第一の夜
「恐竜ちゃん」缶蹴り
すべてを圧倒するために定めた三原則
「パワー 破壊 勝利」を掲げ
アジャイル開発で頂を目指す
魔改造したのは、子ども向けのおもちゃ「恐竜ちゃん」。
S津製作所として夜会に送り出した「魔砲恐竜カノンちゃん」は、
かわいらしい名前と裏腹に、とんでもないパワーを秘めたモンスターだ。
FIRST DAY
夜会の幕開け
生贄の発表、
夜会の幕が開ける
今回の夜会の生贄となったのは「恐竜ちゃん」のおもちゃ。これを魔改造し、10mの助走路を走らせながら左脚で空き缶を蹴り、最も遠くまで飛ばしたチームが勝利となる。
ただし、夜会の10日前に未就学児がその姿を見て、「恐竜ちゃんが蹴っている」と認識できなければ失格。試技は2回行われる。
発表を受けて、さっそく缶蹴り大会(何でもいいからとにかく缶を遠くに飛ばせるもの探し)を開催。テニスラケットで缶が想像以上に飛び、希望の光が見えた……!リーダー・日比柾宏が掲げた目標は「30mノーバンで飛ばして優勝!」。
ついに、夜会の幕が開けた。
メカ班・宮木孝輔
発表の瞬間は比較的まともなお題かなと安心していましたが、実際に缶蹴りをしてみたら20mちょっとしか飛ばず、どうしようかと思いました。
つまさき班・古田 匡智
すごくおもしろいお題だと思いました。メカ機構、特に缶との接点=つまさきの性能が重要になってくるだろうし、技術者としてメカ機構で負けたくない気持ちがむくむく!
PHASE1
缶蹴りはパワーだ!
シリンダ出力を備えた
機体づくりがスタート
勝負のポイントは、蹴り機構の出力と蹴り上げ角の安定性。メインとなる出力は、リーダー・日比がいきなり作ってきたハイパワーな空気圧シリンダにすべてを賭けることに。それと同時に、「缶蹴りはつまさきが一番大事でしょ!」とメンバーの一人が缶蹴り治具を自作してきたことで、メンバーのやる気スイッチがオン。脚機構、つまさき、シリンダ、制御などのチームが自然発生した。
サブリーダー・佐藤慶佳
つまさき班のリーダーの缶蹴り治具は最高でした!飽くなき探求心と好奇心で初っ端から暴走してくれて、チームに勢いを与えてくれて有難かった!
PHASE2
苦難の試作機づくり
大きな方針転換で
不穏なムードに
ようやく仕上がった試作機1号は自らのパワーで大破。強化しながら速度を出すため、設計方針は机上検討するほかなく難航。メカ班に伝える設計数値が二転三転したことで、脚機構Ver.2の設計完了の瞬間に捨てることになってしまう。メンバー間のコミュニケーション不足から一時不穏なムードが漂うも、Ver.3の実現に向けて全員のギアがあがった。
サブリーダー・大垣内 誠
加工チームがとにかく頑張ってくれました。早い時は即日納品!大量の金属加工を短い納期で仕上げて、何度も自社工場と製作室を往復してくれていました。
つまさき班・安野夢叶
試作機は壊れてしまいましたが改良するポイントを見つけることができ、破壊と改良のサイクルを続けていれば勝てる!というビジョンが浮かびました。
PHASE3
波乱の道のり
大ストローク、
超高速まであと一歩
「パワー 破壊 勝利」をスローガンにトライ&エラーを繰り返した結果、開発に遅れが生じる。一度は引っ込めた脚機構Ver.1で未就学児が「恐竜ちゃんが蹴っている」と認識できるかのチェックを乗り切った。その後の脚機構Ver.3は、これまでトライ&エラーを繰り返してきたメカ班のすべてをつぎ込んで破損しないところまで軽量化。超高速の缶蹴り実現のために、脚を大きく振りかぶりストロークの長い新型シリンダで加速させる設計となった。ただ、肝心のシリンダの開発が難航していた。
サブリーダー・佐藤慶佳
設計変更などの情報伝達が上手くできなくてチーム内の雰囲気がまたギスギス。意見をぶつけ合って解消しましたが、コミュニケーションの大切さを実感しました。
メカ班・高瀬正康
脚機構の開発には、高負荷に耐えられる部品締結手法に自社の航空工場のスプライン加工技術を利用。これでシリンダ出力を脚にまで(壊れずに)伝達できるようになりました。
シリンダ班・西浦嘉晃
エアシリンダ自体は珍しい技術ではないものの、今回の「大ストローク、超高速」なシリンダはおそらく他に例がなく、作って試してを繰り返すしかなかったのが大変でした。
制御班・原田禎之
制御ソフトウェア班は機体ができていない状態でも、メンバー各々がPC上でのシミュレートによって可能な限り先行実装をしていました。みんな意欲的に動いてくれましたよ。
スピード勝負の開発を
裏で支え続けた加工班
約250種の部品の9割を1泊2日、開発中盤では依頼当日中に全納。小さなナットまで製作しコスト削減に貢献した。金属加工のみならず、設計製図へのアドバイス、練習用コースの木工や塗装までマルチにサポート。
体育館での
つまさき実験で記録更新
