Dielectric-Barrier Discharge Ionization Detectorバリア放電イオン化検出器
BIDの特徴
BIDは、島津独自の技術を採用した、新しい誘電体バリア放電プラズマによるイオン化法を取り入れた検出器です。

従来の検出器よりも高感度であり、これまではFID、TCDなどの汎用検出器では難しかった成分についても検出可能、さらに、長期安定性を保持します。
有機化合物 | ~0.1ppm (~1.5pg/sec) |
(水素使用) |
|
キャリアガス以外 すべての化合物 |
~10ppm | ||
イオン化検出器 |
He、Neを除くすべての化合物 | <0.1 ppm (<1.0 pg/sec) |
*) 測定条件・試料により異なる
島津製作所分析例による
その秘密は…
放電イオン化検出器の従来技術
励起されたヘリウムによって試料をイオン化する検出器が知られています。たとえばPDD(Pulsed Discharge Photo-Ionization Detector パルス放電型光イオン化検出器)は、以下のように試料の定量を行います。
- 1Heガス中で放電電極間にパルス高電圧を印加して、放電を発生させます。
- 2He分子は、放電によって励起状態に遷移したのち、基底状態に戻る過程で広いエネルギー範囲(17.7 eV)の紫外光を放ちます。
- 3紫外光の光エネルギーによって、試料は電子を放出しイオン化されます
(M→M+ + e-)。
(!) Heの照射エネルギーは17.7eVと非常に高く、Ne以外の試料をイオン化できます。 - 4発生した電子は、電極に取り込まれ電流として検出されます。

BIDにおける独自技術
島津製作所では、従来の検出器に独自の技術を採用してBIDを開発しました。独自の技術とは…
(1) 誘電体バリア放電方式
放電を起こすための放電電極を誘電体(石英ガラス)で覆った状態で、放電を発生させます。誘電体で覆うことで、以下の利点があります。
- 放電電流が制限され、大電流による電極や放電室の過熱が抑えられ、安定な放電が形成されます(発生するプラズマは室温に近い低温)。
- 放電により生成されたプラズマと電極とが誘電体により接触しないため、スパッタリングによる電極の損傷が起きず、優れた長期安定性を示します。

誘電体バリア放電は、前述の通り、ガス温度が非常に低いプラズマ(室温に近い低温)を生成します。プラズマを皮膚に当ててもほとんど熱を感じません。
この低発熱という特徴は、プラズマ生成部の温度変動を抑制するため、検出器出力ノイズの低減につながります。

(2) バイパス排気管 特許取得技術! 日本国特許第05136300号
プラズマ発生部と電荷収集部の間にはバイパス排気管が接続され、プラズマ生成に使われた放電ガスの一部が廃棄されるように構成されています。
放電ガス純度を保つためには、プラズマ生成部では放電ガスの流量は一定以上であることが望ましいです。一方で、電荷収集部に放電ガスが大量に流れると、試料ガスを希釈してしまうことになります。そこで、バイパス排気を設けることで、プラズマ生成部での流量を確保しつつ、電荷収集部への流量を制御することを実現しています。

- 分析例:
- →GC-BIDによる絶縁ガスSF6の分析
研究者コメント
誘電体バリア放電は、無声放電と呼ばれた頃から使われている古い技術ですが、放電によって生成される大気圧プラズマの理解が進んだのは最近のことです。共同研究先である大阪大学の大気圧プラズマに対する知見と、島津の精密計測技術をうまく組み合わせることで、この放電特性を生かした高感度イオン化検出器を実用化することができました。
当初より研究開発に関わっていただいた大阪大学の北野勝久准教授に、この場を借りて御礼を申し上げます。

研究者 品田恵
(株式会社 島津製作所
基盤技術研究所)