AAIC 2026:世界の認知症研究の最前線へ
毎年9月は、認知症への理解促進や支援の輪を広げるために制定された「世界アルツハイマー月間」です。高齢化が進む世界において、認知症は医療や介護の現場だけでなく、社会全体に大きな影響を及ぼす重要な課題の一つです。近年はアルツハイマー病に対する新たな治療法の研究開発が進む一方で、早期発見の重要性が高まっています。当社は、質量分析技術を用いた血液バイオマーカー(BM)*1の研究や、高性能PET装置による画像診断技術などを通じて、認知症医療の発展に貢献してきました。
*1 バイオマーカー:病気の早期発見や診断の手掛かりとなる、生体内で代謝された物質。

2026年7月、英国・ロンドンで開催された認知症研究分野最大級の国際学会「Alzheimer's Association International Conference (AAIC 2026)」に当社社員が参加しました。世界各国から約1万人以上の研究者や医療関係者が集う最前線で見えてきた認知症研究の現在地と未来、そして当社社員の挑戦について、現地レポートをお届けします。
ロンドンで広がった研究者としての視野 ―初めての国際学会へ
今回の学会に当社から参加した一人が、入社2年目の妹尾佳英(田中耕一記念質量分析研究所アプリケーションG)です。学生時代に国内学会で発表した経験はあったものの、国際学会への参加は今回が初めて。英語で研究発表を行うことへの不安に加え、会社を代表して参加する責任も感じ、当初は大きな緊張がありました。一方で、最先端の認知症研究に触れ、自身の研究を海外の研究者に直接伝えられる貴重な機会に、大きな期待をよせての参加となりました。

田中耕一記念質量分析研究所アプリケーションGの妹尾佳英
初日は、会場の熱気と規模に圧倒されました。これほど多くの人が認知症の克服に向けて研究に取り組んでいることを肌で感じ、自分もその一員として、さらに成長したいと強く思いました。
会場では、血液や脳脊髄液検査を用いたバイオマーカー(BM)に関するセッションを中心に聴講しました。特に、以前からBM候補として有望視されてきたp-tau217*2は、臨床応用に向けて着実に前進していると実感しました。
また、アルツハイマー病と診断された患者さんの中には、レビー小体型認知症も併存しているケースがある一方で、その併存が見逃されている可能性も指摘されています。今回聴講した発表では、私が研究対象としているαシヌクレインをBMとして活用することで、レビー小体型認知症の併存を検出できる可能性が示されていました。そのような発表に触れ、自身の研究の重要性を改めて認識するとともに、今後の研究への大きな刺激にもなりました。
(妹尾)
*2 p-tau217:アルツハイマー病の早期発見につながる可能性があると期待されている血液中のタンパク質指標の一つ。
臨床応用につながる技術の確立を目指して
今回、妹尾が発表したのは、クロスリンキングMS(XL-MS)*3を活用した「αシヌクレイン」の新たな検出手法に関する研究です。αシヌクレインは、脳や神経系の組織に多く存在するタンパク質です。何らかの原因によって過剰に蓄積・凝集するとパーキンソン病やレビー小体型認知症といった神経変性疾患の原因になると考えられています。近年では、疾患によって凝集体の構造が異なることもわかってきましたが、その構造の違いを見分けることが容易ではなく、従来の検出法では測定や解析に時間がかかるなどの課題があります。
*3 クロスリンキングMS:タンパク質の形や結びつき方を調べる質量分析技術。病気に関わるタンパク質がどのように凝集しているかを解析できるため、認知症や神経変性疾患の研究での活用を目指している。
XL-MSの特徴を活用し、人工的に調製した試料を用いて、凝集体と単量体を識別できることを示したところ、質量分析になじみのない研究者からもその仕組みに関心が寄せられました。血漿サンプルを用いた測定に関する質問も多く、臨床応用への期待の大きさを感じたといいます。今後は、検出感度の向上や血漿サンプルでの測定、さらには疾患の識別に取り組み、将来的には臨床診断の支援を目指したいと、妹尾は語ります。
研究は一人ではできない
今回のAAIC参加を通じて、最も大きな学びの一つとして挙げたのは、研究を支える人とのつながりでした。
研究は一人で完結するものではなく、多くの方に支えられて成り立っていることを、これまで以上に実感しました。日々の実験やデータ解析、考察、勉強会、発表準備まで、さまざまな形で周囲の方々に支えていただきました。また、今回の参加をきっかけに英会話にも取り組み、準備を重ねることでできることが少しずつ増えている実感も得られました。今後は自分の専門性をさらに磨くとともに、幅広い知識や視点を取り入れながら、独創的な研究を社会実装につなげられる研究者・技術者を目指したいと考えています。
(妹尾)
認知症研究は、医学や薬学、分析化学などさまざまな分野の研究者が連携しながら進める領域です。今回のAAIC2026への参加は、若手社員が世界の最前線に触れ、自身のキャリアの可能性を広げる場にもなりました。ロンドンで得た学びを胸に、新たな挑戦はこれからも続いていきます。当社も、科学技術を通じて認知症という課題の解決に貢献できるよう、挑戦を続けてまいります。
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