特集論文
島津評論 81〔1・2〕 77~88 (2024)
要旨
光格子時計は,現在の「秒」の定義であるセシウム原子時計より100~1000倍の精度を実現可能なきわめて高精度な時計であり,次世代の「秒」の定義の候補になっている。この精度の時計は,時間の計測だけでなく,精密に時間を測定することで相対論的な効果を利用した高低差測定などの物理計測ツールとなるため,フィールドで動作可能な可搬型光格子時計の開発が進められている。
著者らは,可搬型ストロンチウム光格子時計の製品プロトタイプ機を開発した。開発した光格子時計は,装置の構成要素を小型化することで体積250 L を達成し,光学系と制御系を機能ごとにモジュール化することによって,組立・メンテナンス性を向上させた。また,搭載しているトランスファ共振器の安定度を向上させ,時計レーザの安定度1.2×10-15(平均化時間1秒)を達成した。このことは,光格子時計の信頼性と可搬性を向上させ,フィールドで動作する可搬型光格子時計の実用化を前進させるだけでなく,長期安定稼働が求められる標準時分野や通信分野への応用も期待される。
1基盤技術研究所先端分析ユニット
2分析計測事業部Solutions COE マテリアル/ インフラストラクチャーソリューションユニット
3基盤技術研究所先端分析ユニット博士(工学)
4理化学研究所香取量子計測研究室博士(工学)
5東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻
6東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士(工学)
*島津評論に掲載されている情報は、論文発表当時のものです。記載されている製品は、既に取り扱っていない場合もございますので、ご了承ください。