当社製の掛図が90年を経て帰郷
福井大学から当社に寄贈

当社が1934年(昭和9年)に製造した数学教育用の掛図が、福井大学附属図書館で見つかり、90年の時を経て製造元である当社に戻ってきました。

資料館内の島津源蔵の居室で、寄贈された掛図を囲む関係者

資料館内の島津源蔵の居室で、寄贈された掛図を囲む関係者

 

教育の一端を担った掛図

寄贈された教授用常用対数表

寄贈された教授用常用対数表

福井大学附属図書館で見つかったのは、「教授用常用対数表」と「三角関数真数表」です。
昭和9年当時、当社は理科教育用の製品を制作しており、教育現場では掛図を掲示して学習していました。当社の古いカタログ「普通教育数学器械目録(No.239)」に、この掛図が掲載されており、理数教育の一端を担っていたことが伺えます。

現在、理科教育事業は当社のグループ会社、株式会社島津理化に引き継いでいます。

当社の古いカタログ「普通教育数学器械目録」

当社の古いカタログ「普通教育数学器械目録」

掛図には、「昭和9年3月 海軍機関学校」との印が押されていることから、当時舞鶴に所在した海軍機関学校に販売されたのち、福井大学の前身校である福井師範学校や福井工業専門学校を経て、福井大学に収蔵されたと推測されます。

三角関数対応表

三角関数対応表をはじめて作ったのは「三角関数の父」と呼ばれる、古代ギリシャの哲学者ヒッパルコスとされています。

寄贈された三角関数対応表、角度と三角関数の値が対応

寄贈された三角関数対応表、角度と三角関数の値が対応

三角関数対応表はどのように使われていたのでしょう。

三角関数は、距離が遠すぎて直接測定できない場所の角度や距離を計算できるため、測量や天文航法などの分野で重宝されています。

天文航法では、天体の位置から三角関数表を用いて計算して、船舶や航空機の現在の位置を特定する際に使用しています。GPSが普及する前の時代には、航海の安全性を確保するために非常に重要でした。

また、三角関数は波の性質を調べる際にも役立つことから、電磁波や音波など「波」を扱う工学・物理学にも欠かせない学問で、当社の分析装置などの製品設計にも必要です。

三角関数対応表

常用対数は、大きな数値を扱いやすくするために使われます。非常に大きな数値を小さな数値に変換することで、計算を簡略化することができるため、計算量の削減やデータのスケール変換に使われています。

今ではExcelのLOG関数や計算サイトで容易に算出できますが、昔は常用対数表や三角関数表で計算を容易にするために利用していました。

福井大学から当社に寄贈

前列中央左:福井大学の 末(すえ)信一朗名誉教授 前列中央右:当社資料館 川勝美早子館長

前列中央左:福井大学の 末(すえ)信一朗名誉教授 前列中央右:当社資料館 川勝美早子館長

5月29日には、福井大学の末(すえ)名誉教授ら関係者が島津製作所と創業記念資料館を訪れ、寄贈に関する書類が交わされました。末名誉教授は「福井大学で長年所蔵されてきた掛図が、製造元で新たな価値を見出されることをうれしく思います」と語りました。

資料館の展示で、末名誉教授が目を輝かせて見学されたのは、高速液体クロマトグラフ(LC-3A)や、そのデータ処理装置(クロマトパックC-R1A)の展示です。学生だった当時、研究室の教授に頼み込んでLC-3Aを導入してくださったという50年前の懐かしいエピソードをお話いただきました。

福井大学附属図書館で掛図が発見された際、長年の当社ユーザーである末名誉教授が図書館長を務めていた関係もあり、寄贈のご縁がスムーズに繋がりました。

末名誉教授が直示天秤の使い方を同行者に解説した

末名誉教授が直示天秤の使い方を同行者に解説した

高速液体クロマトグラフLC-3Aは、当時日本になかったポンプ方式を採用して定流量送液を実現した製品(科学機器遺産No.34)

高速液体クロマトグラフLC-3Aは、当時日本になかったポンプ方式を採用して定流量送液を実現した製品(科学機器遺産No.34)

資料館館長のコメント

掛図は、明治以降の近代教育において一斉授業の視覚教材として導入されたもので、黒板や壁に掲げて用いる大判の絵図や表などのことです。島津でも創業期から歴史や動物などの題材の掛図を販売しており、理化学教育の普及とともに広く活用されてきました。

しかし、紙製であることから傷みやすくまた大型で保管も難しかったため、現存するものは限られています。そうしたなか、今回ご寄贈いただいた掛図は、紙質の低下が進んだ昭和初期に制作され、複数の学校で使用されてきたにもかかわらず、驚くほど良好な状態を保っており、大変貴重な資料といえます。

ご縁をつないでくださった皆さまのあたたかいご協力により、“里帰り”を果たした資料を、今後は歴史資料として大切に保存・活用していきたいと思います。

 

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