生命誕生の謎を探る古川先生が、原始の地球の隕石衝突を再現する実験で使用された装置がこちら、「一段式火薬銃」です。

銃身の長さは10m。この銃身の端から直径3cm、厚さ2mmの鉄製のディスクが発射され、もう一方の端にセットした円筒カプセルに衝突します。
カプセルの中身は水、二酸化炭素、窒素、水素など、おそらく原始の海はこのようなもので構成されていたであろう成分と、隕石に多く含まれている鉄。このカプセルにディスクが衝突すると、凄まじい衝撃波が内部に伝わるとともに、瞬間的に加熱、冷却されます。この過程で鉄による還元反応が起こり、有機物が発生するということです。

ディスクの速度は1km/sec。隕石の地球への衝突速度は10~20km/secですので、これに比べると遅いのですが、それでもカプセル内部で原始地球反応を起こすには十分な速さで、カプセルが壊れるリスクも減るとのこと。

衝突実験は2006年から始められ、年間30回、トータルで300回行われています。実験ごとにカプセルに入れる組成を少しずつ変え、衝突速度や温度も変えながら、これまでに300パターンが試されました。
原始の海の状態を推理できるのは地学/地質学の専門家ならでこそ。化学/生物学からのアプローチだけでは難しかったことでしょう。
古川先生は異分野とのコラボレーションが非常に重要と考えられており、頭を柔らかくしていろいろな人の話を聞くことを大切にしているそうです。

話は変わりますが、実験に使用されている「一段式火薬銃」は非常に大がかりな装置で、許されている時間内に実験できる回数にも制約があります。ちなみに、レーザーを使って衝撃を与える装置もあるということですが、実験で生成されるサンプル量が極めて少なく、分析装置の感度が今の1万倍以上必要だそうです。逆に言えば島津製作所の分析装置の感度が1万倍以上になれば、実験がもっと手軽になり、生命誕生のストーリーが書き上げられるのもずっと早くなるかもしれませんね。