食と認知症の関係を科学する
「江別いきいき未来スタディ」が目指す健康長寿社会
認知症は、高齢化が進む日本において重要な社会課題の一つです。その予防に向けて近年注目されているのが、日々の食事や生活習慣の関係です。
2023年にスタートした共同コホート研究※1「江別いきいき未来スタディ」では、北海道江別市民約1,200人を対象に、食と認知機能の関係を10年にわたり調査しています。本研究に参画する当社は、質量分析技術を活用して血液中の認知症関連物質を測定し、認知機能低下の早期発見や健康寿命延伸につながる新たな知見の創出を目指し、分析技術の面から研究を支えています。
※1 ある共通の特徴を持つ集団(コホート)を一定期間追跡し、病気や健康状態の変化と生活習慣・環境要因との関係を調べる研究手法

認知症という社会課題に挑む「江別いきいき未来スタディ」
人生100年時代を迎えた今、健康寿命の延伸は日本だけでなく世界共通の課題となっています。日本では認知症患者は約443万人、その前段階である軽度認知障害(以下、MCI)は約558万人と推計されており※2、あわせると約1,000万人にのぼります。高齢者(65歳以上)のおよそ3人に1人が認知機能低下に関わる課題を抱えている計算です。
※2 内閣府「令和6年版高齢社会白書」第1章 第2節 高齢期の暮らしの動向(2)
こうした社会背景のもと、2023年9月にスタートしたのが「江別いきいき未来スタディ」です。北海道江別市、北海道情報大学、農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)、セルフケアフード協議会(以下、SCFC)、そして当社の5者が連携し、「高齢化社会における軽度認知障害発症リスク低減のための社会システム構築」を目指しています。

写真左から、セルフケアフード協議会 山本万里代表理事、島津製作所 山本靖則(代表取締役社長)、北海道江別市 後藤好人市長、農研機構 久間和生理事長、北海道情報大学 西平順学長
食習慣は認知機能の維持につながるのか
認知症は加齢だけでなく、食事や運動、睡眠などの生活習慣とも深く関係していると考えられています。しかし、食と健康の関係については十分な科学的根拠が蓄積されているとは言えません。

そこで研究では、食事内容や身体機能、認知機能、血液データなどを継続的に収集し、食習慣とMCI発症リスクとの関連を解析しています。
モーションキャプチャーを用いて行われた歩行動作評価の検査
採血の様子
プロジェクトでは、北海道情報大学が健康調査やデータ解析、農研機構が食生活やフレイル(加齢に伴って心身の機能が低下し、健康な状態と要介護状態の中間にある状態のこと)と認知機能との関係の研究、SCFCが研究成果の社会実装を担当しています。それぞれの専門性を生かしながら、「食」と「認知症」の関係解明に取り組んでいます。
血液の分析で認知症発症リスクの早期把握を目指す
当社が本研究で担うのは、血液を用いた認知機能低下の早期発見とデータ解析です。研究では、約1,200人の参加者を対象に、アルツハイマー病との関連が知られる「アミロイドβ」の測定を実施しています。また、体内に蓄積する糖化最終生成物(AGEs)の測定も行い、認知機能との関係を調べています。
認知症は症状が現れるより前から体内で変化が始まると考えられています。そのため、血液中のわずかな変化を捉えることで、将来的には認知機能低下のリスクをより早い段階で把握できる可能性があります。さらに、本研究を通じてMCIの新たな血液バイオマーカーの発見も期待されています。
こうした研究を支えているのが、当社が強みとする質量分析技術です。本研究では、血液数滴からアミロイドβの蓄積状況を推定するためにMALDIなどの質量分析計が活用されています。さらに今後は、LC-MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析計)を用いて血液中の代謝物などを分析し、食生活と健康状態の関係について新たな知見を得ることも期待されています。
マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計「MALDI-8020」
高速液体クロマトグラフ質量分析計「LCMS-8060NX」
当社の質量分析技術は、血液中の微量成分を可視化し、食と健康、認知機能の関係解明を支えています。
研究成果を社会へ届けるために
江別いきいき未来スタディの特徴は、研究成果の社会実装まで見据えていることです。大規模なコホート研究では、成果が論文発表にとどまるケースもあります。しかし本研究では、SCFCが中心となり、研究によって得られた知見を食品開発につなげることを目指しています。

研究によって認知機能の維持に役立つ食事や栄養成分が明らかになれば、レシピ提案や食品開発への応用も期待されています。2026年10月時点では大手食品企業10社が本プロジェクトに参画しており、研究成果を社会へ還元する取り組みが進められています。
一般社団法人 セルフケアフード協議会 - Self Care Food Council
当社担当者のコメント
人生100年時代において、健康長寿社会の実現は日本のみならず多くの国に共通する課題です。そのためには、病気になってから対処するのではなく、運動や睡眠、食事といった生活習慣を見直し、予防につなげることが重要です。一方で、食と健康の関係については十分な科学的エビデンスが蓄積されていないという課題があります。
江別いきいき未来スタディでは、約1,200人の参加者のアミロイドβを測定するなど、社会的意義の大きい研究に取り組んでいます。さらに研究成果を食品開発やレシピ提案などにつなげることで、社会実装を目指していきたいと考えています。
タイトルとURLをコピーしました


