島津評論 Vol.82[1・2](2025)
創業150周年記念特集 社会に貢献する科学技術

特集論文

量子赤外分光の拡がりと全反射測定法の適用

徳田 勝彦1久光 守1若林直樹1勝 秀昭1長田 侑也1太田 宏2栗田 寅太郎3田嶌 俊之3向井 佑3岡本 亮3竹内 繁樹3東條 公資1

島津評論 82〔1・2〕 117~124 (2025)

要旨

量子力学が誕生して100年の節目を迎える。量子コンピュータ,量子情報通信,量子センシングなどの量子技術の開発が国内外問わずに活発に行われている。本稿では,量子センシング技術の一つである量子もつれ光子対を利用した赤外分光計測を紹介する。この計測法は,光子対の量子もつれ状態を利用し,可視検出器で赤外吸収分光が行える新しい手法で,可視検出器の高い感度とダイナミックレンジが活用できるこれまでにない分光が期待されている。京都大学の竹内繁樹教授のグループをはじめ,ドイツのフラウンホッファー研究所やシンガポールの研究機関などが技術を競っている。島津製作所は,本分野で最先端技術を研究されている京都大学の竹内グループと共同してこの原理を用いた量子赤外分光装置の開発に取り組んでいる。量子もつれ光子対の発生およびそれを利用した赤外分光技術を示し,さらに最新の全反射測定法(Attenuated Total Reflection:ATR)による量子分光を紹介する。ATR 法は,プリズムに試料を押しつけるだけで簡便に計測ができ,従来の透過法では赤外光がほとんど吸収され測定できない試料にも適用可能なため,量子赤外分光の応用を広げる技術として期待されている。


1基盤技術研究所先端分析ユニット
2産業機械事業部技術部
3国立大学法人京都大学大学院工学研究科

*島津評論に掲載されている情報は、論文発表当時のものです。記載されている製品は、既に取り扱っていない場合もございますので、ご了承ください。