THE FIRST NIGHT TEAM
THE FIRST NIGHT TEAM
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第二の夜
ビニール傘滞空マッチ

大前提は、
ものづくりを全力で楽しむこと
最速で失敗を繰り返すことで、
最高のモンスターを最短で生み出す

魔改造品は、日用品のビニール傘。S津製作所が夜会に送り出したのは、
ぱたぱた「カサフライちゃん」と、バサバサ「カサフライさん」の兄妹。
とんでもない動きをする2つのモンスターだ。

start

FIRST DAY

夜会の幕開け

回転テキスト 夜会の幕開け画像1 夜会の幕開け画像2

想定外の生贄に
メンバーが困惑?!

生贄は、なんと日用品の「ビニール傘」。これを魔改造して、閉じた状態で投げた傘が空中で開き、滞空時間が長いチームが勝利となる。ただし、浮力は禁止。また、傘として「雨をしのぐ」機能を失ってはならない。試技は2回行われる。
家電のお題だと思っていたら、「傘の滞空」。電気系メンバーは出番がないのでは…?と落胆する。
しかし、正解が分からない魔改造においてアイデアを一つに絞ることはリスクが高く、別案に挑まなければ悔いも残る。「創業150年にちなんで目標は150秒!」と定め、傘をはばたかせる機構に決定。全員の活躍を期待し、スタートを切った。

変型機構班/サブリーダー・木村 裕章

変型機構班/サブリーダー・木村 裕章

最初に立てた目標の150秒が、はばたき機構の選択肢を狭めたかもしれませんが、逆にチャレンジするしかないというチーム全員の共通意識を持てたと感じました。

制御班・黃 定三

制御班・黃 定三

難しいお題にチャレンジしたかったので、「これおもしろい!難しそう」という気持ちでした。同時に、メカメカした機械にしたいと思いましたが、他のメンバーも同じ考えなのか心配でした。

voice

PHASE1

3つを並行開発

PHASE1画像

試作のスピードに
度肝を抜かれる

はばたき機構に絞ってアイデアソンを実施し、参考になりそうな文献探しからスタート。「垂直オーニソプター」、「水平パタパタ」、「水平オーニソプター」の3つを並行開発することになる。これを受けて、メンバーの一人が速攻でアクチュエータVer.1を持参し、全員が驚愕。このプロジェクトに求められるスピード感が、チーム内に浸透したのだった。

サブリーダー・山口 光弘

サブリーダー・山口 光弘

魔改造のように正解のわからない挑戦は、とにかく手を動かして失敗を繰り返すことが重要。
ギアボックス班のリーダーの試作スピードは圧倒的で、3Dプリンタを使えるメンバーが多かったことも、試作改良を進めるうえで大きかったです。

voice

PHASE2

3モンスターの進む道

PHASE2画像

本命に立ちはだかる
高精度とメンテナンス性

最初に成果が出た「水平パタパタ」だったが、目標の150秒の実現が見えず開発を断念。本命の「垂直オーニソプター」は、素材実験やモーター等の選定が進み基盤ができあがるが、アクチュエータの開発が思うように進まない。一方で「水平オーニソプター」は、開発1週間で飛行実験に着手できる進行ぶり。少人数でバージョンアップさせていく姿はチームの刺激となっていた。

変形機構班・黒崎 滋

変形機構班・黒崎 滋

はばたく飛行物体の知見を誰も持っていなかったので、実験結果をもとに最適形状を探索しました。3Dプリンタでの作成は、明確に強度を算出できず、強度と軽量化のバランスをとるためにトライ&エラー続きでした。

羽班・関本 峻介

羽班・関本 峻介

飛ぶ際にアクチュエータにかかる負荷が大きいようで、長時間の連続運転はできませんでした。短時間で評価できるように、飛ぶために必要なモーターへの入力の大きさから羽の形状を絞り込んでいきました。

voice

PHASE3

暗黒から見えた
希望の光

PHASE3画像

ようやく掌に感じた
強くはばたく力

「垂直オーニソプター」は、ギアボックスを持ち上げる浮力を得ながら飛ぶ気配が見えない。ついにリーダーが「本命をあきらめるかもしれない」と弱気になる。しかし、サブリーダーから「可能性が低くてもあきらめずにチャレンジしたい」と反対され、前言撤回。これまで通りチームを鼓舞すると決意した翌日、ついに傘が浮上!互いに称え合い、拍手と歓喜に包まれた。

チームリーダー・古田 哲朗

チームリーダー・古田 哲朗

若手設計メンバーの兄貴的存在の木村さんがみんなの気持ちを代弁してくれたことが、あきらめずに挑戦する後押しになりました。浮上した瞬間は泣きそうでしたが、これで迷いなく全員が進むことができると確信しました。

