日本酒に込められた想いを表出させる

古都・京都には、伝統産業と最先端の科学が長い歴史の中で融合し、新たな価値を生み出してきた土壌があります。日本酒『源遠流長』は、島津製作所の従業員と地元京都の方々が「味をつくるとは」「味を科学するとは」を問いながら、異なる分野の知見を結集して挑戦したプロジェクトです。その想いを多くの人に感じてもらえるよう、ラベルをデザインしました。

源遠流長(げんえんりゅうちょう)について
明治期、九鬼隆一男爵が「島津家家譜 」の巻頭に毛筆で書いた言葉に由来します。「いまや、創業からは遠くなりましたが、今後、事業が川の流れのように末広がりに発展するように」という祈りが込められており、この日本酒が“新たな広がりの一端”となることを意図して名前に採用されました。

源遠流長:2023年パッケージ 源遠流長:2024年パッケージ 源遠流長:2025年パッケージ

本プロジェクトは2023年から2025年までの3年計画として進め、当社 が150周年を迎える2025年に合わせてプロジェクトを終えるように設定しています。京都伏見の招徳酒造と協業し 、水・米・酵母などすべて京都産の素材にこだわって醸造しました。さらに、島津の分析技術を取り入れ、毎年異なる味わいを数値で捉えています。こうした数値化された情報と、そこに託された想いをパッケージやWebなどのコミュニケーションデザインに落とし込むことが、デザイン部門の役割です。

源遠流長2023のデザイン
「味を科学する」という挑戦を視覚的に表現しています。島津製作所の分析装置で測定した成分量を起点に、味の要素が化学構造式のようにつながるイメージを展開。独自の3Dデータ生成プログラムを用い、6つの指標となる成分含有量をグラフィックとして配置しています。科学的な視点を日本酒に重ね、伝統の中にも先進性を示唆しています。

源遠流長:2023年ラベル

源遠流長2024のデザイン
創業当初から受け継がれる島津の精神を表現しています。日本初の有人水素気球飛揚を描く「軽気球試検之図」や、創業当時の桜モチーフのステンドグラスを引用し、歴史的イメージを新たな形に再構成。過去の挑戦を振り返りながら、現代に生きるデザインとして鮮やかに表現しています。

源遠流長:2024年ラベル

源遠流長2025のデザイン
150周年を迎えるアニバーサリーボトルとして、長い歴史の積み重ねを「地層」に例え、その断面を切り出したようなラベルデザインを採用。時間を俯瞰する視点を取り入れることで、歴史そのものを味わうような感覚を演出。積み重ねたレイヤー状のグラフィックは、これから先に続く物語を感じさせるデザインとなっています。

源遠流長:2025年ラベル

さいごに
3年にわたる日本酒づくりとデザインの試みは一区切りを迎えますが、こうした小さな変化を次の一歩へとつなげることがデザインのもうひとつの使命だと捉えています。様々なプロジェクトを通じて蓄積された知見や人と人とのつながりを活かして、新たなコラボレーションや発想を生み出すきっかけに変えていくことだと思っています。