科学の知識を、社会の隅々まで行き渡らせる
―島津製作所と同志社大学が共同でサイエンスコミュニケーション講座を開催―
後列左から島津製作所の竹川諒、同志社大学ハリス理化学研究所の桝太一助教、
前列左から島津製作所の山本卓志、資生堂の蓑田裕美さん、島津製作所の伊永章史
同志社大学今出川キャンパスで、サイエンスコミュニケーションを考えるシンポジウム「企業活動に生きるサイエンスコミュニケーションをつくる」が12月19日に開催され、島津製作所の社員3人が登壇しました。その様子をルポ形式でお伝えします。
サイエンスコミュニケーターとは、
科学と社会をつなぐ架け橋となる人材
情報へのアクセスが容易になり、誰もが手軽に科学に関する知識を得ることができるようになりました。その反面、科学の複雑さから間違った解釈が広がり、デマや流言に翻弄される人々が増えていることもまた事実です。そこで必要となるのが「サイエンスコミュニケーター」の存在です。
同志社大学のサイエンスコミュニケーター養成副専攻は、野口範子教授の強い思いから生まれました。野口教授は、「近年、東日本大震災の原発事故や新型コロナウイルス感染症など、科学の知識に基づいて重要な判断を迫られる場面が頻発しました。科学リテラシーを社会のすみずみまで行き渡らせることが急務です。そのために、科学と社会の懸け橋になる“サイエンスコミュニケーター”を育てることが大切であると感じ、サイエンスコミュニケーター養成副専攻を立ち上げました」と話しました。
同講座で司会を務めた、ハリス理化学研究所の桝太一助教は「サイエンスコミュニケーションとは、難しい科学知識を一般の人向けにわかりやすく伝えることに留まりません。誰に何を伝えたいのか、その相手や目的によって変化し、必要とされるスキルも変わります。今回は『実社会でサイエンスコミュニケーションがどのように活かされているのか』を考えたいと思います」と挨拶しました。
サイエンスコミュニケーターは
職業ではなく「職能」であり「役割」
冒頭で、サイエンスコミュニケーションをライフワークとして活躍している資生堂 DE&I戦略推進部の蓑田裕美さんが講演しました。
蓑田さんは、東京農工大学の農学部で卒論研究を始めた直後に担当教官から「君は研究者に向いていない」と言われたことをきっかけに人生が一変。理系の強みを生かした新しいコミュニケーションの手法である『サイエンスコミュニケーション』の存在を知り、志すようになりました。
資生堂に研究員として入社後も16年間にわたって趣味で週末にサイエンスカフェを開催するなど“筋金入りのサイエンスコミュニケーター”です。蓑田さんはサイエンスコミュニケーターについて「職業ではなく職能であり役割。誰でも得られるスキルであり、会社や部署、職種に関わらず活かすことができる」と伝えました。
「科学技術で社会に貢献する」を社是とする会社として
サイエンスコミュニケーションの在り方を考える
その後、島津製作所の社員3人が登壇し、桝先生と蓑田さんを交えてディスカッションしました。島津製作所におけるサイエンスコミュニケーションの事例として、分析計測機器のアプリケーションを紹介する「アプリケーションニュース」の発行やWebinarの開催、当社で毎年開催している技術者の祭典「テクノフェア」や、事業性を無視して広くアイデアを募集する「イグ島津アイディアソン」、社内の散らばった知見を共有する「島津ナレッジビレッジ」、科学の魅力を一般の方に分かりやすく伝えるためのアート作品「WONDER POWDER」などを紹介しました。島津社員の話を起点に、桝先生や蓑田さんが深堀し、企業活動に生きるサイエンスコミュニケーションのあり方をまとめました。
知らず知らずのうちにサイエンスコミュニケーションをしている
桝先生は「本講座の企画を進め島津製作所を取材するなかで、企業内にも様々なサイエンスコミュニケーションがあることを知りました。私は、サイエンスコミュニケーターを一言で表すと“触媒”だと考えています。触媒によって物質同士の結びつきを容易にして化学反応を速めるように、サイエンスコミュニケーターはハブでありアシストする存在です。きっと島津製作所には、本講座で登壇した方以外にも、知らず知らずのうちにサイエンスコミュニケーションをしている方が多くいるのだろうと想像すると、その奥深さを改めて感じました」と結びました。