地下で行った缶蹴りの成功を経て、実験場所は広い体育館へ。装置の不具合等により困難を極めたが、つまさきの軽量化、シリンダの改良、缶の蹴り位置の最適化によりゴム足で23.5mを記録した。
PHASE4
夜会前の
騒動と静けさ
ラストスパートでぶっ飛び
ようやくVer.3シリンダが完成し機体に組み込んだが、まったくパワーが出ない。そこで急速排気機構を急遽製作してアップグレードさせたのが「真・V3シリンダ」だ。最終日前日深夜に初めて20%出力での実験に成功し、缶が見事にぶっ飛んでいった。これまでの実験結果を覆すとんでもないパワーを目の当たりにして一同の胸は感動と安堵、そして勝利への期待が。モンスター誕生に逸る気持ちをぐっと抑えて、最終日は実験を我慢し、カノンちゃんを夜会へと送り出した。
制御班・廣瀬 大
制作期間が短くて最後まで全部のパーツを合体させた状態で全力の実験ができませんでした。だから本番のカノンちゃんがどれほどの能力を持っているのかデータがないんです。
リーダー・日比柾宏
機体を絶対壊さないために、最終日は実験をしませんでした。もし前日深夜の成功がなければ最終日に実験することになり、結果、壊れて本番に修復が間に合わなかったかも。
ON THE DAY
夜会当日
魔砲恐竜カノンちゃん
魔法のような科学技術、恐竜の重厚感、キャノン砲を「カノン」と可愛く言い換えて命名。「カ」に生えた牙で内に秘めたる凶暴さを表現した、ギャップ萌え系モンスター。
- 全長205cm
- 全幅40cm
- 全高70cm
- 重量16kg
- 足先の最高速度180km/h
- 助走速度3.6km/h
1脚機構
見た目から想像できない、
つよカワなガタイ
1つの動力経路で「走る」「蹴る」の2つの動作ができる“2in1構造”。走っているように見せる振り子構造と、缶を蹴る脚を大きく振り上げる伝達構造を一体化させた。高出力のシリンダのパワーを受けても“自滅しないタフさ”と“軽量化”のため、主要部品は3DCADを用いた強度解析により最適化している。
カノンちゃん開発に活かされた
S津製作所の製品
エアシリンダやゴム(ばね)の力を脚に伝達させる、ロープの強度試験で活用。
精密万能試験機
オートグラフ AGX-V2
2エアシリンダ機構
大ストローク&超高速から
繰り出す恐るべきパワー
工事現場の足場パイプ(Φ48.6mm)を自社の航空機器製造技術で精密加工した滑らかに動くエアシリンダは、1段目の排気ユニット部と2段目のシリンダ部から構成される。空気室・バルブ・シリンダを一体化した低コスト&コンパクトな構造が激しいパワーを発揮し、爆音を放ち、振り上げた脚で思い切り蹴るためのパワーを繰り出す。最大出力1500N。
3つまさき
確実に遠くに缶を蹴るための
究極の形状
脚の長さ20cmに合わせたつまさきは、足の速度を上げるための軽量化とゴムの張力、加速度1000G程度で壊れない強度を併せ持つ。実験動画をもとに蹴り足の速度、缶が飛んでいく速度、角度を計算。モンスターにふさわしい最強の缶蹴りタイミングを追求し、輪ゴムの本数や張力の改良を重ね、4本のゴムを3重巻きにしている。
4制御
すべての動きに関わる、
モンスターの心臓部
制御基板とそこに載せるソフトウェアを用意し、センサ・アクチュエータを連携させることで、吠える、走る、脚を振り上げる、蹴るの一連の動きを制御。機構設計後にセンサやモーターが増えることを見越して、余裕を持った入出力ポートとユニバーサル基板エリアを設けて対応した。夜会本番に起こりがちなセンサの誤作動対策も完璧に行っている。
CHALLENGEいざ、カノンちゃんが
夜会に挑む
CHALLENGEいざ、カノンちゃんが夜会に挑む
記録30mで優勝!
シリンダの空気漏れや脚機構の不具合が本番寸前に発覚し、修理を経てついに勝負の時間。すべてはモンスター化したシリンダのパワー次第のため、壊れるか壊れないかのギリギリを読み、第1試技は少し控えめに上限20%の空気圧(発生力300N)で挑み、20mを記録。まずは記録が出せてホッと胸をなでおろす。
第2試技は勝負に出る。上限80%の空気圧(発生力1200N)まで圧力を上げ、缶は美しい放物線を描いて30m地点に到達。シリンダの凄まじい爆音がファンファーレとなり、見事優勝を果たした。
LAST
挑戦を終えて
缶蹴りモンスターが
教えてくれたコト
最強のモンスターを生み出すべく、理論上の最適解を理屈から示し、目標実現に向けて激走。魔砲恐竜カノンちゃんは技術者たちの好奇心に火を点け、チーム一丸となる大切さと楽しさを改めて教えてくれたのだった。
缶蹴りモンスターが
教えてくれたコト
最強のモンスターを生み出すべく、理論上の最適解を理屈から示し、目標実現に向けて激走。魔砲恐竜カノンちゃんは技術者たちの好奇心に火を点け、チーム一丸となる大切さと楽しさを改めて教えてくれたのだった。