シンプルなのにハイスペックな小型MS -LCMS-2050-

心理的ハードルを下げるために、デザインができること

LC(液体クロマトグラフ)のユーザーにとってMS(質量分析計)は、装置サイズや操作・メンテナンスが煩雑なイメージから、敬遠されることもある装置。そんなユーザーに使ってもらうべく開発した高速液体クロマトグラフ質量分析計「LCMS-2050」は、使い慣れたLCのNexeraシリーズに違和感なく組み込むことが命題であった。技術者と共に奮闘した、総合デザインセンター デザインユニット主任の姜慧梨の挑戦と苦悩、そのストーリーに迫る。

LCBUとMSBUのバランスをとる

LCBUとMSBUのバランスをとる

開発のメインはMSのビジネスユニット(以下BU)、そこへLCのBUも参加する今回のプロジェクト。双方の技術者が共に1つの装置開発に携わることは珍しく、それぞれが重要視するポイントや意向を汲み、昇華させ、最良のデザインになるように働きかけるのが、デザイナーである姜の役割だ。

「MSBUからは、独自性があってメンテナンスがしやすいものを、LCBUからは、Nexeraシリーズに収まるサイズで統一感を求められました」。

双方の意向を汲むうえで一番難しかったのは、イオン化部。高速性や高感度を維持しながら、小さくすることは容易ではない。「LCの1つのモジュールになることを考えると、あの大きなMSを小さくできるのか、半信半疑でした」と姜は振り返る。

LCと統一感のある装置にしたいのは、メンバー全員の思うところ。しかし開発当初はイオン化部が奥まった構造で、これではメンテナンスが難しく、ユーザーの使い勝手が悪くなるとMSBUから意見が出た。それならば、とイオン化部を前面に出したはいいが、今度はかなり大きく飛び出てしまい、威圧感がある。既存のLCと違う装置に捉えられてしまっては、市場が求める“使いやすい小型MS”にはならない。

“出っ張り”部分を一丸となって和らげる

飛び出たイオン化部をどうするべきか。違和感を覚えた姜は「(イオン化部が)かなり前に飛び出ていますよね?」と技術者に投げかけた。しかし、予想外にも「出ていません」との返答。「いや、出てますよね?」「……」

お互いの感覚を縮めるべく意見交換を繰り返し、モックアップを作ってスケール感を一緒に確認しながら粘り強く議論を重ねたという。精度を追求するなら、この大きさが必要だと考える技術者の主張はもっともなのだが、今回の命題には統一感と小型化が加わる。“出っ張り”の具合は上層部からも指摘が入り、試行錯誤を経て現在の“出っ張り”に着地した。

“出っ張り”部分を一丸となって和らげる

技術で出っ張りが軽減されれば、あとはデザイナーの出番。統一感と独自性を両立させながら適切なデザイン処理を行っていく。しかし、姜はまだ悩んでいた。
「軽減したとはいえ、(出っ張り部分は)どこかマイナスに思えてしまって。でも、先輩たちから『そういった部分をきちんとデザインすると、逆にデザインにとってプラスになる』とアドバイスを受けたんです」。
圧迫感を感じないように艶ありのスモーク素材を出っ張り部分の前面に使い、細かいRや面取りでディテールを丁寧にデザインし、完成度を高めていった。

見た目の美しさを追求するだけではない、機能性やメンテナンス性を鑑みて、最良のデザインを考え、各所に提案や再考を依頼することもまた、デザイナーの仕事。「ヒール役みたいなところはあるかもしれませんが、お客様の目線や感覚を大切にして、疑問や提案を投げかけるようにしています」

先進性とわかりやすさを両立させたデザイン

先進性とわかりやすさを両立させたデザイン

Nexeraに馴染ませるMSは、デザイン要素が揃っているに越したことはない。「横に並んだ時に水平・垂直のラインが揃っていると、LCとMSに一体感が生まれます。電源の位置、インジケーターの色などモジュールをできるだけ揃えました」。

加えて、操作やメンテナンスも簡易でわかりやすさを追求。「簡単に1回でドアが開けられるようにしてイオン化部へのアクセスを良くし、メンテナンス性を高めました。極限まで手順を減らしています」。

しかし、使いやすさ、わかりやすさを追求したデザインは、ともすればイージーになりやすく、高性能なイメージと離れてしまうことも。「ユーザビリティを追求したLCMS-2050には、高性能で先進的なイメージをバランスよくデザインに取り入れる必要がありました。それを体現したのが素材の部分です」。単調にならないよう、同じ「黒」でも様々な素材を用い、アルミ切削をアクセントに採用した理由もまたここにあった。
「デザインが他の邪魔をするのではなく、デザインによってより良い製品開発ができたというのが一番の理想」と語る姜。開発者と一丸となって生みだしたLCMS-2050は、2022年のグッドデザイン賞を受賞。イオン化部の部品設計の見直しや心理的ハードルを下げる外観のデザインを含め、機能性、審美性とともに「高精度な質量分析計の導入を促進する産業的、社会的効果」が評価されたのだ。
先進性とわかりやすさをデザイン面からも両立させたLCMS-2050。これからのラボを支えていく存在になるに違いない。

LCMS-2050

LCMS-2050は究極のLC検出器を容易に使用できるように、装置デザイン・装置制御・分析データ解析のすべての面において妥協がありません。 

LCMS-2050 製品ページへ

URLをコピーするタイトルとURLをコピーしました
<  トップページに戻る