Nexera™ Technologies
~島津の液体クロマトグラフを支える技術~

島津のLCを支える技術

液体クロマトグラフ(LC)は、液体試料に溶解している化合物を分離し、どのような成分がどれくらい含まれているかを定性・定量分析する装置です。LCの分析では、液体試料内の成分を分離のために流す液体=移動相を、送液ポンプにより、カラム(固定相)から検出器へ一定速度で流します。
その状態で複数の成分が混合した試料をカラムに注入し、カラム内で分離した試料をカラム出口に設置した検出器でモニターすることで、成分を定性・定量分析します。

島津のLCを支える技術

LCは製薬・医薬、化学、環境、法医学など、幅広い分野の研究開発・調査等に使用されています。特に、医薬品開発の現場では、投与した新薬の薬物動態や生体内のホルモンなど血中のごく微量成分をマイクロ(100万分の1)レベルで分析する必要があり、これらを正確に検出することが求められます。
当社のLCは、そのコンポーネントの随所に、「送液技術」、「検出技術」、「波形解析技術」、「温調技術」、「液体ハンドリング技術」など、極微量分析のニーズに応える要素技術があり、当社の特許や長年の経験・ノウハウが詰まっています。

Nexera Technologies
送液技術
波形解析技術
液体ハンドリング技術
温調技術
検出技術

■ 送液技術

  • 分析環境における溶媒の送液技術では、分析精度を高めるため溶媒の流量の正確さ(分析条件として設定された流量との一致度)が求められます。当社の送液システムは、独自の送液ポンプ構造や制御アルゴリズム等により高いレベルでの流量の正確さ(例:誤差1%以内)を実現しています。
    たくさんの成分を含む試料を分析する場合、2つの送液ポンプを用いて2種類の溶媒を混合しながら送液する送液システムが有用ですが、一方の溶媒の他方への逆流は、流量の正確さや濃度比の正確さを阻害する要因となります。特に0.000001Lオーダー(µLオーダー)以下の微小な流量を取り扱う場合、流量誤差への影響が大きくなります。

    そこで、当社は、一方の溶媒のみを送液する際に、他方の溶媒を送液する送液ポンプを止めるのではなく接続を遮断することで、溶媒の逆流を抑制、これら正確さを満足できる独自の送液システムを開発しました。
    この技術を採用することで様々な分析装置における各種分析精度を向上させることが可能となります。特に液体クロマトグラフに採用するにより、分析条件通りの流量、濃度比でカラムに溶媒を供給でき、サンプルに含まれる成分を正確に分離・分析することができます。

    特許番号:特許第6696578号

  • 送液技術の図解は、以下のとおりです。

    ① 2種類の溶媒を送液する場合

    ① 2種類の溶媒を送液する場合

  • ② 溶媒Aのみ送液する場合

    ② 溶媒Aのみ送液する場合

  • ③ 溶媒Bのみ送液する場合

    ③ 溶媒Bのみ送液する場合

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■ 検出技術

  • 液体クロマトグラフで最も広く使用される検出方法は、試料に含まれる成分によって吸収される光の波長が異なることを利用します。試料が入ったフローセルを透過した光を分光器で波長ごとに分割して検出器に導入し、各光の波長や吸収量を調べることで、試料中の成分の種類と濃度を測ります。

    検出技術

    検出器には、光を検出する1,024個のフォトダイオードが25.6mmの幅のアレイ上にびっしりと並んでおり、各ダイオードは特定の波長の光を検出するよう予め設定されています。入射した光を電気信号に変換・データ処理して吸光度を測定するため、光が間違った場所に入射することなく所定のダイオードできちんと検出できることが大変重要です。
    島津は、細かいピッチで分かれた入射光が正確に検出器に入るよう、また入射光の一部が受光面で反射した光(「迷光」といい、検出精度に影響します)が再び同じ検出器に入射するよう導入する、つまり「混ざらない」ようにする独自の特許技術を開発し、試料中の成分の検出精度を飛躍的に向上させることに成功しました。
    この技術を活かしたPDA検出器を搭載した当社のLCは、多種多様なユーザの研究開発の場に、精度の高い分析結果を提供しています。

    特許番号:特許第6750733号 他

  • 検出器(フォトダイオードアレイ)の拡大図は、以下のとおりです。

    ① 分光器で細かく分けられた波長の光が検出器に入射する
    検出器(フォトダイオードアレイ)の拡大図1
  • ② 入射光の一部が受光面で反射して再び検出器内に(反射光)
    検出器(フォトダイオードアレイ)の拡大図2
  • ③ 迷光を再び所定の受光面に入射させる
    検出器(フォトダイオードアレイ)の拡大図3

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■ 波形解析技術

液体クロマトグラフで試料に複数含まれている成分を解析する際、取得した対象データは、成分の数がクロマトグラムのピーク(波形)の個数、成分の含有量がピークの面積として表されます。しかし、ある成分の含有量が極微量の場合、そのピークはとても小さいため他の成分のピークに埋もれてしまい、取得したデータの波形だけでは見つけることは困難です。一方、医薬品開発における不純物分析では2,000分の1レベルの精度で微量の不純物を検出できることが求められます。

