島津製作所製の試験機を購入することとなった。現在、SHMシステム社は強度とひずみを測定するAGS-XシリーズおよびAGX-Vシリーズ試験機、そして疲労試験を行うEHF-Uシリーズ試験機の3つの装置を使用している。

SHMシステム社研究室に設置された島津AGX-Vシリーズ汎用試験機 左:Thomasz Howiacki博士 

SHMシステム社研究室に設置された島津AGX-Vシリーズ汎用試験機
左:Thomasz Howiacki博士 

では、島津製作所製の機器の採用によりどのような結果が得られたのか。これまで数週間かかっていた試験が、今では1日で完了することができる。

「試験のために我々の機器を搬入する手続きが簡単になりました。今では棚から取り出して試験するだけです」とHowiacki博士は述べている。

すべての試験を1ヵ所に集約できることは、小さな企業にとって大変な利点となる。SHMシステム社は現在ポーランド・クラクフに3ヵ所の事業所を構えているが、依然としてスタートアップ企業のようなやり方で運営されており、肩書に意味はほとんどなく、誰もが問題解決に向けそれぞれの役割を果たすことが期待されている。最初に設立した研究室は社員が壁を取り壊して完成させた家屋であった。その研究所はなお存在しており、島津製作所製の機器が設置されている場所でもある。

「ガレージにいたスティーブ・ジョブズのように私たちも普通の家を実験室に変えました。2階はオフィスとデータ処理室に使われており、1階は実験を行うためのすべての重量機器が置かれています」とHowiacki博士は述べた。

島津製作所の機器とSHIM-POL社の存在は、作業工程をより効率的なものにしてくれたことに加え、SHMシステム社を重要なパートナーと引き合わせ、小さな企業を高効率な会社へ変貌させた。

「私たちは、SHMシステム社に対して、島津の試験機を使っている他のパートナーを紹介するだけでなく、DFOSセンサーの無料試験サービスの機会を提供することもあります」とポーランドを拠点とする、島津の戦略的パートナーであるSHIM-POL社のDawid Pijocha氏は述べた。

その中にはSHMシステム社のDFOSセンサーをサポートできる技術を持っている会社もあるため、そうした出会いが新たな解決策につながることもある。その事例として、SHMシステム社がセンサーの精度をテストするために使用しているデータロガーが挙げられる。試験では、データロガーを校正用箔ひずみゲージに接続した。これは、SHMシステム社が自社製品の優位性を証明するために必要なワークフローのひとつである。

「私たちも自分たちなりに多くの機器をテストしてきましたが、必要なニーズを満たすことはできませんでした。しかし、島津から紹介されたデータロガーは最も信頼性が高く、品質も優れていました」とBadura氏は述べた。

島津製作所製の引張試験機AGS-Xを用いたモノリシックセンサー試験

島津製作所製の引張試験機AGS-Xを用いたモノリシックセンサー試験

引張試験機AGS-Xによるモノリシックセンサーの試験結果

引張試験機AGS-Xによるモノリシックセンサーの試験結果

Badura氏はSHMシステム社に島津製作所を紹介した人物である。彼は大学での研究中に島津の機器と出会っており、以前、彼が同僚たちに助言を求めたときも常に島津の機器を推薦されたそうである。

「私たちはモノリシックセンサーの開発段階にあり、ひずみをテストしながら熱伝導率を改善しなければなりませんでした。世界中のどこででも使える試験機を探していたのです。同僚は、(島津製の)とても良い機器があるからと、私に連絡を取るよう勧めたのです。今では特殊な試験が必要な時にはいつも島津に問合せをしています」と話した。

このような関係性は島津の戦略を象徴している。島津製作所は、優れたアイデアを持ちながら、そのアイデアを商品化するための優れた機器を必要とするパートナーを求めている。

「SHMシステム社との提携は、私たちがどのようにしてさまざまな国の市場へ参入していったかを示す典型的な事例です。私たちも革新を成し遂げていきたいので、ニッチなプロジェクトに取り組む機関、たとえば大学や小さな企業との関係構築に努めています」とSHIM-POL社のPijocha氏は述べた。

SHMシステム社のKamil Badura氏とSHIM-POL社のDawid Pijocha氏

SHMシステム社のKamil Badura氏とSHIM-POL社のDawid Pijocha氏

*本記事に掲載されている人物の所属・肩書などの情報はインタビュー時(2024年3月)のものである。

URLをコピーするタイトルとURLをコピーしました
<  トップページに戻る