島津評論 Vol.82[1・2](2025)
創業150周年記念特集 社会に貢献する科学技術

特集論文

質量分析イメージングを用いた酵素組織化学:医学から食品,植物科学への応用

新間 秀一1,2,3山本 卓志4

島津評論 82〔1・2〕 27~34 (2025)

要旨

本稿では,質量分析イメージング(mass spectrometry imaging:MSI)を用いた酵素組織化学の進展と応用を概説する。この革新的な技術は,従来の組織化学法では困難であった酵素活性のin situ 可視化を可能にし,医学,食品科学,植物科学といった多岐にわたる分野で新たな知見をもたらしている。本稿では,まず医学・食品分野におけるMSI 酵素組織化学の概要を,コリンエステラーゼ,コリンアセチルトランスフェラーゼ,ジペプチジルペプチダーゼB の研究例をもとに紹介する。続いて,植物科学における詳細な応用例として,マメ科植物,オオムギ,バナナにおけるiMScope™ QT を用いたグルタミン酸脱炭酸酵素活性の可視化研究を詳述する。これらの研究は,MSI 酵素組織化学が,発芽やストレス応答,成熟といった生命現象における酵素の役割を解明するための強力なツールであることを示している。


1大阪大学大学院工学研究科生物工学専攻博士(理学)
2大阪大学先導的学際研究機構 産業バイオイニシアティブ研究部門
3大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所
4分析計測事業部Solutions COE ヘルスケアソリューションユニット

*島津評論に掲載されている情報は、論文発表当時のものです。記載されている製品は、既に取り扱っていない場合もございますので、ご了承ください。