島津賞 ~Shimadzu Prize~
最新の受賞者情報
2023年度島津賞
京都大学 大学院医学研究科 教授
岩田 想 氏(59才)
受賞者には、表彰状・賞牌・
副賞500万円を贈呈
副賞500万円を贈呈
- 研究業績
- 膜タンパク質の3次元から4次元構造解析方法の開発
- 推薦学会
- 日本生物物理学会
- 受賞理由
- 候補者は1992年以来、一貫して医学・生化学的に重要な膜蛋白質の構造生物研究を行っており、自ら立体構造等を解明した生理的に重要な膜蛋白質は16種類に及び、名実ともこの分野における世界的なリーダーの一人と言える。
さらに、従来、X線結晶構造解析、NMR、電子顕微鏡などによる生体高分子の立体構造は、いずれも測定に通常数ミリ秒以上の時間が必要であったのに対し、X線自由電子レーザの適用を可能にすることで、化学結合の切断に要する時間である数10fs以下の時間で測定可能とした。この成果は、生体高分子結晶中の蛋白質の動きを実時間観察するシステムの構築を可能とし、生体高分子構造の実時間反応動画を撮影という4次元解析をも可能とした。このように新しい研究分野を切り拓いた優れた業績を高く評価した。
岩田氏の島津賞受賞については、下記HPでも紹介されています。
理化学研究所HP/京都大学HP - 研究内容
- ヒトのタンパク質のうち、30%程度が細胞表面の細胞膜に存在する膜タンパク質であることが知られている。これらの膜タンパク質は、その形を変えることで、細胞を制御する情報の伝達、細胞内外への物質の輸送、生命活動に必要とされるエネルギーを生産するなど、生体にとって不可欠な役割を果たしている。
市販の医薬品の半数以上は、このような膜タンパク質に働きかけ、その機能を制御することによって、薬効を発揮している。このため、これら膜タンパク質の詳細な形を理解することは、生体における働きを解明するだけでなく、新しい医薬品を開発するための重要な手がかりとなる。
受賞者は1992年にドイツに留学して以来、一貫して医学・生化学的に重要な膜タンパク質の原子レベルでの形を明らかにする研究を行ってきた。初期には、呼吸や光合成など生体におけるエネルギー生産に関係する膜タンパク質の形を決定し、その働きや、関連する遺伝病の原因を明らかにするなどの研究を行った。その後、膜タンパク質の形を決定する新たな技術の開発にも取り組み、実際に医薬品の標的となっている重要な膜タンパク質の形を決めるなどの業績を上げ、この分野における世界的なリーダーの一人となっている。
生体の中でタンパク質分子は形を変えながら働いている。このためタンパク質の形状変化を観測する技術の登場が長く望まれていたが、これまで適用されてきたX線結晶構造解析、核磁気共鳴(NMR)、電子顕微鏡などの手法では、静止した形しか明らかにすることができなかった。しかしながら最近実用化されたX線自由電子レーザという装置から発する非常に強く短い時間だけ光るパルスX線を用いると、動いているタンパク質の一瞬の形を捉えることができる。この光源を利用しタンパク質の動きをコマ送りの動画のように記録することができるようになった。受賞者は日本のX線自由電子レーザSACLA注1, 2において、トリガを用いてタンパク質内での反応を開始させ、その後の動きをコマ送り動画として捉えるシステムを構築し、まず光受容性タンパク質であるバクテリオロドプシン注3が光照射によってその形状等を変化させる様子の観測に世界で初めて成功した。さらに、このシステムを光合成に中心的な役割を果たすタンパク質(光化学系II)に応用し、岡山大学の沈建仁教授との共同研究により、水を分解し酸素が発生する反応の過程を観測することに成功した。
これらの成果により膜タンパク質の動きを原子レベルで詳細に観察する技術を確立し、生体におけるタンパク質の働きへの理解を深めたり、またそれに基づいて新しい医薬品を開発したりすることへの道が開かれた。 - 用語解説
- 注1 X線自由電子レーザ
電子ビームを加速させ、磁場により周期的に強く蛇行させることで、蛇行の進行方向に干渉性のある(波長・位相が揃った)X線を発生させるレーザ装置。非常に高い強度の短パルス・レーザ光を発生させることができる。 - 注2 SACLA
SPring-8に併設されたX線自由電子レーザ施設。理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設、整備を行った。その愛称(公募により決定された)が「SACLA(さくら)」。同施設は、グッドデザイン賞、第42回日本産業技術大賞(文部科学大臣賞)を受賞している。 - 注3 バクテリオロドプシン
網膜の光受容性(ひかりじゅようせい)タンパク質であるロドプシンの類縁のタンパク質が古細菌の細胞膜に存在し、微生物(バクテリオ)ロドプシンと呼ばれている。バクテリオロドプシンは、そのタンパク質内に結合しているレチナールという感光性分子に吸収された光を使って,プロトン(水素イオン)を細胞内から細胞外に運び、エネルギー産生にも深く関わっている。一方の動物に存在するロドプシンは、目の中の光センサーとしてヒトの生体中(網膜内)でも利用されている。
- 受賞業績のコア技術となる高速分子動画法の概念図
- 島津賞(2023年度)受賞者<岩田想氏>のプロフィール
- 主な略歴
-
1991年 3月 農学博士(東京大学) 1991年 4月 文部省高エネルギー物理学研究所 日本学術振興会特別研究員-PD 1992年 9月 ドイツ、マックスプランク生物物理学研究所 博士研究員 1996年 6月 スウェーデン、ウプサラ大学生化学科 講師 1999年 7月 スウェーデン、ウプサラ大学生化学科 教授 2000年3月(〜2015.6) インペリアルカレッジロンドン生命科学科 教授 2004年8月(〜2015.6) ダイアモンド放射光実験施設 ダイアモンドフェロー 2005年1月(〜2008.2) インペリアルカレッジロンドン 構造生物学センターディレクター 2005年9月(〜2011.3) 科学技術振興機構 ERATO岩田ヒト膜受容体構造プロジェクト研究統括 2005年9月 理化学研究所ゲノム科学総合研究センター
客員主管研究員(〜2012.5)2007年3月 京都大学大学院医学研究科分子細胞情報学 教授 2012年6月 理化学研究所放射光科学研究センターグループディレクター 兼任 2015年7月 インペリアルカレッジロンドン生命科学科 客員教授 兼任 現在に至る
- 主な受賞歴
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1998年 スベドベリ賞(スウェーデン生化学及び分子生物学会) 1999年 リンドボム賞(スウェーデン王立科学アカデミー) 2007年 3月 日本学術振興会賞 2007年 3月 日本学士院学術奨励賞 2010年 グレゴリーアミノフ賞(スウェーデン王立科学アカデミー) 2012年 文部科学大臣表彰 科学技術賞 研究部門 2022年 3月 小林賞(公益財団法人 小林財団)
島津賞とは
島津賞は、科学技術、主として科学計測に係る領域で、基礎的研究および応用・実用化研究において著しい成果をあげた功労者を表彰します。表彰は毎年原則1名で、表彰者には賞状、賞牌、および副賞500万円を贈呈します。
- 歴代の島津賞受賞者はこちら → 島津賞受賞者一覧