サイエンスアート「WONDER POWDER」
東京・六本木で日本初展示
当社デザイナーの強い想いから生まれたサイエンスアートWONDER POWDERは、今年4月のミラノデザインウィークにてSpecial Mentionを受賞しました。この賞は「没入型の体験を生み出す想像力で人々を刺激し、巻き込むプロジェクト」を評価するFuorisalone Awardのインタラクション部門で1,000以上の作品から選出された10作品の1つです。
今回は、その日本初展示となる東京・六本木AXIS Galleryでのイベント(10月11日~15日)についてご紹介します。
東京展概要と当日の様子
東京展は、国内のデザイナーをはじめ、当社製品に馴染みのない一般の方々にも当社の存在を知ってもらうことを目的に開催しました。会期中はメディアやデザイナーが多数来場し、当社は「WONDER POWDER」を通して来場者と交流しました。
AXSIS GalleryでWONDER POWDERを楽しむ来場者
展示は「アートとサイエンス・テクノロジーの融合」をテーマにした体験型アート作品です。当社の主力技術であるクロマトグラフィーの技術に着想を得た作品を前に、参加者は自由に作品に触れ、傾けてその様相を眺めたり、写真や動画を撮ったりしながら、静かでゆったりとした時間を過ごしました。
気に入った作品を何度も反転させて楽しむ来場者
we+とのコラボレーション背景と手法
「WONDER POWDER」は、リサーチと実験に立脚した手法を得意とするデザインスタジオwe+(ウィープラス)とのコラボレーションです。We+の林登志也氏は「150種類ほどの粉末素材を試し、水中での挙動が美しい素材と組み合わせパターンを選定しました。最終的に展示に使用できたのは、試した素材の1割。全く異なる種類の素材よりも、同じ種類で比重や粒度が異なるわずかな差がある粉体を混ぜた方が美しかった」と話します。
岩絵の具:山吹と岩紅
雲母:黒と白
筆者が「水以外の液体を使用することは考えなかったか」と質問すると、「水に対する粉体の挙動という同じ条件にフォーカスして、美しさを引き出したかった」(we+ 安藤北斗氏)。条件を揃えて実験を繰り返したエピソードは科学者のようで、安藤氏は「アートと科学はとても近しいものです」と話していました。
we+ 安藤北斗氏・林登志也氏
当社デザインチームの挑戦
当社デザインチームは、選定された粉末素材をどのような分析装置で調べ、分析結果を直感的に表現できるか模索しました。材料表面の凹凸を観察する走査型プローブ顕微鏡の観察結果を3Dプリンターで出力した模型は、これまでにない分析結果の表現方法です。三次元情報を得られる装置の特徴と、粉体の表面が平滑であればヒラヒラと落ち葉のように水中を舞うという特性を、組み合わせて表現しました。
当社 総合デザインセンター デザインユニット 同プロダクトデザインG 竹川諒・UX革新G 杉江智哉
プロジェクト協力者インタビュー:東洋アルミニウム株式会社
粉末材料である「クロマシャインⓇ」を提供くださった東洋アルミニウム株式会社から、パウダー・ペースト事業本部マーケティングユニットの山崎博久さん、向井理絵さんに来場いただきました。
東洋アルミニウムは、食品・医薬品・電子部品の包装材料としてのアルミ箔、化粧品や自動車の塗料の顔料・高機能性材料としてのパウダー・ペースト製品を製造しています。 今回「WONDER POWDER」に使用した干渉色アルミニウム顔料「クロマシャイン」はアルミニウムフレークをベース素材とした色素不使用のメタリック顔料で、光の当たり方によって多様で鮮やかな色調を見せます。
東洋アルミニウム株式会社の山崎博久さん、向井理絵さん。左の作品は同社の「クロマシャイン」を使用したもの
粉末素材を液体と混ぜた本作について、山崎さんと向井さんは次のようにお話しされました。
クロマシャインは製造過程で液体の状態を経るため、当社にとっては実は見慣れた光景なんです。それ故に社内でもその様相の“おもしろさ”や“美しさ”は取り上げられる機会がなく、私たち自身も何かに活用できないかと考えていました。今回このような作品にしていただいたことは、クロマシャインの今後の展開のヒントにもなり、うれしく思っています。
トークイベント <あいだ>の微粒子 「雰囲気学」とWONDER POWDER
トークイベントは、神戸雰囲気学研究所(KOIAS)代表の神戸大学大学院人文学研究科 久山雄甫 准教授をはじめ、we+の林氏と安藤氏、当社総合デザインセンターの竹川と杉江が、WONDER POWDERと雰囲気学について語り合いました。
雰囲気学とは何かというお話からはじまり、WONDER POWDERの展示から感じる雰囲気について、微粒子・時間・場所などを切り口に語り合いました。トークイベントは、時に久山准教授の大学の講義のような「雰囲気」にも包まれて、参加者の興味を引きつけました。終了後も参加者との活発なディスカッションが続き、雰囲気学とWONDER POWDERの可能性について新たな視点が広がりました。
トークイベント
神戸雰囲気学研究所(KOIAS)代表
久山雄甫 准教授
2024年度グッドデザイン賞を受賞
「WONDER POWDER」は2024年度グッドデザイン賞を受賞しました。この賞は、60年以上続く日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組みです。2024年度グッドデザイン賞受賞展(11/1~11/5、東京ミッドタウン〔六本木〕)ではWONDER POWDERのパネルが展示されました。
展示「WONDER POWDER」(ミラノで撮影)
「WONDER POWDER」制作過程
総合デザインセンター担当者のコメント
竹川諒
このプロジェクトは、島津の魅力をより多くの人々に伝えたいという想いから始まりました。国内展示後、デザイナー関係の知人から「島津のWONDER POWDERが印象的だった」という声を頻繁に耳にし、知名度やイメージの向上を実感することができました。この取り組みが、多くの方々に島津の存在を新たな視点で知ってもらうきっかけになり、とても有意義な活動となったと感じています。
杉江智哉
ミラノでの展示の評判が良く、ぜひ日本でも開催してほしいという声が多かったおかげで国内での展示を実現することができました。今回の展示ではメーカーの方も多く来ていただき、当社分析装置を使っていただいている方もおられたのですが、「分析技術をこのような形で使うこともできるんですね」と驚かれていたのが印象的でした。学生を含め様々な方に島津製作所の技術力やデザイン力をアピールできたことが良かったと思っています。