そこで当社は、得られた各ピークに対してピークモデル(標準の波形)を順次当てはめ、その一致度を見てさらに他の成分のピークが存在しないか判定する処理を繰り返し実行する波形解析手法を開発しました。これにより、従来は埋もれていた極微量の成分のピークも識別し、含有量を解析することができるようになりました。(特許取得済)

この特許技術により、試料に含まれる不純物の有無およびその含有量を、主成分100に対し不純物0.05(2,000分の1)の精度で解析することができます。高度な不純物分析が求められる医薬品メーカの開発現場等で、この波形解析技術を搭載した当社の液体クロマトグラフが多数活躍しています。

特許番号:特許第6260709号
特願2021-156830

波形解析技術

当社独自の波形解析技術により、含有量がごく微量の成分(ピンク色のピーク)でも解析可能に

■ 温調技術

液体試料の分析は、温度変化による液体試料中の成分の変性や試料の濃度ムラの発生が分析精度に影響するため、試料を格納する装置(オートサンプラー)内だけでなく試料容器内も均一かつ一定の冷却温度に保つことが大変重要です。また、複数の試料を分析する場合や試料追加のためサンプルラックを開けた場合でも、装置内にある各試料容器内の温度ムラが発生しないよう均一かつ一定温度に保つ必要があります。

当社は、装置の後側から一定温度に冷却した乾燥空気を前側に送風し、前側に到達した空気は上昇して後側へ戻る循環を形成することで温調装置の空間内全体を均一に温調する機構(Dry Air Flow Control)を開発しました。また、サンプルラックを開閉する際には、外気が入らないよう乾燥空気を斜め上方向に吹き出すことでエアーカーテンとなり、外気侵入による温度変化や結露の発生を防ぐ構造となっています。この温調技術も、当社LCの分析精度を支える特許技術です。

特許番号:特許第7120305号 他

温調技術

■ 液体ハンドリング技術

創薬分野における特定の化合物や不純物、化学・食品分野における機能性成分など特定の目的物(液体)を抽出したい場合、液体と気体の両方の性質を持つ超臨界流体状態の二酸化炭素を用いた超臨界流体クロマトグラフ(SFC)が利用されます。もっとも、分離・抽出されて配管から出てきた溶出液を回収する際、同時に出てくる二酸化炭素と液体を適切に分離しないと、高圧下で超臨界流体状態だった二酸化炭素が一気に気化して体積が500倍に膨張する結果、対象の液体が飛散してしまい、回収率が低下するという課題がありました。(下記動画「気液分離なし」)

この課題に対し、当社は、超臨界流体が一気に配管を流れ落ちることを防ぐため、複数の細い内径の配管に分岐させる多流路分岐方式を採用するとともに、各配管の出口を円周上に並べたその中心に柱を設けて、各配管から出てくる液体を1つに集めて容易に回収できる気液分離器(LotusStream™セパレーター。図1.)を開発しました。(下記動画「気液分離あり」)

LotusStreamセパレーターの利用により目的物の回収率が95%以上に改善するなど、当社の液体ハンドリング技術が創薬分野等における微量成分の分析・回収の現場で貢献しています。

特許番号:特許第6269848号

LotusStreamセパレーターのイメージ図
図1. 気液分離器(Gas Liquid Separetor)

気液分離なし

気液分離あり

技術者の思い

フォトダイオードアレイ(PDA)検出器は、その原理上、検出精度に影響する迷光が一般的に大きくなる傾向があります。当社のPDA検出器も、迷光に由来するトラブルに度々悩まされており、入社以来PDA検出器の開発に携わる自分にとって、解決しなければいけない積年の課題でした。
そんな中、次期PDA検出器の開発プロジェクトを任され、この課題に正面から向き合うことに。いくつもの迷光低減策を試しましたが思うような結果が出ずに苦しみつつ、開発メンバーや研究部門など部署の垣根を超えた知恵も借りながら解決策を模索してたどり着いたのが、「迷光を減らすのではなく、再利用する」という発想の転換でした。
数多くの設計変更に、新たな分光器の開発も必須となり、プロジェクトの計画変更を余儀なくされましたが、何とか製品化を実現させることが出来ました。販売後数年が経った今も、迷光由来のトラブルもなく、競合と比較しても優位な検出性能を維持しています。
近年では、性能面はもとより、分析装置の使用者や使用環境に起因する課題を解決する「誰でも、どこでも、使える装置」が求められています。ユーザーインターフェースの発展と共に、より堅牢性の高い装置の開発は易しくはありませんが、島津のLCを支える技術者として、正面から向き合い開発に取り組んでいきます。

開発者

開発者 渡邉 真人
(分析計測事業部 ライフサイエンス事業統括部
LCビジネスユニット)

Nexera Technologiesが搭載される島津製品

送液や検出、波形解析、温調、液体ハンドリングなどの要素技術が、当社のLCに搭載され、精確かつごく微量な解析が求められる医薬品、食品、環境、化学工業分野等で多数活躍しています。