“働くクルマ”のEV化を下支えする
電動油圧システム「e-Hydro」を開発
カーボンニュートラルの実現に向けて、日本政府は2035年に新車販売するすべての乗用車を電気自動車にすると宣言しました。現在、乗用車のEV化は急速に進んでおり、その波は、クレーン車やごみ収集車などの“働くクルマ”にも押し寄せています。働くクルマのEV化が進んだ未来で必要になるのが「e-Hydro(イーハイドロ)」で、当社の油圧技術を活用して開発した、新しい電動油圧システムです。
油圧機器とは「小さな力で大きなものを動かす」
油圧機器は、ポンプやバルブなど、油の流れや圧力によって動力を伝えることで機械を動かします。最大の特徴は、小さな力で大きなモノを動かすことができることです。「密閉された容器の中で静止した流体の一部に圧力を加えると、その圧力は流体のすべての部分に等しく伝わる」というパスカルの原理を用いています。
分かりやすいのは、フォークリフトの昇降です。小さな体でありながら1トン以上の荷物を持ち上げることができるのは、油圧機器が搭載されているからです。そのほか、ショベルカーなどの建設機械、農業機械、ごみ収集車などにも使われており、産業の発展とともにその需要は拡大してきました。社会基盤を支える、まさに「縁の下の力持ち」なのです。
働くクルマのEV化の未来を見据えた「e-Hydro」
当社が開発した電動油圧システム「e-Hydro」は、新開発の専用モータと制御機器に静音油圧ポンプを組み合わせたトータルシステムです。街でよく見かけるごみ収集車が「ごみを集める」際やクレーン車が「荷物を上げ下げする」際に、「e-Hydro」が使われます。
働くクルマがEVになると、油圧ポンプの従来の動力源であるエンジンが無くなり、代わりに電動モータが搭載されます。電動モータはバッテリーから電力を供給されるため、稼働時間を延ばすためには高効率な、電動油圧システムが要求されます。
フルイディクス事業部技術部設計開発グループ副グループ長 五島代介
そこで、「e-Hydro」では油圧ポンプを動かすための専用モータを開発しました。開発したフルイディクス事業部技術部設計開発グループの副グループ長 五島代介は「動力源がエンジンからモータに変わることで、パワーの制御は格段に難しくなりました。新たにエレクトロニクスの知識が必要になったことで、メカ屋である我々にとっては非常に苦労しました。技術部門だけではなく、営業部門、生産部門が一丸となって取り組んだことで『e-Hydro』が創り出されました」と言います。
電動油圧システム「e-Hydro」(写真中央)と開発メンバー。上段左端が五島代介
「『e-Hydro』の開発はまだ道半ばです。まずは国内で、クレーン車、ごみ収集車などの働くクルマへの導入実績を積み上げ、改良を加えながら、将来は電動化が進む建機など、新たな市場へグローバルに展開していきたいです。次世代モビリティの分野は日々進化していますが、当社が培ってきた油圧技術が活躍する余地は十分にあります。新たな市場や顧客課題の解決に向け、今後も開発を続けていきたいと考えています」。
作業者に寄り添う「静音化」を実現
島津製作所 瀬田事業所内(滋賀県大津市)の油圧機器生産ライン
また、EVは運転音が静かなため、作業時の振動音が目立たないよう、油圧ポンプにはより「静かであること」が求められます。通常、油圧ポンプは内蔵された2つのギヤが噛み合う際に脈動が発生し、騒音や振動の原因となっています。今回開発した「e-Hydro」にも、当社のポンプの低騒音化を実現する独自技術「SERENADE Technologies」を取り入ており、作業時の駆動音が際立つ夜中や街中でも、騒音を低減することが出来ます。
このように「e-Hydro」は働くクルマのEV化が進む中、静かで快適な作業環境の実現にも貢献します。
「e-Hydro」開発者のコメント
「e-Hydro」は油圧ギヤポンプと専用モータ、制御ソフトウェアを組み込んだ制御機器の組み合わせで構成され、当社が長年培ってきた油圧技術の知見を活かし用途に合わせたカスタマイズをすることで、省スペースと最小限の電力消費でエンジン車と同等以上の操作性と作業効率を実現します。我々は、今後も顧客やサプライヤと一緒になって課題解決に取り組み、市場や顧客ニーズに合わせて「e-Hydro」を改良するとともに新たな価値を提供します。