羽班・沼田 幸治

羽班・沼田 幸治

羽はさらなる推力アップを目指して最適化を検討していました。しかし、本番まで残り日数を考えると現時点で十分な推力を確認できたので、制御実験機体の追加製作を優先させるために、羽の形状を確定させました。

ギアボックス班・森 尚輝

ギアボックス班・森 尚輝

「垂直オーニソプターで飛べるぞ!」となり、そこからさらに試作が加速したように感じます。「この方式でいけるかも!」と希望が出てきて再度がんばりましたが、冷静に振り返ると本番1週間前は遅すぎますね…笑

変型機構班/サブリーダー・木村 裕章

変型機構班/サブリーダー・木村 裕章

変形機構の設計と造形が完了しましたが、ギアボックス班との意見が対立し、方向性の決定に苦しむ場面がありました。しかし、ギアボックス班のリーダーが作成したモックが実現性を示してくれたおかげで、最終的に方向性が固まりました。嬉しい気持ちと同時に、自分の力不足を悔しく感じました。

voice
ギアボックスの耐久性等の
問題を抱え100回以上におよんだ
羽の最適化実験

羽の性能に影響する形状や材質等の最適化実験に、機体の羽駆動系1個で片持ち状に固定する治具を使用。はばたき時の浮き上がり高さや、モーター出力の大小の比較で最適化を行った。効率よく実験を行い、機体が浮く羽の仕様を確定させた。

スピード勝負の開発を裏で支え続けた加工班
スピード勝負の開発を裏で支え続けた加工班
守り神として本番を見届けた
水平オーニソプター

若手メンバー主体のバックアッププラン「水平オーニソプター」は、傘化変形と飛行の両立の目途が立たず、本番は「垂直オーニソプター」で挑むことに。開発メンバーの思いをのせ、当日の“もしも”に備えて会場入りし、見守った。

PHASE4

根気と執念の賜物

PHASE4画像

カサフライ“さん”、
待望の初フライ

残り1週間、急いで制御を進めるなかでPID制御を見直し、傘はまっすぐ地面から3mほど上昇するまでに成長を遂げた。
あとは金属製アクチュエータの完成を待つのみだが、最終日前日のVer.8も出力不足で浮上することができない。ギリギリまで実験しようとするメンバーに、古田リーダーが「アクチュエータを3つに増やそう」と提案。このときすでに最終日前日の18時20分。変形機構、羽、制御の各班も急いで対応し、ついに21時22分に初飛行に成功!最終調整を経てカサフライ兄妹を夜会へ送りだした。

ギアボックス班・飯嶋 勇樹

ギアボックス班・飯嶋 勇樹

設計⇒作る⇒実験のサイクルを1~2日で回して作ったVer.8をもってしても浮力が足りず、正直半ば浮き上がることをあきらめていました。古田リーダーのひと声と、みなさんのおかげで奇跡的に浮上した瞬間は、驚きのあまり言葉を失いました。

制御班・古瀬 清郁

制御班・古瀬 清郁

最終日前日の深夜に「モーターを3個搭載するからそれ用のケーブル作って!明日の朝までに!」と言われたときが一番しんどかったです。実際にカサフライさんが問題なく動いた瞬間は、達成感がありました。

ON THE DAY

夜会当日

ぱたぱたカサフライちゃん

ぱたぱたカサフライちゃん

軽量化を追求したゆえに壊れやすく心配をかけた子を、「ぱたぱた」と飛ぶ音とリンクさせて命名。
ダブルミーニングの「フライ」をモチーフに、「わたし揚がってますよ」のコピーを添えたかわいこちゃん(妹)。

