島津評論 Vol.78[3・4](2021)
特集 先端技術開発

特集論文

18桁精度の可搬型光格子時計を実現したレーザ制御装置の開発

村松 尚1酒井 裕也1古宮 哲夫2高本 将男3大前 宣昭4牛島 一朗5香取 秀俊6

島津評論 78〔3・4〕 223~234 (2021)

要旨

光格子時計は,次世代の秒の定義の候補にもなっているきわめて高精度な時計である。時間の計測だけではなく,精密に時間を測定することで相対論的な効果を利用した高低差測定などの物理計測にも応用ができるため,フィールドでの利用に向けた装置の可搬化が切望されている。これまで光格子時計は複雑で規模が大きいため,実験室外での安定した運用は困難で,小型化と高精度化の両立は実現できていない。著者らは,不確かさ5.5×10-18の高精度な可搬型ストロンチウム光格子時計を開発し,島津製作所は光格子時計用のレーザ制御装置の開発を担当した。開発した2 台の光格子時計を東京スカイツリーの地上1階と天望回廊にそれぞれ設置して,高低差に対する時間の進み方の違いを測定し,実験室外で18桁精度の光格子時計を運用可能であることを実証した。このような光格子時計の可搬化と実験室外での連続運用における安定性向上の取り組みは,相対論的な物理計測をはじめ,新たなタイムビジネスへの応用展開が期待される。


1島津製作所 基盤技術研究所 先端分析ユニット
2島津製作所基盤技術研究所先端分析ユニット博士(工学)
3理化学研究所 香取量子計測研究室 専任研究員 博士(工学)
4福岡大学 理学部 物理科学科 准教授 博士(科学)
5東京大学 大学院 工学系研究科 物理工学専攻 講師 博士(工学)
6東京大学 大学院 工学系研究科 物理工学専攻 教授 博士(工学)

*島津評論に掲載されている情報は、論文発表当時のものです。記載されている製品は、既に取り扱っていない場合もございますので、ご了承ください。