素早く提案、すぐに使える安全なデザイン
遺伝子解析装置が機械工業デザイン賞最優秀賞受賞

島津製作所 総合デザインセンター デザインユニットの御守なつのと姜慧梨

左:御守なつの、右:姜慧梨

島津製作所の遺伝子解析装置AutoAmpが、「第51回機械工業デザイン賞IDEA」において、最優秀賞(経済産業大臣賞)を受賞しました。

製品の外観とソフトウェアのUI(ユーザーインターフェース)をそれぞれデザインした、総合デザインセンター デザインユニットの姜慧梨(かん へり)と御守なつの(おんもり なつの)に、デザインにおける工夫やコロナ禍でのデザイン業務について聞きました。

 

「機械工業デザイン賞IDEA」の概要と当社製品の受賞歴

「機械工業デザイン賞IDEA」は、日刊工業新聞社が主催しています。日本の工業製品デザインの振興・発展を目的としており、1970年に創設されました。機能美やデザインのほか、品質、経済性、市場性、安全性、環境や福祉への配慮などが、専門家によって総合的に審査されます。

島津製作所が最優秀賞(経済産業大臣賞)を受賞するのは、2015年以来4度目です。今回の受賞理由はお知らせで紹介しています。

遺伝子解析装置AutoAmp

今回の受賞製品・遺伝子解析装置AutoAmp

遺伝子解析装置AutoAmpを担当したデザイナーの声

島津製作所の遺伝子解析装置AutoAmpは、PCR検査を全自動で行う、クリニック向けの装置です。リアルタイムPCR装置としては低価格で、中規模病院やクリニックなどでの使いやすさを追求しました。

装置のデザインを姜慧梨が、ソフトウェアUIのデザインを御守なつのが担当しました。2人は今回の受賞について次のように述べています。

最優秀賞という名誉ある賞を受賞できたことを大変嬉しく思っています。(御守)

感染症の流行拡大防止に貢献する製品で受賞できたのはデザイナーとして光栄です。(姜)

医療従事者の方々が安心してすぐに使えるデザイン

担当デザイナー2人が共通して挙げたデザインのポイントは、“すぐに使えること”でした。分析装置を普段使わない、多忙な医療従事者を支援するデザインを目指したといいます。

姜:「誤操作を招くようなデザインであってはならないこと」そして「安全で使いやすいこと」。これらはデザインの際に必ずクリアしなければならないポイントでした。加えて、「威圧感や不安を感じさせない、安心感を与えるようなデザイン」を目指しました。大きな曲面によって圧迫感の軽減を図り、今までこうした装置の使用機会が無かった医療従事者の方々もすぐに装置に慣れてもらえるような、やさしいフォルムを採用しました。

遺伝子解析装置AutoAmpの形状

操作性に重点を置いたデザイン

 

御守多忙な医療従事者の方々が使用するということで、ソフトウェアについては、操作ミスを防ぐこと、迷わせないことを意識しました。網羅的に様々な情報を表示する分析装置とは考え方を変えて、ユーザーの知りたい情報を明確に見せることを重視しました。文字サイズやボタンサイズにも気を配り、はっきりわかりやすく見せることを心がけました。

遺伝子解析装置AutoAmpのソフトウェアUI

表示する情報を絞って視認性を追求したソフトウェアUI

開発スピードに合わせて迅速にデザインを提案

受賞製品の開発期間は約半年ほどでした。それに合わせたスピードでデザインを提案する必要があり、今までとは異なるプロセスで走りました。

姜:緊迫した社会の状況に合わせて短時間での開発が進んでおり、デザインも迅速に対応していく必要がありました。複数のデザイン案の中から、実現性と操作性を考慮した案に早い段階で決まり、人間工学的観点に基づくデータと簡易モックで操作感を検討した後はすぐに製品化へ向かいました。通常のプロセスでは、試作機を何度も作って使用感や形状を改善することで完成度を高めます。今回は開発スピードを優先し、そうしたプロセスを設けることはできませんでしたが、今までの経験とデータに基づき、最後まで妥協せず取り組みました。急変する社会の中で、素早くデザインを進める重要性を感じました。

御守:とにかく時間が無かったことが私も印象に残っています。早く提案しないと実装に間に合わないが、十分検討できていないものを提案するわけにもいかないというジレンマがありました。時間は限られていましたが、検体の取り違えや結果の見間違えは重大な問題に繋がりかねないため、ミスなく使えるデザインにすることを最も重視してレイアウトから提案しました。頻繁なオンライン会議の中で実寸サイズのUIを画面共有し、挙がった改善点をその場で修正していったことが時間短縮に繋がりました。

遺伝子解析装置AutoAmpのデザインとモックアップ

サイズ感を素早く確認するためにモックアップは紙で制作

コロナ禍でのデザイナーの働き方

コロナ禍で人々の働き方は大きく変化しました。デザイナーにとってはどうなのか、現在の働き方について聞きました。

姜:個人的には、デザインの提案には人を説得する要素も含むため、開発メンバーと会って話す方が互いの理解が深まり、開発が早く進みます。そのため、大事な判断の際には実際に会って話をしています。ただ、在宅勤務などが増えて直接顔を合わせる機会が減ったため、オンラインツールを積極的に活用しています。短時間で開発を進める場合に、デザインの内容を素早く伝えることができて有効だと思います。今回のようなデザインに携わることで、社会の変化に常にアンテナを張り、情報を取集して素早く対応することの重要性を学びました。そして、従来のやり方にとらわれず、変化する社会に合わせ、柔軟にデザインを進めていけるように今後も努力したいと思います。

御守:オンラインでのやり取りが増えました。今回の案件は、技術部門の担当者と直接会うことが1度もありませんでした。オンライン会議は頻繁にしていたので、不便はほとんどありませんでしたが、会わないまま終わったのには少し驚きました。UIデザインはPC画面上のデータを見てもらいながら話をすることが多く、会議室で大きなモニターを一緒に見るよりも、実寸大のデザインを画面共有しながら話すことで、議論や開発を加速できていると感じることもあります。一方、実機を見ながらの議論は対面の方がスムーズだと感じることが多いので、臨機応変に組み合わせて対応していきたいと思います。

デザインは、お客様と島津製作所のコミュニケーションを深めるうえで欠かせないものです。開発における役割や国内外のデザイン賞の受賞歴をWebサイトで紹介しています。

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