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2025年5月20日 | プレスリリース MALDI-TOFMS微生物同定ソフトウェア「MicrobialTrack」をクラウドサービスで発売
未培養や難培養も含む微生物8万5千種を網羅する業界最大のデータベースを活用

島津製作所は、医薬品の検査、食品の衛生管理、河川の水質検査などで実施されている微生物同定向けに、独自開発の大規模データベースを活用した、微生物同定ソフトウェア「MicrobialTrack」を国内外で発売しました。本製品は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析計(MALDI-TOFMS)※1で取得した微生物の測定結果※2をデータベースに照会して、国際原核生物命名規約に基づき発表済みの分類に加えて、難培養・未培養の分類を含む、約8万5千種の微生物(バクテリア、アーキア)のうち、対象がいずれに該当するかを3時間以内※3で特定します。当社は煩雑・高額な遺伝子解析法に替わり得るソリューションである「MicrobialTrack」を通じて、微生物の検査・研究に貢献していきます。

微生物の同定は近年、衛生意識の高まり、チルド食品の普及、薬剤耐性菌の頻出などから、その検査需要は世界中で拡大しています。臨床および食品微生物検査には、MALDI-TOFMSで得た測定結果とのパターン類似度で同定する「フィンガープリント法」があります。検査は約3時間と短いものの、データベース規模が既知分類の5千種に留まり、同定精度にも難があるので、特定の検査用途に留まっています。そのため、未知の微生物を調べる目的では、「遺伝子解析法」が用いられてきました。これは微生物からDNAを抽出し、遺伝子の塩基配列を解読するものですが、同定に約2日かかり※3、専門知識が必要なため受託分析機関に依頼することが多くあります。

写真:微生物同定ソフトウェア「MicrobialTrack」の画面イメージ

写真:微生物同定ソフトウェア「MicrobialTrack」の画面イメージ

「MicrobialTrack」は、ゲノム配列から推定された微生物のタンパク質の理論質量との類似度で同定する「プロテオミクス法」を採用しています。本製品で用いる原核微生物タンパク質理論質量「GPMsDB」には、公共ゲノムデータベースから得られた約40 万件のデータに由来する原核微生物の理論質量が登録されています。発表済みの微生物に加えて、学名が付与されていない未培養・難培養を含む8万5千種が分析対象です。これにより、MALDI-TOFMSでは対象とされていなかった広範囲の微生物の分析が可能になります。公共のゲノムデータベースには年間数十万件の微生物ゲノムデータが新たに登録されています。クラウドサービスである「MicrobialTrack」はインストールや据付が不要で、ウェブサイトでIDとパスワードを入力・ログインするだけで解析を始められます。ライセンス期間中は追加費用なしで最新の「GPMsDB」による微生物同定が可能です。当社製以外のMALDI-TOFMSで取得した測定結果にも対応します。

本製品は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)との共同研究成果を基に開発されました。産総研と当社は2023年に原核微生物タンパク質理論質量データベース「GPMsDB」と、質量分析結果を解析する独自アルゴリズムによる、微生物の同定手法に関して発表しています※4。MALDIは当社エグゼクティブ・リサーチ フェローである田中耕一のノーベル化学賞の受賞理由となった技術で、マトリックス(イオン化補助剤)を混ぜた試料にレーザーを照射し、タンパク質など高分子化合物を壊さずイオン化します。

  • ※1 対象製品は「MALDI-8000」シリーズ、AXIMAシリーズ、他社製品
    ※2 横軸に質量電荷比、縦軸にイオン強度を置いたグラフ(マススペクトル)
    ※3 液体培養した微生物(細菌96検体)を有機酸と有機溶媒で前処理した場合
    ※4 2023年12月5日に「Genome Biology」誌に掲載
  • 本文書に記載されている製品は、医薬品医療機器法に基づく医療機器、体外診断用医薬品として承認・認証等を受けておりません。本文書に記載されている分析手法を治療診断目的およびその手続き上で使用することはできません。

新製品の特長

1. 8万5千種を網羅する業界最大の独自開発データベースを活用

「MicrobialTrack」で活用する原核微生物タンパク質理論質量データベース「GPMsDB」は、業界最大となる8万5千種の微生物の理論質量が搭載されています。MALDI-TOFMSにより検出されるタンパク質の実測質量と、「GPMsDB」の理論質量を比較して、類似度に基づいて微生物を同定します。

図:プロテオミクス法による微生物同定の原理

図:プロテオミクス法による微生物同定の原理

  • ※MALDI-TOFMSによる実測質量(マススペクトル)を「GPMsDB」に搭載されている理論質量に照会する。遺伝子はタンパク質の設計図とされている。ゲノム中の遺伝子の塩基配列をアミノ酸配列に翻訳すればタンパク質の理論質量が計算できる。「GPMsDB」には公共ゲノムデータベースから得られた約40 万件の塩基配列に基づく、微生物のタンパク質の理論質量が登録されている。

2. インストールや据付不要のクラウドサービスで提供

「MicrobialTrack」はクラウドサービスのため、専用ソフトウェアのインストールや装置の据え付けなどは不要で、アカウント登録後にすぐウェブサイトで利用できます。「GPMsDB」はゲノム配列情報の蓄積や新分類の追加などに応じてアップデートされるので、常に最新情報に基づくデータベースで微生物を照会できます。

3. ドラッグ&ドロップで簡単解析

パソコン画面でログイン後、わずか3 ステップで解析作業をスタートできます。解析結果は信頼度に応じた色付きアイコンとともに、類似度の高い微生物がランキング形式で表示されます。さらに、プロテオミクス(たんぱく質の網羅的な解析)に基づくMALDI-TOFMSの解析結果やタンパク質情報も併せて提供されるので、通常は専門的な知識が必要な解析が簡便に行えます。

製品名 MALDI-TOFMS微生物同定ソフトウェア「MicrobialTrack」
希望販売価格 132万円~ (税込み)
販売目標 発売後1年間で国内外合わせて100ライセンス

詳しい製品説明についてはこちら

 

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