バサバサカサフライさん

バサバサカサフライさん

「ぱたぱた」というかわいい音から力強い「バサバサ」の音に変わった、カサフライちゃんの兄。
アクチュエータの数が3つに増えたことから、カサフライさん(3)に命名。

第一試技
ぱたぱた「カサフライちゃん」

第一試技ぱたぱた「カサフライちゃん」 第一試技ぱたぱた「カサフライちゃん」

素材

  • ビニールの厚さ(mm)20㎛
  • 柄の材料カーボン
  • ビニールの材料ポリエチレン
  • 骨の材料カーボン

折りたたんだサイズ

  • 全幅(cm)(前後方向)25cm
  • 全幅(cm)(横方向)25cm
  • 長さ(cm)115cm

雨よけ時のサイズ

  • 全幅1(cm)(前後方向)114cm
  • 全幅2(cm)(横方向)120cm
  • 全高さ(cm)115cm

滞空時のサイズ

  • 全幅1(cm)(前後方向)112cm
  • 全幅2(cm)(横方向)154cm
  • 全高さ(cm)115cm
  • 重量(g)975g

第二試技
バサバサ「カサフライさん」

第二試技バサバサ「カサフライさん」」 第二試技バサバサ「カサフライさん」」

素材

  • ビニールの厚さ(mm)20㎛
  • 柄の材料カーボン
  • ビニールの材料ポリエチレン
  • 骨の材料カーボン

折りたたんだサイズ

  • 全幅(cm)(前後方向)18cm
  • 全幅(cm)(横方向)18cm
  • 長さ(cm)115cm

雨よけ時のサイズ

  • 全幅1(cm)(前後方向)114cm
  • 全幅2(cm)(横方向)120cm
  • 全高さ(cm)115cm

滞空時のサイズ

  • 全幅1(cm)(前後方向)140cm
  • 全幅2(cm)(横方向)140cm
  • 全高さ(cm)115cm
  • 重量(g)1250g

point1

1ギアボックス

3つの歯車で回転を
はばたきに変える

傘を投げて0.2秒後にモーターが動くと、回転が歯車に伝わる。2枚の歯車で1/13に減速された回転運動は、クランク機構へと入力され、ここで回転運動を前後運動に変換し、羽を押し引きすることで、はばたき運動を実現している。

3つの歯車で回転をはばたきに変える

(写真はカサフライさん)


point2

2変形機構

すばやく変形、しっかり固定

ギアボックス内側にある、羽を展開させるための機構。折りたたんだ状態では、閉じた傘を投げてアクチュエータのモーターが動き出すとロック機構から解放され、はばたき始める。
ロック機構から解放されたアクチュエータと羽は、強力なバネの力で滞空モードへ。90°展開し滞空モードになると、アクチュエータは変形機構に設置したラッチで固定され、滞空モードをキープする。

大ストローク&超高速から繰り出す恐るべしパワー

(写真はカサフライさん)


point3

3

8の字に近い動きで
空気の渦を作る

8の字に近い動きではばたくことで、空気抵抗を受けて羽シートが傾き、ぱたぱた軸のしなることでカーブ状の羽の縁で空気の渦を作って揚力を発生し、はばたきを閉じる際に下側に空気を押し出して推力を得ている。
左右の羽を1秒間に7回120度開閉し4m/sの風を発生させて上昇する。滞空モードでは、尾軸をストラップで柄とつなげて、はばたき時の羽のカーブ形状を安定させ、雨しのぎモードでは尾軸の端は主軸からはずし、先端をアクチュエータに挿して羽の広がりをキープする。

8の字に近い動きで空気の渦を作る

(写真はカサフライちゃん)


point4

4制御

基板“AIAI傘”が、
姿勢と滞空をコントロール

水平に寝かせた傘を起こしたり少し揺らしたりすることで、制御基板に搭載した加速度センサ(IMU)と気圧センサのキャリブレーション(補正)を行う。
傘を投げた0.2秒後にモーター出力を100%にしてはばたかせ、左右の羽に沿った軸の傾きをIMUで計測。モーターの出力を別々に制御することで、傘が垂直姿勢を保つようにプログラムしている。

基板“AIAI傘”が、姿勢と滞空をコントロール

(写真はカサフライさん)


CHALLENGEカサフライ兄妹が、
夜会に挑む

カサフライ兄妹が、夜会に挑む

CHALLENGEカサフライ兄妹が、夜会に挑む

2回とも記録を残すも2

第一試技はカサフライちゃんの挑戦。飛び立つもラッチ機構がうまく作動せず、羽の軸が引っかからなかったことで推力が得られないまま2秒で落下してしまう。夜会当日までの短い期間で、バネが弱ってしまったのだ。
第二試技のカサフライさんは、一度も動かすことがないままぶっつけ本番。傾いた傘が急激に反対方向に戻り、強いフィードバックがかかってしまう。台座にぶつかってしまい、あえなく落下。違う向きの傾きであればもう少し記録がのびたのかもしれないが、記録は3秒だった。

LAST
挑戦を終えて

他チームからも賞賛を受けた
攻めたワザと挑むマインド

他チームのように、軽量化してゆっくり落とすのがセオリーなのかもしれない。しかし、はばたかせることにワクワクし、目標の150秒を夢見て最後まで浮上にこだわった。夜会当日に間に合わせたワザとチーム力は、自他ともに誇れるものとなった。

缶蹴りモンスターが教えてくれたコト
他チームからも賞賛を受けた
攻めたワザと挑むマインド

他チームのように、軽量化してゆっくり落とすのがセオリーなのかもしれない。しかし、はばたかせることにワクワクし、目標の150秒を夢見て最後まで浮上にこだわった。夜会当日に間に合わせたワザとチーム力は、自他ともに誇れるものとなった。