島津評論 Vol.80[3・4](2023)
特集 ダイアグノスティクス

特集論文

MALDI-MS微生物分析の新展開
ー ゲノム科学と質量分析を融合した次世代MALDI-MS 微生物種同定プラットフォームの開発 ー

寺本 華奈江1関口 勇地2

島津評論 80〔3・4〕 85~92 (2023)

要旨

MALDI-MS(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Mass Spectrometry)は臨床微生物検査分野を中心に広く微生物同定に使用されている。本技術は,ライブラリに登録された各種微生物のマススペクトルと試料菌株のマススペクトルとのパターンマッチングにより微生物種を同定する。しかし,この方法ではライブラリ未登録の菌種は同定できず,登録菌種の偏りが課題とされてきた。そこで著者らは,MALDI-MSにより多様な微生物種同定を行うため,微生物ゲノム情報を利用した新しいアプローチを考案し,原核微生物の大規模理論タンパク質量データベースの構築とそれを利用した解析アルゴリズムの開発を行った。この次世代MALDI-MS微生物種同定プラットフォームでは,遺伝子から予測されるタンパク質の理論質量を用いるため,培養条件や試料調製法の影響による質量スペクトルパターンの変化を考慮する必要がない。試料菌株の同定結果に加えて,観測ピークの帰属結果とそれら検出タンパク質のアミノ酸配列などゲノムにひもづく情報も得られるため,バイオマーカー検索など,より高度な分析に使用できる。本MALDI-MS微生物種同定システムは,MALDI-MSを用いた微生物研究に貢献すると期待される。


1分析計測事業部 ライフサイエンス事業統括部 MSビジネスユニット 博士(工学)
2国立研究開発法人産業技術総合研究所 生命工学領域 バイオメディカル研究部門 博士(工学)

*島津評論に掲載されている情報は、論文発表当時のものです。記載されている製品は、既に取り扱っていない場合もございますので、ご了承ください。