働く世代が病気の
悩みを共有、相談し、
一歩踏み出せる場を
つくりたい

同じ悩みを持つ人たちとの出会い

京都ワーキング・サバイバーを設立された経緯を教えてください。

治療をやめて1年ぐらい経って、ようやく元の自分に戻ってきました。がんの経験をしたことを何かに生かしたいと思っていたときに、国立がん研究センターの患者・市民パネル募集を見つけて応募したらパネルの一人に選ばれました。
そこで同じ悩みを持つ同世代の人たちと出会い、感銘を受けたことは自分にとって大きかったです。
ピアサポートをしている人が多く、そんな活動があることもここで知りました。

*ピアサポート:同じような症状や悩みを持つ立場の仲間で、体験を語り合うなどして支援する取り組み。

のちにピアサポーター養成講座にも参加されたのですよね。のちにピアサポーター養成講座にも参加されたのですよね。
のちにピアサポーター養成講座にも参加されたのですよね。

はい。主宰の方から「若いがん患者さんが集まれるところがないので立ち上げてみませんか?」と声を掛けられたのがワーキング・サバイバー設立のきっかけです。私自身、働く世代の患者会があればいいのにと思っていたので、無いならつくればいいのか!と思いました。
パネルをしてみて、自分では知っているつもりだったがんの情報がインターネット頼りだったこと、正しい情報を知ることの大切さや難しさ、自分の無知さに気づきました。同じように思う人がいるはずで、その人たちのために正しい情報が得られて相談できる場所をつくりたかったのです。

立ち上げには社労士さんもメンバーにいらっしゃいますね。

お金や仕事に困ったときに助けになるのは正しい情報や制度で、そのためには社労士さんの力は絶対に必要だと思っています。困っていることに対して、この制度を使ったら?とか、こんな支援があるよ、とか“今”役立つ情報が得られることが重要だからです。一般的な患者会は、お喋りで発散できることもあると思います。でも、働く世代の悩みの解決まではできません。

働く世代としての視点をとても大切にされていますね。

そうですね。うちの定例サロンの場所は、仕事終わりの平日の夜に行きやすいオフィス街に置きたくて、こだわって探しました。水曜日の夜に開催しているのは、水曜日にノー残業デーの会社が多いからです。治療と仕事の両立は復職して終わりではなく、長く続いていきます。その間、モヤモヤすること、生きづらいと感じることもあると思うのです。
そんなときに「あそこに行ってみんなの知恵を借りよう」と気軽に参加できる場でありたい。
誰も来なかったとしても必ずサロンは開け続けるつもりです。

治療と仕事の両立に、会社側で必要なことは何だと思われますか?治療と仕事の両立に、会社側で必要なことは何だと思われますか?
治療と仕事の両立に、会社側で必要なことは何だと思われますか?

患者さんは元の生活に戻りたいけれど、なかなか難しいのが現実。
徐々に職場に戻れるような復職支援プログラムや制度はあった方がいいですが、両立支援にマニュアルはありません。一人ずつ症状や状況も違うので、会社や同僚と対話ができる環境整備が大切です。

以前、仕事をチームでフォローし合える体制をつくって、職場環境を自分で変えた人がいました。これによって闘病中の人だけでなく、インフルエンザや介護、育児休暇で休む人がいても仕事が滞ることがなくなったそうです。対話から生まれた環境整備は結果的に会社にとってもプラスで、みんなが働きやすくなるのですよね。「できるかできないか」ではなく、「どうすればできるのか」の視点は必要です。

では自分が患者になったとき、治療と仕事の両立に必要なことは何でしょうか?

治療しながら仕事も両立していきたいと思うのであれば、普段から人に必要とされる働き方ができているかが重要だと思います。

制度はもちろん必要ですが、結局は人が助けてくれるかどうかです。いつも人と助け合って「お互い様」という気持ちで仕事をしている人は、いざというときもきっと助けてもらえるし、職場に戻ってきてほしいと思ってもらえるのではないでしょうか。

最後にメッセージをお願いします。

私は毎年検診が終わるたびに、1年間だけ自由な時間をもらったと思っています。
日々の限られた時間の中で目標を立て、やりたいこと、やるべきことに取り組み、それができることに感謝し、いつ闘病生活に戻っても後悔しない生き方をしよう、それができれば再発も怖くない、と思えるのです。

自分の命を守る方法自分の命を守る方法

自分の命を守る方法

検診は大切で、命を救うためには早期発見、早期治療は重要です。 しかし、たとえば若年層の健康な人が頻繁に検診を受けることは、メリットよりデメリットが大きいともいわれています。 また、がんになってもその後のフォローやサポート、相談できるところ、制度などを知っていれば怖さは随分やわらぎます。 がんに関する正しい情報を知ってほしいと思います。

あとは……普段から自分の体調を気にかけておくと、ちょっとした異変に気付けます。がんになってからもずっとマラソンを続けている私は、練習での調子や疲れ方などで体調をはかれるようになりました。 これも、自分の命を守る有効な方法なのかもしれません。

profile
前田 留里(まえだ るり)

1972年京都生まれ。医療法人同仁会(社団)で職員として働く傍ら2015年に京都ワーキング・サバイバーを設立。
自身の経験を生かし理事長を務め、働く世代のがん患者支援を行う。がん告知を受けた2日後に初マラソンを完走し、以降マラソンを続けているほか、最近は大学に通い公認心理士と臨床心理士を目指し勉強中。
「生きたかった人の分まで、後悔のない人生を送りたい」

NPO法人 京都ワーキング・サバイバー https://www.kyoto-working.com/