「科学は実学」の精神が生んだ島津のSTEAM教育

「科学は実学」の精神が生んだ島津のSTEAM教育

「科学は実学である。人の役に立たなければ理論だけ知っていても意味がない」。これは、島津製作所の初代社長である二代島津源蔵が当時の社員に伝えていた言葉です。それから100年以上の時を経たいま、「STEAM教育」と呼ばれる「学習したことを社会課題の発見や解決に生かすための横断的教育」が世界的な広がりを見せています。

 

STEAM教育とは

STEAMとは、Science (科学)、Technology (技術)、Engineering (工学)、Art (芸術)、Mathematics (数学)の頭文字をとった造語です。これらの学問を横断的に理解し、社会とつなげて課題を見つけ、クリエイティブな発想で解決方法を見つけ出し、実践できる人材を育成するための教育です。

AIなどの技術革新が急激に進む現代において必要な力であるとして注目を集めているSTEAM教育の考え方は、1900年代初頭に「科学は実学である」と説いた二代島津源蔵の考え方とよく似ています。

17年前から開催 「島津ぶんせき体験スクール」

島津製作所では「まずは子どもたちが科学に興味を持つきっかけをつくりたい」という思いから、17年前から子ども向けのサイエンススクール「島津ぶんせき体験スクール」を実施しています。小・中・高とそれぞれのレベルに合ったコースを開発し、夏休みには京都本社や日本各地でイベントを開催。これまでに9000人以上が参加しました。

 

島津ぶんせき体験スクールの様子 その1
島津ぶんせき体験スクールの様子 その2
島津ぶんせき体験スクールの様子 その3
島津ぶんせき体験スクールの様子 その4

 

高校生向けコースに、筆者が参加してみた

ふだんは子どもたちのみに開かれた「島津ぶんせき体験スクール」ですが、従業員向けの社内勉強会として「クロマトコース」が開催されていたので、筆者(コーポレート・コミュニケーション部)が参加しました。ここからは筆者の主観をまじえたルポ形式でお届けします。

イベントルポ① 多様な職種の社員が参加

「クロマトコース」で使用するのは、島津製作所の主力製品である高速液体クロマトグラフ(HPLC)です。試料を分析してどのような成分がどの程度含まれているのかを調べることができる装置で、今回は飲料に含まれるカフェインの含有量を調べます。

社内勉強会には、新入社員や管理部門、グループ会社、生産現場など、さまざまなバックグラウンドをもった社員が参加しました。講師は、受託分析を担うグループ会社・島津テクノリサーチの社員が担当しました。 

 

多様な職種の社員が参加
講師の2人(島津テクノリサーチ)

講師の2人(島津テクノリサーチ)

イベントルポ② 「クロマトグラフィー」の原理を知る

クロマトグラフィー」の原理を知る

はじめに装置の原理を知るための実験が行われました。シリンジを使って小瓶に入った黒のボールペンのインクを取り出し、シリカゲルが詰まったパスツールピペットに入れる……ただそれだけのことなのに、デスクワークばかりの日々を送る筆者にとっては非常に心が躍る作業でした。

真剣に取り組む参加者

真剣に取り組む参加者

パスツールピペットに水を流し込むと、黒色のインクが紫、青、緑、オレンジ…と虹色に分離していきます。「一つひとつ違う色に分離されているでしょう。クロマトグラフィーとは、ギリシャ語で“色を描く”という意味なんですよ」という講師の説明に、参加者はそろって目からうろこが落ちました。

「クロマトグラフィー」の原理を知る


イベントルポ③ いよいよ装置をつかって分析!

装置の原理がわかったところで、実際にHPLCを使って市販飲料に含まれるカフェインの量を測定します。まずは試料の前処理から。

 

微細なフィルターで試料をろ過。 見えないほどの微粒子であっても取り除く必要がある

微細なフィルターで試料をろ過。見えないほどの微粒子であっても取り除く必要がある

HPLCで分析。 針が細く簡単に折れてしまいそうで、 参加者はおそるおそる作業をしていた

HPLCで分析。針が細く簡単に折れてしまいそうで、参加者はおそるおそる作業をしていた

スタートから5分ほどで測定が完了し、パソコンに波形(ピーク)が記されます。それぞれが担当した飲料のカフェイン含有量を計算して発表すると、意外にたくさんカフェインが含まれているものもあればゼロのものもあり、参加者はその結果に驚いていました。

最後に講師から、HPLCが食品や医薬品の品質管理、研究開発など幅広い分野で活躍しているという説明がありました。「百聞は一見にしかず」との言葉通り、スクールを通して知識の解像度が上がる体験ができました。

スクール参加者が島津に入社!

小学生の頃に「島津ぶんせき体験スクール」に参加し、実際に島津に入社した社員もいます。島津製作所の主力製品のひとつであるガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS)の開発を手掛ける部署に所属する福井鞠奈(2020年入社)です。

スクール参加者が島津に入社!

「両親の勧めで、ペーパークラフトの分光器をつくって光を観察するコースに参加しました。はじめて自分でつくったもので見えないものを見ることができたという経験を通して、実験の面白さに気づきました。それから学校の授業では、実験が一番好きになりました。中学生になって数学を学ぶようになってから、日常のあらゆるものが数学でなんでも表せると気付き、理系の道に進むことに決めました」。

大学では電気電子工学を学び、超音波を扱う研究室へ。「研究を通して、知識を応用すれば日常生活に役立つ製品が作れる。自分にもできるかもしれない、そういう仕事がしたいと思うようになりました」。

スクール参加者が島津に入社!

普段仕事をしているヘルスケアR&Dセンターの実験室の前で


島津製作所の装置とは無縁だった福井が入社を決めた理由の一つは、島津製作所の創業と発展を描いた漫画「島津 親子二記~信頼と情熱の軌跡」を読み、二代源蔵の『学理を教えられたらその応用を考えなくてはならない。死に学問ではだめだ』という言葉に感銘を受けたからだそう。学んだことを世の中のために役立て、新しいことに挑戦する舞台として、島津製作所を選びました。そして今、福井はGCMSの装置開発担当として働いています。

スクール参加者が島津に入社!

業界最小クラスのガスクロマトグラフ質量分析計「GCMS-QP2050」(写真中央)と開発メンバー。
下段左端が福井鞠奈。

「島津ぶんせき体験スクール」担当者のコメント

講師を務める分析技術者と協力して、コンテンツの改良を重ねてきました。特に、中身が分かりづらい分析装置の原理について子どもたちが楽しく知り、装置の意義にも気づいていただけるよう工夫しました。

活動を続けるうちに、社内からも「いつも関わっている自社の製品を、ぜひ使ってみたい!」との声が寄せられたことから、グループ従業員向けにも開催しています。参加した従業員の中からスクールの講師やボランティア活動を引き受けてくれる人が増え、科学の輪が広がりつつあることをとても嬉しく思っています。

子どもたちが科学を身近に感じ、学びが社会の役に立つことを実感いただけるよう、引き続き取り組みます。

URLをコピーするタイトルとURLをコピーしました
他の記事も見てみる