海中での高速通信を可能にする水中光無線通信技術

その他のソリューション

カーボンニュートラル社会の実現に向け、再生可能エネルギーとなる洋上風力発電に注目が高まっており、それを支える海底設備の効率的な保守・点検を無人潜水機(水中ロボット)で行うニーズが強まっています。
水中ロボットは海上の母船とケーブルでつながる遠隔操作型無人潜水機(ROV)が主流ですが、ケーブルによって行動範囲が制限されたり、ケーブルが絡まるリスクがあるといった理由から、無線で航行する自律制御型無人潜水機(AUV)へ期待が高まっています。
しかし、AUVが収集した画像や動画の検査データを回収するには、従来は機体を海中から揚収しなければならず、それにかかわる人員の安全性の確保やコスト面で課題となっていました。そのため、海底設備検査用AUVが海中から無線でデータの送受信を可能とする技術が求められています。

電波が通らない水中での無線通信の課題とは

電波がほとんど通らない水中における無線通信には、音波を使った音響通信がありました。しかし、音響通信は通信速度が遅く、画像や映像データの送受信は時間がかかるため海底設備の検査データの効率的な回収は困難でした。一方、水中音響通信の通信速度が数十kbpsなのに対して、可視光は水中での減衰が低く、数十Mbps以上の大容量通信が可能になります。島津製作所では実際に海中で使用可能な通信技術として近距離通信モジュールMC100を開発しました。

【 図1 水中での電磁波の減衰曲線 】

音響通信の1000倍以上の通信速度を実現する
水中光無線通信

【 図2 MC100外観イメージ 】

島津製作所の水中光無線通信技術を用いた近距離通信モジュールMC100は、可視光レーザーを用いた技術で、通信距離10m以内の近距離では最速95Mbpsでの通信を可能にします。これはハイビジョン画像をリアルタイムで送受信可能な通信速度です。これによって、動画や画像データの水中での高速無線通信が可能となり、AUVが海底で収集してきた検査画像や映像の回収を、機体を海上に揚収することなく水中に留めたまま行うことができるようになります。

LED方式とレーザー光方式の違い

水中での光通信にはLEDを用いたものと、島津製作所のMC100のようなレーザー光を用いた方式があります。レーザー光はLEDに比べ指向性が高く、単一波長という特徴があり、水中光無線通信の効率性向上と、通信ノイズの除去における利点となっています。

また、レーザー光はLEDに比べ、単一波長のためレーザー光の広がり角をレンズによって、正確に制御することができます。それによって、離れた場所での2点間の通信を行う場合、通信相手との距離に応じてレーザー光の広がり角を変えることで、効率よく光をターゲットに当てることができます。

光無線通信においては、照明光、太陽光等が通信のノイズとなってしまいます。波長幅が広いLEDと比較しレーザー光は単一波長であるため、通信光の成分を選択的に透過させる光学フィルタを用いることで、その成分を損なうことなく、ノイズとなる光を除去することが可能になります。

島津製作所が水中光無線通信を実現できた理由

可視光レーザーを用いた水中での無線通信を実現する方法として、複数のレーザー光を束ねて強くする必要があります。島津製作所は、レーザーを束ねるコンバイン技術に関して独自の高い技術を保有しています。
また、海中という過酷な環境においても耐久性良く、狙い通りの性能を発揮する必要があり、島津製作所は、海中で用いられる装置の開発を長年続けており、その技術的知見を蓄積してきました。
水中光無線通信技術は、これまで培ってきたレーザー技術と海中用装置の知見の融合によって実現しています。

水中光通信技術の活用想定

水中光無線通信装置MC100は通信距離10m以下の近距離通信を想定したもので、AUVが充電ステーションに戻ってきた際などに、充電と同時に、撮影した動画データなどをワイヤレスで回収することを可能にします。

【 図3 MC100を用いたワイヤレス充電時のデータ送受信イメージ 】

MC100とは別に、60〜80m程度の中距離通信を想定したモデルMC500もラインナップしています。通信速度は20Mbpsで、航行中のAUVからのハイビジョン動画のリアルタイム送受信や、遠隔操作型無人潜水機(ROV)の操作等で活用を想定しています。

さらに、レーザーの集光・分散技術を活用し、水中通信基地局の開発も進めています。これは、1対1の通信ではなく、設置した箇所の直径約80m全体を通信エリアにできる装置です。この装置が完成すれば、基地局の通信エリア内で作業するROVを複数台同時に制御したり、AUVが基地局の通信エリア内を通過する際に収集したデータを送信して再び検査に出かけたりということも想定しています。

【 図4 水中通信基地局を実現した海中イメージ 】

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