「世界初であること」よりも、「役に立つこと」を誇るために。島津製作所 シニアフェロー 田中耕一「世界初であること」よりも、「役に立つこと」を誇るために。島津製作所 シニアフェロー 田中耕一

異分野を横断する、チームワークを。

ノーベル賞を受賞し、逆に反省させられたことがあります。価値のある発見はした。しかし、まだまだ、世の中に役立つものに育て切れていない。私は産業界にいる研究者です。役に立つ製品をつくることが目標のはずです。そのために大切なのが、異分野融合だと思えるようになりました。

大学は、自分の専門分野をどこまでも掘り下げていく場所です。ところが企業に入ると、さまざまな分野の専門家たちとともに仕事を進めていく。「チームワークは独創をそぐ」と思われていますが、逆もまた事実です。異分野と異分野のコミュニケーション。そこには、思いがけない発見がある。ある分野で失敗の烙印を押されたことが、異なる分野で活躍できるケースは意外に多い。また、専門外の研究者に、自らの知見を筋道立てて説くうちに、自分自身が見落としていた何かに気づかされることもあります。

私が現在取り組んでいる「次世代質量分析システムの開発」はその一例です。人が病気にかかる時には、血液中のタンパク質に変化が起こる。タンパク質のひとつの重さは、1ミリグラムの1京分の1より小さい。しかも数十万種類もある。この中から、病気に関係するタンパク質のみを選び出し、高感度に計測する装置ができたら、一滴の血液から疾病を早期診断し、新しい治療法や薬の開発に大きく貢献することができます。そのためには、医学、薬学、生物学、化学、物理、電気、機械などの知識を相乗させなければならない。目標に向かい、さまざまな分野の人々が集結する。そして、独創が生まれる。私の研究は、まさにその連続によって前進しているのです。

研究者は黙々と開発だけをすればいいという時代は、もはや終わりました。私自身、決して話すことが得意ではありませんでしたが、コミュニケーションによって得られる結果の大きさを今は痛感しています。世の中にまだまだ残されている、解明されていない分野。世界の誰よりも速く紐解くための鍵は、分野を超えたコミュニケーションが握っています。

それができるのが、もの作り、研究開発の現場です。かつてない発想で、本当に世の中に役立つ技術を開発する。それは嬉しいことです。それに取り組む仲間が増えること。それは楽しいことです。

想い